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シネマde憲法
映画『馬三家からの手紙』(原題:LETTER FROM MASANJIA)
 花崎哲さん(憲法を考える映画の会)


 この映画を解説することが、ある意味で辛いのです。
 もともと今の「嫌韓・嫌中」に与するのはいやだ、という気持ちがあったので、どこの国の人とも仲良くしたい私としては、それらの国に対しての批判はあまりしたくないという気持があったからです。言われるようなこと(中国国内での反体制活動家に対する弾圧)は「あるかもしれない」が、言われることの中には別の意図があって宣伝に使われはしないか、そう自分の中で思う気持ちがあったからです。
 「市民への弾圧」、それが自分に向けられて来ない限り、所詮、対岸の火事。そう思っている気持ちを自分の中で許していないか、しかし「それでいいのか」というものを突きつけてくるのがこの映画でした。

 ドキュメンタリー映画としても、また告発映画(そういうジャンルがあるかどうかわかりませんが)としても、あるいは現在進行中の事件を捉えた映画としても、この映画の作り方は新しいと思います。
 撮影者は、自分自身の行動と自分に降りかかってくるもの、不安を押しつけてくるものに対してひたすら記録し続けるばかりです。「自分の今の不安がこの先どうなるのか」、あるいは「自分の身体、生命がどうなるのか」わからないまま自分自身の映像を撮り続けています。
 自分が体験したこと、そして今、置かれている、包まれている状況を、その撮りためた映像を、誰かが編集し、世の中に出し、より多くの人に知らせてくれることを信じて、隠しカメラをまわし続けるわけです。収容所(馬三家労働教養所)の中で、自分に襲いかかってきた凄惨なことをマンガのような絵に描いて伝えようとします。
 それは、ちょうど馬三家労働教養所の中で、拷問を受けながら「助けて」のメモをハロウィーンの飾り箱に隠したような、ひたすらあてのない行為でもあります。

 米オレゴン州に住む女性ジュリー・キースがスーパーで購入した「中国製」のハロウィーンの飾りの箱に忍び込まれたSOSの手紙を見つけるところから「馬三家の手紙」は始まる。手紙は政治犯として捉えられた孫毅(スン・イ)が中国で恐怖の城と言われた馬三家(マサンジャ)労働教養所の中で書かれたものだった。8000キロ以上の旅を経てクシャクシャになった紙には、信念のために収監され、拷問・洗脳されている状況が詳細に書かれていた。このメッセージは次々と広まり、中国の労働教養所制度を閉鎖させるまでに至った。しかし、これでストーリーは終わらなかった・・・(公式ホームページ「あらすじ」より)

 この映画の多くの部分の撮影者であり、主役でもある孫毅(スン・イ)は、いかにも実直そうな、ごくどこにでもいるようなおじさんです。表情もいつも困ったような弱々しいものです。拷問に耐え抜いた闘士といった風情はありません。特別なことのない、特殊な力を感じさせない彼が、「法輪功」という気功修練法の教えを学んだという理由だけで、2年半、馬三家労働教養所に送り込まれ、拷問を受け、生死をさまようことになります。
 かれが飾り箱に手紙を隠さなければ、そのことは中国に住む人にも、世界中の人にも隠されたままでした。
 そしてそれは、たとえば戦前の日本の治安維持法によって弾圧された大本教のように、既に過去の歴史になっているのではなく、何も解決されないまま、現在も続いているものなのです。知らされることもなく、知ろうともされないままに。

 そこに穴を開けたのが、ハロウィーンの飾りの箱に忍び込ませた「手紙」であり、この映画なのです。何も解決されていないし、映画の最後で、その後の孫毅(スン・イ)が真相のわからない死を遂げたことも告げられますが、もっともっと多くの犠牲者が今もあてのない訴えが続けられているのだろうことが想像されます。
 救いのない話ですが、信念を持って訴えていくことによって、そのむごい世の中も、それをさせている政治も、ちょっとずつ、ほんのちょっとずつでも、変わりうるということが、この映画の救いでしょうか。
 おそらく「『助けて』の手紙」が通じたことが、この映画を撮り続ける原動力になったのでしょう。そこには、「自分に不都合な、見たくないことであっても、聞きたくないことでも、知ろうとし、考えていかなくてはならない」というメッセージが込められているように思います。

 この映画をまとめた監督のレオン・リーはそのプロフィールの記事の中でこう書いています。「言語と文化を越えて共鳴する個人多岐な真実の話にスポットライトを当て、声なき人々が声を上げる機会をもたらすことを、映画制作者として目標に掲げている。」その姿勢に共感します。告発して知らしめたから終わりではないのです。これを見た人は、それぞれ、自分たちの足元から周りを見回し、今まで、知ろうともしていなかった問題がないか、考えてみましょう。

【スタッフ】
監督:レオン・リー(LEON LEE)
脚本:ケイラン・フォード レオン・リー
編集:パトリック・キャロル
撮影監督:サン・イー マーカス・ファン
共同プロデューサー:メリッサ・ジェームス ケイラン・フォード
音楽:マイケル・リチャード・プラウマン
インタビュー:サン・イー ジュリー・キース 福寧(FU NING)
アシスタント・プロデューサー:JACEY SHI YU TIAN LILI CHEN EILEEN XING ZHIWEI HE 
CAI JING JOYCE YANG SONIA XIE HUA SUN TING ZHAO
カメラオペレーター:匿名
アートデレクション:JEAN-SEBASTIEN LAVOIE
コンセプトアートワーク:SUN YI
イラストレーション:JEAN-PHILIPPE MARCOTTE
アニメーション:LUKA GROULX NOAH RUSCICA
スクリプトエディター:BRETT PRICE
ロケーションサウンド:JACEY SHI
オンラインエディター/色補正:CHRIS MACDONALD
オーディオポストプロダクション:PINEWOOD SOUND YVONNE FANG YAN LIN
翻訳:AMY LIEN CHEW BOON KIANG LEO CHEN SOCO TSENG RICHARD A. LYONS
サウンドスーパーバイザー・ダイアローグエディター・リーレコ・ミキサー:RANDY KISS
SFXエディター:SCOTT KOLDEN
Foley Artist:JASON COLE
リーレコ・ミキサー:RANDY KISS
フォーリーレコーダー・リーレコ・ミキサー:MICHAEL MACDONALD 
Titles / Graphics:SARAH CLARK
Location Liaison:AKWANG GO NEVA ANABEL GO
Legal Affairs:LORI MASSINI
Transcription:DOUG WARAKSA
Special Thanks:ANONYMOUS BIG APPLE STUDIO MARCUS GREEN OTAB WILLIAM
製作:フライング・グラウド・プロダクション

【登場人物】
孫毅(スン・イ)
Julie Keith(ジュリー・キース) 米オレゴン州に住む女性。
付寧(フ・ニン) 孫毅の妻 
江天勇(ジアン・ティエンユ) 人権弁護士
カナダ映画/2018年制作/78分

【配給】
株式会社 グループ現代
〒160-0022 東京都新宿区新宿2-3-15 大橋御苑ビル7F Tel: 03-3341-2863

公式ホームページ
予告編

【上映情報】
2020年3月21日(日)〜  K’scinema(新宿)  
2020年5月2日(土)〜  シネ・ヌーヴォ(大阪)
2020年5月2日(土)〜  京都シネマ(京都)
近日公開 元町映画館(京都) 名古屋シネマテーク(名古屋)
上映情報 


 

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