映画『ようこそ、革命シネマへ』(原題:TALKING ABOUT TREEES)
「市民運動、政治活動に映画の上映を利用しよう」と考えている私たちとしては、この映画の題名とキャッチフレーズ「もう一度、愛する映画を、みんなで。」は、見過ごせません。
映画を見始めた時には「映画の仕事をリタイアした4人組の年寄りが、もう使われなくなった屋外映画館を再建・復興する」くらいの話かな、と思っていましたが、そんな「ほのぼの」だけの物語ではありませんでした。
映画そのものを作れなくなったスーダンの政治状況、表現の自由を抑えつけられた結果、上映も含めてこの国からすべての映画が無くなった歴史があったのです。
【あらすじ】
2015 年、スーダンの首都ハルツーム近郊。ここではたびたび停電が起こり、すでに何日も電気は復旧しないままだった。とある場所に集まっていたイブラヒム、スレイマン、マナル、エルタイブの4人は、暗闇に乗じて、映画撮影の真似事を始める。それは、アメリカ映画史に残る傑作『サンセット大通り』の名ラストシーンだった。
そろそろ 70 歳を迎えようとしている4人は、1960〜70 年代に海外で映画を学び、母国スーダンで映画作家として活躍していた45 年来の友人だ。1989年に映画製作集団「スーダン・フィルム・グループ」 を設立するが、同じ年、クーデターにより独裁政権が誕生し、表現の自由も奪われてしまう。ある者は亡命し、ある者は思想犯として収監されるなど、長らく離散していた4人だったが、母国に戻り再会を果たす。しかし、すでに映画産業は崩壊し、かつてあった映画館もなくなっていた。
郊外の村を訪れては、細々と巡回上映を続けていた4人だったが、長らく放置されていた屋外の大きな映画館の復活を目指して動き始める。「愛する映画を再びスーダンの人々のもとに取り戻したい」———4人は映画館主や機材会社と交渉し、“映画館が復活したらどんな映画を観たいか?”と街の老若男女にアンケート調査を取るなど、着々と準備を進めていくのだが…(公式ホームページ『ようこそ、革命シネマへ』あらすじ より)
東アフリカのスーダン国は、植民地支配から独立した1956年以来、民主主義、軍事・独裁政権、民主主義、独裁政権…という繰り返しを、三度も繰り返して来ました。(そしてこの映画の作られた後の2019年にも三度目の革命が起きました。)
その間に、映画の製作に携わる彼らに加えられた弾圧があります。しかしそれらについてこの映画はあまり説明しようとはしていません。彼らも多くは語りません。
ほこりをかぶった映画館のステージの掃除、スクリーンの補修、使えなくなった映写機材やフィルムのチェックなどといった上映のための準備作業をしながらの冗談交じりのおしゃべりの中に、「あの時代」の厳しさ、そしてなお困難の中で上映を続けようとする彼らの映画に対する愛情がにじみ出します。
一人一人映像に対する、内に秘めた思いと「こだわり」がすごく強い。補修や機材・資材購入の経費はどうするのか、行政がどうの、助成金はどうの、そうした中でももっとも強い「こだわり」は、自分たちの映画制作を抑えつけてきた権力の力は借りないという所にあるようです。
「お偉いさんには関わりたくない」「自分たちの力で」という姿勢が、硬い芯のように一本通っていることがわかります。それらは何度も作っては、奪われてきた「民主主義」をまたどのように作り直していくのかにあるようです。
古い使われなくなった映画館を使うことの許可申請を役所にとるのですが、あちこち部局をたらい回しにされます。そして……「国家安全保安局、そーら出てきたぞ」「彼らは映画が何かを隠していると思っている」
軍事政権、独裁政権にとって市民が新しいことをやろうとすることも、映画を見に人々が集まることも権力の意のままにならないことは、危険なこと。検閲とはそういうものなのでしょう。検閲は、権力の側の恐怖心の表れです。権力者が恐れているということはまた、自分たちがやろうとしていることが権力者を脅かしているものだということの確認にもなります、それはまた新しい革命なのでしょう。
その「革命」をめざす4人組を力づけているものは何でしょう?
青空映画館の再開を前に「みんなの見たい映画を選んで上映します」とサッカーを興じている少年たちや街の老若男女にアンケートをします。「映画館が再開したら最高だよ」「家で一人でいるよりみんなといっしょがいい」「感想を言いあって、一緒に笑えるのがいい」そう答える少年たちの顔を見ていると、「この子たちに映画を見せたい!」という気持ちが私たちにも沸き上がってきます。
これはドキュメンタリー風につくった劇映画なのかなと思ってはじめは見ていました。それ位、きちんきちんと画面がとらえられていて、端正で的確な話の運びなのです。彼ら一人一人の「思い」がどのようなものか、十分に考えさせる「間」の取り方、上映会の準備の進行と共に進む話の組み立て方、編集の巧みさがそれを実現させます。
この映画は、実際には国内での映画の上映を知らないで育った世代の監督によって作られたものです。そこに「映画」の拡がりと希望があるような気がします。老映画人たちに密着して自分の知り得た彼らの情熱、これからどうしたいかを知らせることの喜びが映画の明るさと拡がりになっているように思います。
「政治的映画なのでしょうか?」インタビューで聞かれて、監督のスハイブ・ガスメルバリはきっぱりと答えます。「もちろんです!この映画は、抑圧的な国家からあらゆる重圧や束縛を受けた4人に捧げられています。彼らは、そしてこの作品もですが、国家の影響力を退けようと試みています。」
【スタッフ】
監督・脚本:スハイブ・ガスメルバリ
撮影:スハイブ・ガスメルバリ
編集:ネリー・ケティエ グラディス・ジュジュ
制作:マリー・バルドゥッキ
【キャスト】
イブラヒム・シャダッド
スレイマン・イブラヒム
エルタイブ・マフディ
マナル・アルヒロ
ハナ・アブデルラーマン・スレイマン
2019年/ドキュメンタリー/フランス=スーダン=ドイツ=チャド=カタール/アラビア語/97分
原題:TALKING ABOUT TREEES
公式ホームページ
予告編
上映情報
神戸アートビレッジセンター 6月13日〜26日
名古屋シネマテーク 6月27日〜7月3日
横浜シネマ・ジャック&ベティ 宇都宮ヒカリ座 京都みなみ会館 第七藝術劇場 (大阪)で近日上映