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シネマde憲法

映画『THE CROSSING 〜香港と大陸をまたぐ少女〜』(原題:過春天)

 花崎哲さん(憲法を考える映画の会)



  このところ、個人的に台湾、韓国、中国、香港と東アジアの若い人たちのことを描いた映画を見る機会に恵まれています。それらはドキュメンタリーであったり、劇映画であったり描き方はさまざまですが、それらの多くは、若い女性の監督が同世代、あるいは少し下の世代の若い人たちを描いたものであることに気がつきました。
 それぞれに国や社会の制度や形式の違いがあるにしても、若さ特有の“成長”とそこにある“屈託”をにじませているものが多いことに気づきます。その“屈託”は、若い世代が、これから自分たちがどのような「社会」に出て行くのか、あるいはその社会を変えて、つくりだすことになるのか、それを自覚しない“摩擦”のようなものなのかもしれません。
 そして、同じ若者でも、描く対象が男性の場合、大人社会に組み入れられることへの「抵抗」という形が多いのですが、女性の場合は、状況としてはより不自由であっても、気持ちの上では男性より自由なのかもしれないという気が(映画を見ていると)してきます。ひょっとしたら、若い人たちを描いていく上でも、今の時代は、作り手が女性の方がそうした「変えていこう」とする意識は高いのかもしれない、そんなことを感じました。

【STORY】
 香港出身の父と中国大陸出身の母を持つ16歳の高校生ペイは、毎日、深圳(シンセン)から香港の高校に通っている。
 香港で家庭を持ちながらトラック運転手として働いていた父親ヨンと、出稼ぎに出ていた母親ランが出会い、ヨンは愛人としてランと親しくなりペイが生まれる。景気も悪くなると、ランはヨンを香港に残し、ペイを連れて深圳に2人で暮らす。
 家族がバラバラで孤独なペイにとっての心の拠り所は、親友ジョーと過ごす時間。2人は北海道旅行を夢見て、学校で小遣い稼ぎをしていた。
 ある日家に帰る途中、香港と深圳の間でスマートフォンの密輸グループに巻き込まれるが、すぐにお金を稼ぐことができると知るとペイはお金欲しさに親友ジョーの彼氏ハオに頼んで密輸団の仲間に入り、危険な裏の仕事に手を染める。
(公式サイト『THE CROSSING 香港と大陸をまたぐ少女』STORYより)

 「援助交際」などという言葉が騒がれたころの日本の少女達のことをふと思いだしました。それは、けして彼女たちが自分たちの行為に“目的”があるわけでなく、金を得る“手段”の一つであること。ここでは「日本に行って、降る雪を見たい」とか、「温泉に入りたい」というたわいもない目的です。それもペイにとっては、むしろ友達との関係をよく保ちたい気持ちから“夢”を実行するために「金」がいるということです。その金を得るために思いのほか、自分にできることが身近にあったということでiPhoneの“密輸”に加わることになります。
 そこには、中国本土(大陸)と香港という「一国二制度」という特殊な状況があります。その境界をペイは越境通学という形で日常的に行き来しています。しかし、ペイの周辺には、香港と深圳という街の境だけでなく、いくつもの境界があります。親友ジョーとの境遇の違い、つまり富裕層と貧困層、バラバラな家族の間を行ったり来たり、さらにふだんの通学という日常と、そこから生まれた“密輸”という犯罪。その間で、境界を越え浮遊しているのです。
快活でさわやかな少女の内面に、そうした寄る辺ない、居場所のない孤独、不安があることを感じさせます。
 しかし映画の作者は、そうした苛酷な境遇、希望が見いだせない特殊な状況だけを描こうとしているのではないでしょう。その中にあって、必死で、我慢強く生きて、走り抜けて、自分の運命が積み上げた障壁を打ち破ろうとしているのがわかってきます。

 原題「過春天」、「春を過ぎる」という言葉は、実は密輸業の業界用語で「密輸品が無事に税関を通り抜けた」という意味だそうです。「現実の生活の中でも、ロマンチックなものの陰に往々にして複雑な社会の現実が隠されている」と監督のバイ・シュエさんは話しています。
「映画全体が語るのは、一つの選択の過程で『春を過ぎる』過程です。それぞれも成長の過程で何かを通り過ぎるのかもしれません」と。
 私も、主人公の少女達の日常に、ロマンチックな青春を思い浮かべてこの映画を見ようとしたのですが、そこに複雑な社会や人生の屈託を読み取り、想像し、確認するきっかけをもらえたように思います。

【スタッフ】
監督:バイ・シュエ(白雪)
ゼネラルプロデューサー:チェン・ジエンフォン(鄭剣峰)
製作:スン·タオ(孫陶) ハー・ビン(賀斌)
脚本:バイ·シュエ(白雪) リン・メイルー(林美如)
撮影:プー・ソンリー
美術:チャン・ジャオカン
録音:フォン·イエンミン(馮彦銘)
音楽:カオ·シャオヤン(高小陽)リー・ビン
調色:チャン·ハン(張亘)
編集:マシュー・ラクロワ リン・シンミン ツァイ・イエンシャン
エクゼクティブプロデューサー:ティエン・チュアンチュアン(田壮壮)
配給:チームジョイ

【キャスト】
ホアン・ヤオ(黄堯):ペイ役
スン・ヤン(孫陽):ハオ役
カルメル・タン(湯加文):ジョー=親友役
ニー・ホンジエ(倪虹潔):ラン=母親役
リウ・カイチー(廖啓智):ヨン=父親役
エレン・コン(江美儀):ホア=密輸グループ女ボス役
チアオ・ガン(焦剛):シュエイ=密輸グループ受け手役
2018年製作/99分/中国映画

【公式サイト】

【予告編】

【上映情報】TOHOシネマズシャンテほかで公開中


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