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シネマde憲法

映画『シスターと神父と爆弾』(原題:THE NUNS, THE PRIESTS, AND THE BOMBS)

 花崎哲さん(憲法を考える映画の会)



 事件後の議会公聴会で、議長がシスター達にこう言う場面があります。
 「核兵器用のウラン貯蔵施設の安全管理がいかに杜撰であったか、ということを知らせてくれたみなさんに感謝します。」それに対して82歳になるシスターは毅然として言います。「そんなものに感謝してもらってもうれしくない。感謝するなら核兵器を廃絶するために立ち上がったことに感謝して欲しい。」

【作品解説】
 2012 年 7 月。米国最大の核兵器用ウラン貯蔵庫敷地内への侵入事件があった。
主犯は 82才のカトリック修道女と神父たち。彼女たちは、射殺されるかもしれないゾーンに忍び込み、身を隠さずに4時間も歩き回り、やがて逮捕される。侵入者たちの裁判で明らかになったのは、核施設のありえないほどのずさんな管理実態。
 米国中を震撼させた事件の侵入者たちに、裁判官の投げかけた言葉とは。宗教者たちのユニークな反核平和活動と、米国の裁判シーンが興味深い。」(「被爆者の声をうけつぐ映画祭2020」のプログラムより)

 「直接行動」と「法」ということについて、まず考えさせられました。
 言葉だけでは何も変わらない。変えることができない、そうした絶望的な情況の中で、やむにやまれぬ気持から行動を起こす。とにかく無差別大量殺戮核兵器による人類の危機が迫っている。そのための直接行動は非暴力、無抵抗と言っても、触法スレスレ、それをも超えて「違法」の抗議行動です。「法とは何か」を考えさせられました。映画の中でも「通常の政策で、核兵器を止めることはできない。基地の中で非暴力の行動をする」という言葉が出てきます。国の、人類のために自分にできることは何か、法を犯すことにひるんではならない。
 ふと、『ニッポンの嘘』という作品の中で、報道カメラマンの福島菊次郎さんが「問題自体が法を犯したものであれば、報道カメラマンは法を犯しても構わない」と言っていたのを思い出しました。そこに共通するものを感じました。

 「信念」についても考えました。死を覚悟して、あるいは予想しての行動への強い信念です。実行する前、それぞれが遺書を書いていたと言います。「正しいと思ったこと、自分がやらなければならないこと、自分にできることは何か」を考え抜いた後の行動への信念です。裁判になっても、刑務所に入れられたとしても止めない、続けていく。
 つい自分たちだったらどうだろう、と、自分たちのふがいなさを振り返えさせられます。行動を考える前に、何も変わりっこないとあきらめてしまう。仮に行動を起こしたとしても、(結果的には完全に負けてしまっているものであっても)「やることはやったのだから」「声を上げたのだから」と言い訳をして、それに満足してしまうことがあまりに多いのではなかろうか…。
 自分がめざしたものが達成するまではやり続ける、ひとりでもやる、知恵を絞って行動し続ける。そうした信念と執念に敬服すると共に、この映画を見ると、自分の活動や行動を見直すことを迫られます。

 ほんとうに穏やかな、いいお顔をしたお年寄りが頑張って、頑張って、ころがされても、後ろ手に縛られても、不屈の闘志で、また同じことを繰り返します。それも、とても物静かな表情で闘いぬく。怒りにまかせて罵声を浴びせるといったようなとんがったガチガチの行動ではないのです。基地内への侵入が見つかれば、ほとんどその場で銃殺されてもしかたないという覚悟の抗議行動です。宗教でよく言われる「受難」という言葉が頭に浮かびました。
 それはそれまで、神父、修道者として、人のためにと生きてきて、親しまれ、尊敬されてきた人の落ち着いた行動なのでしょう。どうしても宗教者の起こした直接行動ということで、特殊な話としてとらえがちです。しかし、だからこそ世間は驚き、戸惑い、その反響も大きく、法によって彼らを裁くことが躊躇あるものであったのでしょう。その辺り、彼らの行動を受け止める側も、宗教が生活と意識の中に生きている人々と、宗教心というものをあまりベースに持っていない私たちの違い、それはいったいどのような違いなのかと考えさせられました。

 神父の部屋や、反核兵器の会合を開いている部屋などに千羽鶴が飾ってあるのを映画の中でいくつも見かけました。ヒロシマの運動の象徴でしょう。そのことからも、日本の被爆者達の運動と深い関わりがあることがわかります。彼らの行動にそのきっかけとなり、大きな影響を与えたのが、被爆者をはじめとするわが国の原水爆禁止の運動や被爆者の写真、国連などでの被爆者の訴えであることを知りました。やはり核が何ものであるかを知らせるために、日本からもっともっと発信していかなければならないとつくづく思います。
 彼らの行動を追ったこの映画の中でも、5人の闘士のうち、2人がすでに亡くなっています。映画の中でも彼らの周りにも若い人はあまり多くはなかったように思えます。若者のひとりが、彼らの活動を通して知ったヒロシマのことは「学校では学んでいなかった」と語っていました。
 それは私たち日本人の場合なおさら痛切です。私たちはヒロシマ、ナガサキ、オキナワで起きたことを身の回りの人たちに知らせてきたのだろうか。これまで自分たちの中ではそれを常識ではないかと思ってきた原水爆について自分たちが知っていること、考えてきたこと様々な場をつくって若い人たちと話し合っていく、それが私たちの行動の始まりと思います。

【スタッフ】
監督/脚本/製作:ヘレン・ヤング
製作・編集:ロジャー・シュルツ
日本語字幕:スティーブン・リーパー 澤田美和子
配給・上映貸出:ユナイテッドピープル(https://unitedpeople.jp/)
原題:THE NUNS, THE PRIESTS, AND THE BOMBS
アメリカ映画/106分/2018年制作

予告編

上映情報:
【第10回江古田映画祭】
2021年3月11日(木)13:00〜 3月12日(金)18:00〜

【オンライン上映会案内】
日時:2021年3月20日(土)19:00-21:30
プログラム:映画上映(106分)、トークセッション(45分)
主催:ユナイテッドピープル



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