映画『悠久よりの愛 ~ 脱ダム新時代 ~ 』
山歩きをよくしているのですが、山歩きの途中で、谷合いの風景の中に突然、灰色のコンクリートの壁が現れ、ドキリとすることがあります。自然の中にあって場違いな「ダム」の姿は、どこか荒んだものを感じさせます。
子どものころ、「佐久間ダム」から「クロヨンダム」まで、ダムは戦後復興から高度経済成長の象徴のように教えられてきました。その後、大人になってからも、何となく火力発電や原子力発電よりはまだクリーンなだけマシなのではないか、と思い込んでいました。
しかし、そうしたダムも50年もたたないうちに土砂で埋まってしまい、役に立たなくなると知って愕然としました。そういえば砂で埋まってしまって荒野のようになってしまったダム湖もいくつか見たことがあります。そればかりではありません。ダムは川を汚し、海を汚し、人々の生活を脅かし、砂浜をなくし、国土をちいさく縮めている、とこの映画は教えてくれます。「森は海の恋人」その相思相愛の間柄を、ダムは隔て、引き離し、分断させているのだというのです。
(映画の解説)
コンクリート重力式ダムが日本で造られ始めて120年余。今や既存ダム2,752基に及ぶ。大義名分に、(1)利水《発電・上水道・灌漑》(2)治水《洪水調節》(3)環境維持用水などを据える。これらを巧妙に組み合わせた多目的ダム建設が主流になり、予算膨張とダム反対運動の分断を図る。そして、公共性をかざし、『ダム完成でもう安心』という神話を仕立て上げてきた。(中略)
このままでは河川が“ダムの墓場“と化し、上・下流を問わず厄災の元凶になるとの危惧を抱く。推進側の専横もあって、全国26カ所でダム建設計画に反対する地域闘争がある。
すでに荒川中流の玉淀ダム(埼玉県)など全国4カ所で撤去運動に拍車がかかっている。やがて、自然再生の『脱ダム新時代』の幕がひらく。
(映画『悠久よりの愛』パンフレットより)
映画には、新月ダム(宮城県)、八ツ場ダム(群馬県)、玉淀ダム(埼玉県)、鴨川ダム(京都府)、石木ダム(長崎県)、荒瀬ダム(熊本県)が登場します。海と川に深く関わり、親しみ、同時にダムに反対してきた24人もの活動家の、その現場でのインタビューで構成されています。
例えば、京都の鴨川ダム建設の白紙撤回までの話では、鴨川源流の寺の住職が、林業家が、京都府の職員が、音楽家が、弁護士が、漁業者が、と、実に多彩な人々がそれぞれの思いから鴨川に親しみ、ダム建設の反対運動をつくってきたことがわかります。彼らはとくに何かの専門家というわけではありません。それぞれに鴨川を見て、親しんで、生活してきたふつうの一般市民です。
その話しぶりは、清流のように、ときにまた悠々と流れる川の流れのように、ゆったりと話されます。「闘い」ということから感じる切迫感や性急さはありません。しかし秘めた「熱」が込められていることは十分に感じます。彼らの話が分かりやすく魅力あるのは、それぞれの活動の中で培われた、運動について考え抜いた結果、自分が何を得たかがよくわかっているからなのでしょう。
何をきっかけにダムに反対するようになったのか、反対を続けて行く中でどんなことがわかってきたのか、それを自分自身どう思っているのか、それらが一つひとつ伝わってきます。
この映画には、ダムが自然を壊し、人々の生活や文化をも壊しているという問題提起のメッセージはもちろん込められています。それとともに「市民運動、住民運動は、どのように創って行くことができるか」という質問に答えるものにもなっていると思いました。
原発を止めた住民たちを描いた『シロウオ』もそうですが、30年、40年と実に長い時間、粘り強く反対運動を続けてきて、それをやり遂げた人々を描いています。その人生を賭けての住民運動です。そこに運動に対する自信が伝わってきます。これらの映画にすがすがしさと感じるのは、見ているものに、どういう所がそれぞれの運動の優れている所だったかについて考えさせ、前向きな気持にさせるからでしょう。何か全く別な活動・運動をしている人でも、あるいは「何とかしなければならない」と感じている人が見ても、励ましとなります。
上映会では、映画の後に、気仙沼で新月ダムに反対し「森は海の恋人」運動に30年以上も取り組んできた畠山重篤さんのお話がありました。
その中で、畠山さんは、最も大切なことは「教育」であると思うとお話しされました。畠山さんは、「森は海の恋人」運動の一環として、子ども達を川の上流の「植樹」に連れて行っています。その数は1万人を超えていると言います。そこで「川と海はどうつながっているのか」、「人間はどういう存在であるのか」を子ども達に話し、植樹を通して実感させています。子ども達が成長して、川を、海を、森をどう思い続けていくのか、そこにこの運動の未来があることが予感できます。
【出演者】
〈新月ダム(宮城県気仙沼・大川)〉
畠山重篤(NPO法人「森は海の恋人」理事長)
熊谷金一郎(元気仙沼市職員・農業)
末永典弘・三千代(牡蠣の種苗家・(株)SUENAGA)
岩渕武(畜産家)
〈鴨川ダム(京都府・鴨川)〉
田中真澄(志明院住職「北山と鴨川の自然をはぐくむ会」代表)
波多野隆志(林業家)
開沼淳一(元京都府職員・労働組合役員)
呉山平煥(オーボエ・よし笛奏者)
折田泰宏(弁護士)
澤健次(鴨川漁業協同組合代表理事)
〈荒瀬ダム/川辺川ダム/瀬戸石ダム(熊本県・球磨川水系)〉
本田進(スーパー経営・「荒瀬ダムの撤去を求める会」代表)
つる詳子(「豊かな球磨川をとりもどす会」事務局長)
土山大典(鶴之湯旅館)
森下政孝(「一般社団法人さかもと」代表理事)
松嶋一実(「球磨川・坂本地区川町づくり実行委員会」会長)
古川耕治(八代漁協・さかえ丸)
坂本登(熊本県芦北町町議会議員)
土森武友(「瀬戸石ダムを撤去する会」事務局長)
〈石木ダム(長崎県・川棚川水系)〉
岩下すみ子(岩木ダム建設絶対反対同盟)
炭谷猛(長崎県川棚町町議会議員・ダムからふる里を守る会)
松本美智恵(石木川まもり隊)
〈八ッ場ダム(群馬県・利根川水系)〉
鈴木郁子(「STOP八ッ場ダム・市民ネット」代表)
坂岡士朗(嬬恋郷土資料館ガイドボランティア)
〈玉淀ダム(埼玉県・荒川)〉
加藤裕康(元埼玉県議会議員)
【スタッフ】
監督:金子サトシ
撮影:能勢広 金子サトシ かさこ
録音:奥井義哉
スチール:かさこ
ナレーション:金子あい
録音スタジオ:株式会社モイ
ポスプロデスク:原田治
制作:矢間秀次郎
2020年制作⁄110分⁄日本映画⁄ドキュメンタリー
上映情報:
4月18日(日)13:30開場、14:00開映 東京・国分寺市いずみホール(中央線西国分寺駅2分)
7月24日(土)13:30開場、14:00開映 東京・調布たづくり映像シアター(京王線調布駅3分)
上映案内
上映料:基本料1日5万円+観客動員数×500円+消費税
(上限10万円+消費税)
お問合せ:矢間TEL/FAX:042-381-7770 E-mail:h-yazama@oregano.ocn.ne.jp
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