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シネマde憲法

映画『グレタ ひとりぼっちの挑戦』(原題:Iam Greta)

 花崎哲さん(憲法を考える映画の会)



 グレタ・トゥーンベリさんの話を聞いたのは、いつ、どんな形で、だったでしょう?
 残念ながら、私が知ったときには、すでに彼女の行動に対する賞賛と批判、あるいは特異な人だからという揶揄に近いものが入り交じっていて、素直に受け取れていなかったように思います。
 「うん、そういうのもいいんじゃない、応援したいね」と言いながらも、欧州では数百万人もの若者を集めたといった話を聞くと、同じ市民運動をめざすものとして、ちょっとやっかみや嫉妬に似た恥ずかしい感情があったように思います。(2015年のシールズの運動の盛り上がりの時にも、同じような「後れをとった」「自分たちはこうはできなかった」というような感情があったように思います。)
 なんと肝の小さいことか、それでは、この映画の中で、彼女からの批判の矛先になっている大人たち、指導者たちの根性と全く変わらないではないか、と反省して、もっと素直に「彼女がどのように人の気持ちを動かしたのか?」、「まわりの人たちは、彼女の何によって動かされたのか?」「それがどのように伝わり、繫がっていったのか?」を、すなおに学ぼうと思って映画館に向かいました。

【解説】
 2018年8月。15歳の少女グレタ・トゥーンベリはスウェーデン・ストックホルムにある国会議事堂前で学校ストライキを始めた。気候変動対策を呼びかけるため、一人で座り込み、自作の看板を掲げてリーフレットを配りながら通行人の質問に答える。毎週金曜日にストライキをすることから「Fridays For Future(未来のための金曜日)」と名付けられた運動は次第に注目を集め、世界中の若者たちがグレタの考えに賛同していった。たった一人で始めたストライキは、数か月のうちに国内外へ広がるムーブメントになった。(映画『グレタ ひとりぼっちの挑戦』公式サイトより)

 グレタさんは、言葉や理屈でもって人を動かしたというより、その行動から人を引きつけ、動かしたようです。それは彼女に接し動いた人の方も、彼女の表情、姿勢、態度、つまりパフォーマンスによって動かされたように見えました。
 彼女の「ストライキ」を聞いて、彼女に演説を依頼した国際機関や各国の指導者は、気候変動、温暖化対策について、自分たちが何もできないでいることをうすうす感じながら、それを彼女に鋭く言い当てさせることによって「自分たちもやっている」感をねらったようにさえ見えます。
 グレタさん自身も早くからそれを見通しているからこそ、言葉だけで、何もしないままの大人たちに対して「怒り」を表現していったのでしょう。それでも続けて行かなければ、何も解決にならないという彼女の気持は、いわば「信念」のように見えてきます。

 私たちの市民運動の中にも「若者待望論」のようなものがあります。私たち年寄りは、集会を開いても、上映会を催しても、ほんとうに来てほしい若者が来ないと嘆いています。「若い人の声を聞きたい」。それはこの映画での、国際会議にグレタさんを呼んだ大人たちに通じるところがあると思います。でもほんとうに聞く気があるのか?
 それをストレートに感じたから、「言うこととやることが違う人間にはなりたくない」と渾身の怒りとして発したのでしょう。それは自分たちの責任であることを何もしないで、後の世代に押しつけている「大人」に対しての怒りであり、彼女の発した「抗議」に賛同した「若者」たちの共感なのだと思います。
 そのことをまだ、どれだけ大人たちは気付いているのでしょう。この映画は、それぞれの世代が自分たちの問題として、どれだけ責任を持って考え、その改善のために考えているかを問う映画かも知れません。それは単にここでグレタさんが声にした環境問題、気候変動の問題だけではないはずです。戦争、貧困や分断、経済の問題、すべて大人が引き起こし、その被害を若い世代に押しつけている、あきらかに犠牲を強いている問題です。
 そのことを考え、気がついた若い人たちの問題提起を、どれだけ今の政治や経済に責任を持っている年寄りが果たしているというのでしょう。グレタさんは単に「何とかしろ」と怒っているだけでなく、「科学の声を聞け」と行動の指針を示しています。

 問題は、この映画を見た「若者」がどんな感想を持つかだと思います。それを知りたいと思いました。
 映画は、無責任なメディアとは違って、グレタさんが、多くのことを自分で考え、考えただけでなく行動していること、その反響ともい.えるいろいろな声に悩み、励まされながら自分の起こした行動を続けようとしていることを映しだしています。そこのところが、この映画の優れたところであり、素直な共感を得るところなのではないかと思います。
 そして、私たちひとりひとりが、それぞれ「では、自分たちはどこから」を考え始めることになれば、と思うのです。

 

【スタッフ】
監督:ネイサン・グロスマン
製作:フレドリク・ハイニヒ セシリア・ネッセン
製作総指揮:ペッレ・ニルソン フィリップ・ウェストグレン
脚本:ネイサン・グロスマン  ペール・K・キルケゴー ハンナ・レヨンクヴィスト
撮影:ネイサン・グロスマン
編集:シャーロット・ランデリウス ハンナ・レヨンクヴィスト 
音楽:レベッカ・カリユード ヨン・エクストランド

【出演者】
グレタ・トゥーンベリ
スベンテ・トゥーンベリ
アントニオ・グテーレス
エマニュエル・マクロン
アーノルド・シュワルツェネッガー
ドナルド・トランプ
2020年製作/101分/スウェーデン映画
配給:アンプラグド

オフィシャルサイト
予告編
上映情報:新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほか上映中


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