「一緒に闘う」「共に闘う」。よく私たちはそう言いたがりますが、「闘う」ためには、怒りがなくてはならない、まず怒りを自分のものにすることが「一緒に闘う」ことの出発点であることをこの映画は教えてくれました。
【解説】
東京メトロ売店で働く非正規女性たちが、組合をつくった。何年働いても時給は上がらない。同じ仕事をしている正社員との格差は広がるばかり。そのくせ「65歳定年制」だけは社員と同じだから65歳で雇い止め、といわれる。退職金は一円も出ない。これでは路頭に迷う。
2013年3月、組合はついにストライキに立ち上がった。彼女たちの生活・思い・怒りが伝わってくるドキュメンタリー。メトロのたたかいはこれからが正念場。
8年間の闘いの記録であるとともに、非正規労働者、働く女性のさまざまな負担や問題点が明らかになっていった8年間の社会と時代の記録でもありました。非正規労働者は2,100万人に達し、その7割が女性と言われています。
それとともにこの映画に登場する4人のメトロレディー、一人ひとりの成長の物語でもあります。組合活動の中で彼女たちがどんどん強くなっていくことがわかります。はじめの頃の街頭演説では震えていた声と足が、映画の後半、裁判闘争の中では、もう大向こうをうならすような間合いの取り方、聞く者を引き込んでいく達者さも心得ているものになっています。
とにかく主人公たちが明るい。明るい上に運動に創意と工夫を感じられます。他の組合仲間の余興なのでしょうが、寸劇「白浪五人男」や「女三人吉三」、ブルースも歌えば、演歌も替え歌にして、その時々の仕事や闘いの気持を託すものにしていきます。
それらの替え歌に今の自分たちの現状と問題を織り込み、共有、共感を誘う、それもまた達者です。なごやかに笑いを誘いながら、柔らかい一所懸命さが伝わっていく。なにより彼女たち自身が楽しんでいること、そうしたものを創りだすことを通して結束を高めてきたことがわかります。
4人が自分たちの抱えている問題をそれぞれ出し合ったところから、組合を作るに至るまで。定年を迎えた仲間が再採用されないことをめぐって会社への要求、交渉。組合同士、仲間を広げ、非正規への差別を無くす、格差是正を求めての三つの裁判と、このドキュメンタリー映画もまた、4人の主役たちの歩んだ道のりを追うようにして、またその時々の彼女たちの気持ちをインタビューによって捉えていきます。そして時々にそれを編集してまとめ、その運動の様子を上映し、運動が進むとさらにまとめ、という形で8年間撮り続けてきました。文字通り、彼女たちの運動に伴走しているようなつくりかたです。そして上映を通しての反響が彼女たちを力づけ、多くの同じような立場にいる人に知らせ、運動を拡げて行くことに役立っていったことが想像されます。
単に闘いそのものを経時的に記録するだけでなく、頻繁にその職場を訪ね働いている姿をとらえ、家庭を訪ね、その4人の抱えている生活、家族の問題をも描くことによって、背景の、私たちも共に生きているこの社会の問題、時代の問題というものが見るものに感じられるものになっていきます。
私は労働組合の役割についてはよく知っていたつもりでしたが、組合活動とは具体的にこういう風に作られるものなんだ、こういう思いの繰り返しなんだと、はじめて知ったように思いました。そうしたところも彼女たちの「仕事と生活」を身近に感じて、その悔しさ、怒り、どうにもならない落胆などといった気持を、味わっていくことを通して身近に感じるようになっていきました。
要所要所に入る、それぞれの闘いの段階でのアピールやインタビューの中にも、彼女たちの心情や問題の本質に関わる部分が込められています。
「給料日を迎える度に、自分たちに加えられている格差にものすごく腹が立つ。それは会社や正社員への憎しみへとなっていく。もともとがそんな憎しみなど持たない人間だったのに、こうした差別が人格をも変えていく。『いっしょに働いていこう』ということを拒んでいるのは誰なんだ?」。そうしたことから、裁判で闘おうと決断したし、働く人を何も見ていない、差別を公然と認める日本の裁判所そのものに怒りを感じたと言います。
闘いを通して彼女たちの獲得していったものが、たとえ最高裁では勝てなくても、その後の闘いに続いて行くものを感じさせるところで映画はまとめられています。一つの労働運動が生まれて、活動を開始し、そのことで社会を少しずつ変え、さらに拡がっていく、その過程の中で、見るもの一人ひとりにも「働くとはどういうことか」、その中で「自分たちを大切にするということはどういうことか」を考えさせる映画でした。
私たちはこの映画を「自主制作上映映画見本市#8」の中で上映し、そこにメトロレディーたちも来て、現状の運動のことや、今思っていることを話していただきました。
次に私たちが予定していた上映会の案内を、メーリングリストに書き、その中で、「むのたけじさんの憲法集会での反戦アピール」のことを書いたら、前日にそれを読んだからとメトロレディーの一人が駆けつけてくれました。ああ、さまざまな運動がつながっていくととてもうれしくなりました。
【スタッフ】
出演:後呂良子 加納一美 瀬沼京子 疋田節子
協力:大場吉晃(劇作者) 堀切さとみ(撮影補)
取材構成:松原明 佐々木有美
撮影・編集:松原明
語り手:佐々木有美
企画制作:ビデオプレス
DVD『メトロレディーブルース─東京メトロ売店 不正規女性のたたかい』
上映情報:上映貸出料 10,000円 個人視聴用DVD:3,000円
問合せ:ビデオプレス
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