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シネマde憲法
テレビ番組「映像の世紀バタフライエフェクト『ベルリンの壁崩壊 宰相メルケルの誕生』」
花崎哲さん(憲法を考える映画の会)


カトリンの月曜日デモ


ベルリンの壁崩壊(ブランデンブルク門)

 1989年のベルリンの壁の崩壊、同時代を生きて、同世代であるにもかかわらず、そこで何が起きていたのか、どのようにそれが大きな歴史を動かしたのかを知らずにいました。一人ひとりのささやかな動きが、世界を動かすことがある、歴史を変えていく力になる、そのことをしっかりと感じさせる番組です。

【番組の解説】
 冷戦下の東ドイツ。抑圧された社会で生きる3人の女性がいた。見えない将来に絶望していた物理学者のアンゲラ・メルケル。体制への批判を歌にこめた歌手ニナ・ハーゲン。デモで自由を訴えた学生のカトリン・ハッテンハウワー。1989年、政府報道官のひとつの失言から始まったベルリンの壁崩壊は、巨大な嵐を巻き起こし、3人の女性の運命を変えていく。宰相メルケル誕生に秘められた、絶望の中から希望をつかんだ女性たちの物語

 自由を求めた若者たち(ここでは三人の女性たち)の持続する志と闘いの記録。それは自由の大切さを知っているからこそ、痛感しているからこそ、身をもって行動したからこそ、その時だけの行動にとどまらず、それぞれのその後の生き方の中で、ブレずに、闘い続けられたことがよくわかりました。
 そしてこうした行動が、多くの人々の思いや願いと一致したときに、蟻の一穴が堤防を壊していくように、大きな力になって、壊すことのできないと思っていた「国家」という大きな「壁」をも壊すこともわかりました。「自由な人による開かれた国」「我々人民こそが主権者だ」といった言葉が共感を呼び、瞬時にダイナミックな大きな力となるのを、ドイツの人たちは身をもって体験したのだろうと思います。

 学生のカトリン・ハッテンハウアーたちがやむにやまれぬ気持ちから、「自由な人による開かれた国」という横断幕をもってデモを呼びかけた1989年9月4日から、ベルリンの壁が実質、崩壊を迎える11月9日までわずか2ヶ月です。その間、それまで自由を抑えつけられてきた苦しさを何とかしたい、自分たちを縛っているものを振り払いたいという願いが沸点に達するように、週ごとに、「月曜デモ」参加者の数を増やしていったのです。
 このベルリンの壁の崩壊と、次の年の東西ドイツの統一までの道のりは、いわば、平和革命のようなものだったのだと思います。
 武力、暴力の衝突を避けたのは、闘う人々の気持に中に4ヶ月前に起きた「天安門事件」のことがあったからでしょうか。政府の混乱、公務員たちの現場判断があったことが番組からもわかります。しかしそうした人々の願いと勢いは、現場を守る公務員の中にも、共感とともに守るべきものは「国」ではなく「人」であるという意識が強くあったことがわかります。
 ベルリンの壁崩壊の現場に居合わせたカトリン・ハッテンハウアーの言葉、「自由な人々による開かれた国、このことが私たちの挑戦であり、責任なのです」
 ベルリンの壁崩壊のきっかけを作ったものも、「自由に旅行がしたい」というどちらかと言えば人々のささやかな願いからでした。しかしそれを声に出すことから、そう同じように感じている人が本当に多くいることがわかったのです。「いやなことはいやと、はっきり言うこと、やりたいことはやりたいとはっきり言うこと」一人ひとりがそう思っていることを声に出していくことが民主主義の基本であることをあらためて教えられました。
 私たちも「今の自由を守るために」という言葉を口にすることがありますが、今私たちが得ていると思っている自由とは、ほんとうに自分たちの手によって獲得した自由なのか、民主主義なのかを考えてみる必要があります。私たちの「自由をまもる闘い」が脆弱なのは、それらをいつの間にか与えられたものとどこかで思っているからではないでしょうか。それは「平和」という言葉にも当てはめて言えると思います。

 つくづく思うのは、三人の女性のほぼ20年の歩みを中心にして、その細かな映像が残っていて、映像そのものが物語っていること。こうした映像そのものがこの時代を生きる私たちの財産であり、自分たちがどういう社会を作っていくのかを考える教材になるということです。もっともっと多くの人がこうした映像を見て考える機会が作れないかと思うのです。

 番組は、はじめ19歳の人気歌手ニナ・ハーゲンの歌った「カラーフィルムを忘れたのね」の紹介から入り、ラストシーンを、退任式でのその音楽を聴くメルケル首相でまとめられます。その音楽に耳を傾けるメルケル首相の表情に、その間の30年あまりのさまざまな思いがよぎるのでしょう。それは、メルケル首相の次のような意志をもった言葉でも表されます。
 「この曲はわたしの青春のハイライトでした。いろんなことが私の体験と重なっているのです。東ドイツ時代に味わった独裁制や秘密警察による盗聴の経験から民主主義は私にとって特別なことであり続けています。この国に自由が向こうからやってきたのでなく、私たちが勝ち取ったのです。その裏には旧東ドイツで危険を冒してまでも自由と権利のために闘った人々がいました。だからこそ私たちは、民主主義を守らなくてはなりません。民主主義はいつもそこにあるものではないのです。」

【スタッフ】
音楽:加古隆
音楽制作協力:羽毛田丈史
語り:山根基世
声の出演:81プロデュース
音声:緒形慎一郎 関根祐太
音響効果:日下英介 三谷直樹
映像技術:大西一平 大野大
映像デザイン:小澤雅夫
CG制作:原口甲斐
リサーチャー:繁昌久美
取材:池上敦子 藤澤哲
編集:日高隆志
ディレクター:小林亮太
制作統括:寺西浩太郎 川添哲也 寺園慎一
(資料提供としてドイツ、アメリカのたくさんの映像撮影者・提供者のクレジットが流れます)

番組ホームページ
NHK総合2022年4月18日放送済み
再放送:2022年4月28日(木)午前0時25分〜午前1時10分(45分)
オンデマンド配信中


 

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