これまで、私たちの映画会でも、外国人差別問題を考える映画を、二つの系統から見てきました。ひとつは在日朝鮮韓国人差別問題を明らかにした映画『戦後在日五十年史「在日」』2018年8月13日、『アイたちの学校』、『ニジノキセキ』2019年10月14日など。今も続く民族差別として戦後の歴史の中で描かれてきました。
そしてもうひとつ、入管(出入国在留管理局)による在留外国人に対する差別や排斥を描いたもの。『外国人収容所の闇』2019年12月2日、『牛久』、『ウィシュマ・サンダマリ』などのドキュメンタリー映画です。
この映画『ワタシタチハニンゲンダ』は、この両方の外国人差別の問題を人権侵害の問題として描き、その根底に一貫した国の政策による排外主義があることを明らかにしています。
【映画の解説】
2021年3月、スリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん(33)が名古屋入管で死亡した。
彼女の死は長年ベールに包まれてきた入管の闇を、公権力による外国人差別の歴史を象徴する事件と言って過言ではない。
戦後、日本政府は、在日外国人の9割を占めていた韓国・朝鮮人の管理を主目的とする外国人登録法などを制定した。そして後年、他国からの在留者が増えると、全ての外国人に対する法的・制度的な出入国管理政策を強化してきた。
◇ 在日コリアン/高校無償化制度から朝鮮学校を排除。幼児教育・保育の無償化制度から外国人学校を排除。
◇ 技能実習生/長時間・低賃金労働。暴力・不当解雇・恋愛禁止等の人権侵害事件多発。
◇ 難民/難民認定を極端に制限。認定率は諸外国の20~50%に比べ、日本は1%未満。
◇ 入管/被収容者に対する非人道的な処遇が常態化。
高賛侑監督は前作「アイたちの学校」で朝鮮学校差別問題に焦点を当て、国内外で大きな反響を呼んだ。本作品では、全ての在日外国人に対する差別政策の全貌を浮き彫りにする。
人権侵害に苦しむ外国人が異口同音に訴える。「私たちは動物ではない。人間だ !」。(映画『ワタシタチハニンゲンダ』オフィシャルサイト「Introduction」より)
映画は、主に関西で繰り広げられている多文化、多民族交流のとり組みをとらえるところから始まります。阪神大震災の時に、在日外国人支援で活躍した「多言語コミュニティ放送局FMわいわい」をはじめ、民族の違いを超えて、共有する問題を解決していこう、あるいはそれぞれの豊かな文化を楽しもうとするものがそこにはあります。みんなが仲良く、多様な文化を味わい、楽しむことで気持が豊かになれる、「こういうのっていいな」と素直に感じることができます。
しかしそうしたことを好もしく思わない考えからか、さまざまな差別的行為を仕掛けてきます。いったいどのような考えとねらいがあって、そうした差別行動をするのか理解に苦しむのですが、私たちの気付かないところで、あるいは知ろうとしないところで、そうした行為が繰り返されてきました。
それらが一部の極端な排斥主義の人たちの行為と思っていたところが、この映画を見ると、実は根の深い、とくに国家の政策によって進められてきたことがわかります。
在日コリアンに対しては、納税の義務はあっても、国民としての社会保障を受ける権利はほとんど認められず、そうした差別が戦後70年間が放置されてきました。
とくに教育による施策でそれは明らかです。国は朝鮮人学校を認めず、どの子どもにも与えられるべき補助も補償もないがしろにされ、むしろ嫌がらせのように、存続を難しくすることばかりを仕掛けてきました。
在日朝鮮韓国人に対するそうした差別とは別に、外国人労働者や難民に対する強制収容、強制送還などの非人間的な権力行使が続けられています。
不法滞在者としての犯罪人扱いすることによって、収容所での職員によって暴力が行われ、またオーバーステイによって仮放免されて働いてはいけない、どうして生きていけというのかというような制限が加えられ、生活が不安に晒され、人権がずたずたにされています。そうした日常的に行われている暴力の結果「ウィシュマ・サンダマリさん」の事件がありました。
こうした一貫した排外主義の政策の根本には何があるのでしょうか。
いつ私たちは、こうした国際主義に真っ向から反するような差別主義を国家の政策として続けてきたことを認めたというのでしょうか。
それはまた政策として他の国と自国の違いを強調して、交流や融合をめざすというより、利益競争のみでとらえる資本主義、あるいはそれを進めるための軍国主義と同じものがあるのでしょうか。戦前とは変わっていない排他主義、自国至上主義が根底にあるのではないでしょうか。
それはまた人と人との関係を考えたとき、人種や民族、出自によって、それらは変わらないとして「人」を差別する、自分に利益を与える人としかつき合わないという排他主義です。
そしてこの国は、「愛国」という名の元にそうした排他的な考えを子どもたちに根強く持たせよう、自分の「国」の利益を考えることが一番だという国粋主義の意識を植え付けていこうとしているのです。
「おい、この野郎。おい、なめてんのか。日本人なめてんだろ。なんだやんのか.やるのか。いいよ、いくらでもやったるよ。この野郎。」
入管収容所の職員が、抵抗できない在留外国人を取り囲んで制圧する時に投げつける言葉です。その目を背けたくなるような暴力の映像は、かつて、日本軍の兵士が命ぜられるままに、迷いもせずアジアの人たちを殺していった姿を連想しました。しかしそれは今もなにも改善されていないのです。それを変えようともしない、さらに悪くしようと命令している側は、何も変わっていないのです。
【スタッフ・キャスト】
監督:高賛侑
撮影:高賛侑 小山帥人 松林展也
撮影協力:黒瀬政男
音響効果:吉田一郎
整音:朴京一
編集:黒瀬政男
テーマ音楽:Akasha
ナレーション:水野晶子
宣伝美術:高元秀
タイトルロゴ:高元秀
イラスト:高根英博
企画:ライフ映像ワーク
制作:「ワタシタチハニンゲンダ!」制作委員会
配給:アルミード
2022年製作/114分/日本映画/ドキュメンタリー
【上映情報】
2022年8月19日(金)~25日(木)UPLINK吉祥寺(東京)