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「子ども・子育て新システム」で「保育」が破壊される

2011年1月31日

川口創さん(弁護士)

 今、政府内で法案化が進められている「子ども・子育て新システム」(PDF)。去年6月25日に概要が示され(わずか10頁)、今年の通常国会に法案が出されることが決まっています。「待機児童をなくすため」というのが法案の出される表向きの理由です。
 しかし、この「新システム」の法案が通れば、待機児童解消どころか、「保育」そのものがなくなってしまいかねません。
 
 まず、収入に応じて支払う額が決まる「応能負担」から、「応益負担」に変わります。長時間預ければ、当然費用は高くなります。しかし、働いている親の収入は、時間に応じた等しい収入ではありません。長時間働いても、収入が少ない親は、保育料を支払うことが出来なくなります。その結果、子どもを預けることが出来ない親が増えてしまいかねません。もともと、共働きをせざるを得ない貧困家庭が増えている中で、「応益負担」に変えること自体、「待機児童をなくす」という目的に反しています。

 企業がどんどん保育に入ってきます。今の保育園では、補助金の使い道は保育に限定されていますが、「新システム」では「何に使っても良い」とされます。だから、例えばレストランチェーンが保育に参入し、保育での利益をレストランの事業に使うことができます。親が子どものためにと出したお金と、大事な税金を企業のお金もうけに使える。これはいくらなんでもやりすぎではないでしょうか。
 特に0歳児、1歳児には人件費がかかります。決して保育は「儲かる」分野ではあり得ません。
 それを「儲ける」のためには、当然「コスト削減」として人件費が削減され、職場は非正規職員ばかりにせざるを得ません。保育の質が低下していくことが目に見えています。
 その結果、保育現場での事故が増えるのではないかと懸念されています。例えば、食べることなど、生きる上で大事なことが、「均質化」されることで、一人一人の発育にあった食べさせ方がなされなくなり、誤飲、誤嚥事故の増加も心配されるところです。
 保育を産業にすることで、子どもたちの命が犠牲になりかねません。

 「子ども・子育て新システム」は3歳未満と3歳以上とで、制度を分けます。3歳未満については、自宅などで子どもをみる「保育ママ」の拡充を図っています。この保育ママには保育士の資格は不要で、一定の研修を積めばいいとされています。保育をプロの保育士からアルバイトに移行していく、という制度に他なりません。
 「新システム」の保育ママ制度は、閉鎖的な空間に、保育の素人に保育を委ねる制度と言わざるを得ません。小さい子どもを預けなくてはいけない親は、プロの保育士さんがちゃんと子どもを見てくれる、保育園で子どもらしい生活が保障されている、と思うから安心して預けることが出来るのです。ただ預かってさえくれればいい、というわけではありません。

 子どもは0歳児でも、個性を持った存在です。尊い「個人」としての尊厳をもって接せられるべきです(憲法13条)。新システムは、子どもを個性なき、「対象物」として扱っていると言わざるを得ません。 
 また、家庭の負担能力によって子どもの教育・保育内容が異なり、子どもたちの生活が分断されかねません。これは、子どもの教育を受ける権利(26条)に反するとともに、平等権にも反します(憲法14条)。
 そもそも、子どもたちの成育環境を犠牲にして、量だけの拡大を図るのは本末転倒です。
 子どもの生きる権利(25条)が著しく脅かされると言わざるを得ません。

 こんな「子ども・子育て新システム」が国会を通ってしまったら大変です。
 すでに千葉県弁護士会では、この制度の導入に反対する弁護士会会長声明が出されています。
 憲法上も多くの問題点があるこの「新システム」。現行制度の解体する「新システム」ではなく、財政確保の上で、幅広い育児支援の量と質の拡大を求めていきたいと思います。

 

◆川口創(かわぐちはじめ)さんのプロフィール

1972年埼玉県生まれ。
名古屋第一法律事務所所属。
イラク派兵差止訴訟弁護団事務局長を務めた。
著書「『自衛隊のイラク派兵差止訴訟判決文』」を読む」(共著)(09年角川書店)

*当研究所は中高生向け映像教材「憲法を観る」の製作に協力しましたが、川口創さんにはこの教材に出演していただき、イラク派兵差止訴訟のことを語っていただきました。




 
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