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今週の一言

 

「東日本大震災に寄せて − 止まった時計を眺めながら」

2011年3月21日


神坪浩喜さん(弁護士−仙台弁護士会所属)


 平成23年3月11日午後2時46分、宮城県沖を震源とする巨大地震が、東北・関東地方を襲いました。岩手県、宮城県、福島県の沿岸部を中心に大津波による多数の死者が出る未曾有の大惨事となってしまいました。犠牲になられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、不自由で不安な生活をされております被災者の方々に心よりお見舞い申し上げます。

 その時、私は、仙台市街のマンション11階にある法律事務所にいました。突然襲ってきた激しい揺れで、立っていることができなくなり、床にしゃがみ込んでしまいました。あらゆるものが倒れ、書棚の本が飛び出し、壁にかけていた時計や絵が床に叩きつけられました。
 激しい揺れになすすべがなく、ありえないような光景に「一体これは夢ではないのか?」と思いながら、時計が落ちていく様子を眺めていました。激しい揺れはなかなか治まらず、このままマンション自体が壊れてしまうのではないかと思いました。生まれて初めて命の危険を感じました。

 後日、事務所の片付けをしていたとき、落ちた壁掛け時計は、「午後2時46分」で止まっていました。その時、ふっと頭の中によぎったのは、子どもの頃、長崎の原爆資料館で見た「午前11時2分」で止まっていた古時計のことでした。
 それまで穏やかに過ごしていた日常が、その時を境にして一変する。壊れた時計は、そのことを私の心に訴えかけてきたのでした。原爆資料館では、原爆に関する衝撃的な写真や展示物が他にもいろいろとありましたが、私には、その止まった時計が一番心に残っていたのでした。

 この震災において、私や家族、事務員、友人達は無事だったのですが、報道に接するうちに、たくさんの尊い命が奪われてしまっていた現実を知り、愕然としました。あらゆる物が迫り来る津波に無惨にも呑み込まれてしまいました。
自然の猛威の前には、人という生きものはもろいものだと思い知らされました。
 亡くなられた方々には、それぞれ愛するご家族があり、親類があり、友人があり、たくさんのつながりをもって生きてこられたでしょう。亡くなられた方々の中には、これからの未来に大きな夢を膨らませていた小さな子どももいたでしょう。そして、そんな子どもを優しい眼差しで眺めていたお父さん、お母さんもいたことでしょう。
 その方々は、何も悪いことをしていないのに、否むしろ、平凡ながらも日々の暮らしを大切にし、家族や友人を大切にしてきた優しい人々なのに、どうしてその命を突然奪われてしまわなければならないのでしょうか。何と、理不尽なことでしょうか!何ともやりきれない思いでいっぱいです。
 生き残った人も自分とつながりのある親や子ども、大切な兄弟、親類、友人を失いました。大切な人をなくしてしまいました。懸命の努力でつちかってきた財産や仕事を失いました。
 それがどれほど辛いことか、悲しいことか、その方々の心中を思うと胸が痛みます。中には、絶望して自分も死んでしまいたいと思い詰めてしまう方もおられるでしょう。ご無理もないことです。
 それでも、生き残ることができた人々には、生きて欲しいです。幸せになって欲しいです。幸せになることを諦めないで欲しいのです。
 私たちは、理不尽な目にあっても、生きている限りしっかりと生きていかなければなりません。立ち上がらなければなりません。今自分が暮らしている現実の世界で、地にしっかり足をつけて歩いていかなければなりません。あなたを必要とする大切な誰かのためにも、突然命を絶たれてしまった方々のためにも生き続けなければならないのです。辛い思いをされているあなたのことを応援している人はたくさんいます。あなたのことを必要としている人はいるのです。
あなたは決して一人ではないのですよ。

 まだまだ打ちひしがれて何もできないかも知れませんが、残された者は、しっかりと歩き続けていくしかないのです。この困難を乗り越えて、その経験と英知を後世にしっかりと伝えていくことが期待されているのです。
 かつてこの国は、大きな戦争によって国土の多くが焼け野原になりました。今回の大震災と同じように戦争によって理不尽にも何の罪もない多くの人々、将来に夢を抱く子どももその子どもを温かく見つめる母親も突然その命が奪われてしまった悲しい過去をもつ国です。特に2発の原爆投下によって、多くの人々の尊い命が一瞬にして奪われてしまった辛い過去をもつ国です。
 今、私たちは、人の予測を超えた大規模な自然災害によって、突然多くの命が奪われる理不尽さを目の当たりにしています。
 そして、私は、「午後2時46分」に止まった時計を眺めながら、国家の誤った選択によって、突然多くの命が奪われた理不尽な過去を思い出すのです。あの夏の日の「午前8時15分」や「午前11時2分」で止まってしまったたくさんの時計を思い出すのです。
 日本国憲法は、戦争によって多くの人々の命が奪われたこと、大切な人とのつながりを壊されたことを受けて、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意」し、つくられました。一人ひとりがかけがえのない大切な存在として尊重され、大切にされるようにしなければならない、そのために国家が誤った選択をしないようにとつくられました。
 私たちの先達は、戦争によって深く傷つきながらも、その困難を乗り越え、教訓を生かし、国民一人ひとりをかけがえのない存在として大切にすること、「個人の尊重」を最高の価値とし、目的とした憲法をつくったのです。

 もちろん大規模震災と戦争とは、自然災害と人為的なもので全く違うものです。それでも理不尽にも尊い命が奪われてしまうということ、国家の選択が厳しく問われている場面であること、そして止まった時計が私に訴えかけてくる何かから今回の震災と戦争とがオーバーラップしてしまったのです。

 今、福島の原子力発電所が、大地震によって、大変危機的な状況に陥っています。今、国家が突きつけられている大問題に、国家が選択を誤ることがないよう祈るばかりです。

◆神坪浩喜(かみつぼ ひろき)さんのプロフィール

1968年 福岡県北九州市生まれ 東北大学法学部卒
2000年 仙台市で弁護士登録
2005年 あやめ法律事務所開設
仙台弁護士会法教育検討特別委員会副委員長、日弁連市民のための法教育委員会副委員長、仙台簡易裁判所民事調停官
「個人の尊重」を世に広めるべく、法教育活動を実践し、「法と幸せ」をテーマにしたメールマガジンを配信している。





 
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