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今週の一言

 

比例定数削減は民主主義の危機だ

2011年6月6日


日隅一雄さん(弁護士・NPJ編集長)


今、衆参両院の比例定数の削減が俎上に上っています。日本は形式的には民主主主義国家ですが、実質的にはそうではありません。小選挙区制などの選挙制度を見るとよくわかります。それなのに、比例定数の方を削減するのは益々小選挙区制中心の制度になり、民主主義に逆行します。大変な事態です。

日本の選挙制度の問題点をみてみましょう。ポイントは3つあります。

第1に、政党や政治家を選択する幅が狭いことです。その原因はまず、小選挙区中心・2大政党制だということです。マスコミも大宣伝した1994年の「政治改革」の産物です。世界には小選挙区制だけの国は5つありますが、代表的なアメリカの場合予備選挙で党内候補者を選出します。予備選挙では党の資金や組織を利用することはできず、候補者は自ら支持者を拡大し、本選においてもその支持者が活動の中心になります。ですから党からの自立性が高く、議会での党議拘束もありません。従って、予備選候補者の幅が広くなっています。これに対して日本では、候補者は政党の幹部が選びますからバラエティーがなく、選択の幅が非常に狭くなっています。さらに、党議拘束が厳格なので国会の論戦がほとんど意味のないものになっています。また、供託金が衆参とも数百万円と非常に高く設定されています。外国は韓国だけが150万円ですが、それ以外は無料から数万円です。
 なお、日本の「政治改革」の際イギリスの小選挙区制が範としてよく引き合いに出されましたが、そのイギリスでは近年小選挙区制に対する批判が多く、比例代表制にすべきではないかという議論が盛んです。

 第2に、自分が選択した投票が結果に反映されないことが多い、即ち死票が多いことです。この点、同じ小選挙区でもフランスは2回投票制を採っています。第1回投票で有効投票総数の過半数を得た候補者がいない選挙区があった場合、第1回投票で全体の8分の1以上の得票を得た候補により、1週間後に決選投票が行われます。そのため、少数者の選択が結果に反映される可能性があります。現にフランスでは2大政党制になっていません。
 オーストラリアの下院は小選挙区制ですが、候補者全員に優先順位を付けて投票します。第1順位で過半数を獲得した候補者がいればその者が当選します。いない場合、第1順位の得票が最少の候補者の得票を、投票者の指定した優先順位に従って他の候補者に配分し、いずれかの候補者が過半数を獲得するまで繰り返します。その結果、フランスと同じように、少数者の選択が結果に反映される工夫がされています。
 日本では、小選挙区制なのにこれらの工夫がないことが自分の選択が結果に反映されない原因になっています。さらに、選挙区により1票の格差が大きいことも挙げられます。このようにして、少数者の意見が議会に反映されないような仕組みになっています。

 最後に、選択するのに必要な情報を選挙民はきちんと得ていないという問題があります。
 一つには、選挙運動が厳しく制限されていることです。たとえば戸別訪問が禁止されています。本当に世界でも稀な例です。戸別訪問があれば夕食のときに家族で政治の話しをする一つのきっかけになり得ます。日本では家庭に政治の話を持ち込まないようにされていると言えるでしょう。これだけネットが発達しているのに、ネット運動が解禁されていないのも大きな問題です。
 二つ目として、表現の自由が制約されています。典型的なのは、ビラまきの違法判決です。住居侵入罪になります。他の国では考えられないことです。
 さらに、マスコミの問題があります。私は、08年に「マスコミはなぜ『マスゴミ』と呼ばれるのか」という本を書きました。日本のマスコミが置かれている状況は異常です。
 第1に、ラジオ・テレビという放送事業は電波が有限なので免許制にせざるを得ないのですが、外国では独立行政委員会が設置されています。しかし日本では1952年に吉田首相の時に廃止したままになっており、政府が直接免許を与えます。そのため政府や政治家が放送内容に圧力をかけることが可能になり、現にNHKの番組改編事件のようなことが起きています。これでは権力監視機能を果せません。
第2に、全国紙とキー局が系列化されています。これも日本にしかありません。そのため、言論の多様性が失われたり、新聞とテレビ・ラジオ相互の間で批判がなくなり権力との癒着がより強固になっています。
 第3に、広告代理店における1業種1社制がないことです。例えば、トヨタ、ホンダ、日産の広告をすべて電通が請け負うことができます。企業秘密が守れないので他の国では考えられないことです。こうしてマスコミの財布を握る巨大な広告代理店ができて1企業では不可能な大きな圧力をかけることが可能になっています。

 では、どうしたら日本の選挙制度を改善することができるのでしょうか。
 まず、日本の選挙制度は異常だという認識を共有することから出発しなければなりません。ところが、これまで見てきたように、これをマスコミに期待することはできません。やはり、インターネットという新しい情報伝達手段を大いに活用することです。エジプトなどで起きていることはこのことを教えています。

 なお、最近刊行された小選挙区制廃止を目指す連絡会編・ブックレット「議員定数削減NO!」においても、日本の選挙制度の項を担当しました。合わせてご覧下さい。

◆日隅一雄(ひずみかずお)さんのプロフィール

1963年、広島県に生まれる。京都大学を卒業後、産経新聞社に入社し、阪神支局、大阪社会部勤務。退社後、海外に遊学。帰国後、司法試験に合格し、1998年弁護士登録(第二東京弁護士会)。日弁連人権擁護委員会第5部会(精神的自由に関する部会)などに所属。一般民事事件、刑事事件を受任する一方、報道被害弁護士救済ネットワークなどの報道被害、NHK番組改編事件などの報道問題に取り組む。NPJ編集長。著書に『マスコミはなぜマスゴミと呼ばれるのか』(2008年4月 現代人文社)。『議員定数削減NO! ― 民意圧殺と政治の劣化』(共著、2011年4月 ロゴス発行)





 
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