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今週の一言

 

再審えん罪布川事件の無罪確定

2011年7月4日


谷萩陽一さん(布川事件弁護団)


1 櫻井さん杉山さんに再審無罪判決が確定しました

去る5月24日、水戸地方裁判所土浦支部で、「布川事件」の櫻井昌司さん、杉山卓男さんに再審無罪判決が言渡され、6月7日に確定しました。
事件発生は1967(昭和42)年8月28日。二人の逮捕はその約40日後の10月。当時20歳そこそこの二人は、強盗殺人を「やりました」と自白させられます。公判で無実を訴え、最高裁までたたかったものの無期懲役刑が確定。服役しながら、あきらめることなく再審請求を続け、逮捕から43年余を経て、ようやくこの日を迎えました。二人は獄中で29年間を暮らし、60歳台半ばになっています。

2 どうしてこんなことが起きてしまったのでしょう

まずは、警察の見込み捜査、そして自白中心の捜査からはじまります。
この事件では、被害者男性が自宅で殺され、部屋が荒らされていました。しかし、指紋や遺留品などの証拠は見つかりません。
当時の素行不良者のうち、アリバイがあやしいとみられた櫻井さんが目をつけられて、ズボン1本の窃盗という罪で別件逮捕されます。警察は犯人と決めつけて自白を迫り、櫻井さんは3日目には「自白」。その「自白」をもとに杉山さんが逮捕され、「自白」。以後、警察はひたすら二人に「犯行」を語らせます。
ここで利用されたのが「代用監獄」=警察の留置場です。四六時中警察の監視下で取調べができます。二人は送検されて拘置所に移されてから自白を撤回しますが、するとまた代用監獄に戻され、ふたたび自白させられてしまいます。

3 検察官の果たした役割は罪深いものがあります

法律の専門家である検察官は、本来「公益の代表」として警察の間違いを正すことが期待されます。ところが、この事件では、検察官が、捜査の間違いを取りつくろう役割を果たしてしまいます。今回の無罪判決でも、検察官が目撃者の供述を誘導して辻褄合せをしたことが認定されました。
さらに、公判では、弁護人が証拠開示を求めても、検察官はほとんど応じませんでした。第二次再審請求になってようやく出てきた検察官の手持ち証拠から無実の証拠が続々みつかり、再審につながったのです。
さらに、検察官は、「自分から進んで自白した」とか、本当は2回録っている自白録音テープを「1回しか録っていない」と言う警察官のウソを見抜くこともできませんでした。
検察官が公正な立場を貫けば、この事件はそもそも起訴されなかったはずです。

4 うその自白を見抜けなかった裁判官も問題です

さらに、最高裁で無期懲役が確定するまでの三つの判決は、いずれも自白は信用できる、と判断しています。
今回の無罪判決では、自白がはなはだしく変遷し、その変遷の理由も明らかでない、また、自白の内容が不合理であったり、客観的事実と不整合である、といった理由をあげて自白は信用性がない、と判断しました。無罪判決はさらに進んで、二人が虚偽の自白をさせられた心情に理解を示し、「誘導は一切していない。」という捜査官の証言は「率直さに欠けた自己防衛的なもの」で信用できない、と批判しました。
確定判決は、「やってない者が自白するはずがない。」「警察官・検察官がうそをつくはずがない。」という偏った見方が強かったために、二人の「自白」に潜む多くの問題点に目をつぶってしまったといえるでしょう。

5 厚く高い壁の再審請求

 二人は刑務所に収監されてからも、日本弁護士連合会の支援も受けて、再審請求に取り組みました。しかし、第一次再審請求は最高裁まで争ったものの棄却されてしまいます。
1996年11月に二人は仮釈放になり、その後二人は弁護団とともにさらに精力的に再審の準備と支援を広げる活動にとりくみます。
そして、第二次再審請求に対し、水戸地裁土浦支部決定は、2005年9月に再審開始を認める決定を下します。検察官は最高裁に異例の特別抗告までして争いましたが、2009年12月に再審開始が確定。無期懲役刑確定から31年ぶりのことでした。再審の壁がいかに厚く高いかを示しています。
2010年中に6回の再審公判を経て、上記のように無罪判決が確定しました。

6 すべてのえん罪被害者の救済とえん罪の根絶のために

布川事件は、「えん罪のデパート」とも言われるほど、えん罪の原因となる日本の刑事司法の問題点があらわれています。
捜査官の見込み捜査にもとづいて、代用監獄の密室で、弁護人もいないまま、別件勾留等も利用して長期間の身柄拘束下で自白を強要する、目撃供述も誘導して作りあげる、公判では検察官に不利な証拠は開示されない、裁判官は自白を偏重する、といった問題です。
その意味で、決して特殊な事件ではないだけに、再審無罪判決が確定したことは大きな意義があります。
一連の司法改革の中で、被疑者段階でも国選弁護人が付けられるようになったり、一定の証拠開示制度が作られたりといった改革が行われています。しかし、取調べの全過程の録画による「可視化」や全面証拠開示など、まだ課題が残されています。
布川事件の再審無罪判決は、現在もえん罪を訴えている多くの事件関係者の励ましになるとともに、えん罪を生まない刑事司法改革の大きな力になるものです。
憲法で保障された適正手続の原則や刑事被疑者・被告人の権利は、先人たちの多くのたたかいによってかちとられてきたものでした。布川事件のたたかいもそうした人権保障の歴史に貴重な一頁を加えたものと言ってよいと思います。

谷萩陽一(やはぎよういち)さんのプロフィール

1984年弁護士登録。茨城県弁護士会所属。水戸翔合同法律事務所所長。1996年から布川事件弁護団に参加。2008年度茨城県弁護士会会長。日本弁護士連合会裁判員本部副本部長。





 
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