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国連で進められている「平和への権利」の国際法典化 〜平和的生存権を世界標準の人権に〜

2011年8月1日


笹本潤さん(日本国際法律家協会事務局長・弁護士)


 現在、国連で「平和への権利」を世界の人権宣言にしようという動きがあります。
 2011年6月17日に、ジュネーヴにある国連人権理事会で「平和への権利」を世界人権宣言のような国際法典にするための促進決議が、理事国47ヶ国のうち、32ヶ国の賛成で採択されました。
 この「平和への権利」は、日本国憲法の前文に書いてある平和的生存権を含む、広い意味での「平和」への権利です。従来は、平和の問題は、国家間の権利義務としてだけ捉えられてきましたが、それでは誰が国家に義務を守らせるのかが不明確です。そこで、人々が自らの権利として政府に対し、平和を実現するよう要求できる「個人の権利」となって、人々によって国家をコントロールしようとするものです。
 日本では、憲法前文に平和的生存権が規定されていますが、国連で議論されている「平和への権利」はこのような平和的生存権も含みます。そのような権利規定を持たない多くの国にとっては、平和への権利が国際人権として確立すれば、平和への権利や平和的生存権を自国の憲法に取り入れることも可能となります。
 また、この国連の「平和への権利」は、単に「戦争がない」という意味での平和だけでなく、恐怖と欠乏からの自由という積極的平和の実現も目標にしています。日本の平和的生存権も、「恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利」ですから本来的に豊かな内容を持っています。貧困など経済格差のない社会で生活する権利、放射能のない健康な環境のもとで生活する権利などのさまざまな権利が、平和の実現にとっても必要だと認識されなければなりません。
 現在、平和への権利の人権宣言案を起草する国連の諮問委員会は、「軍縮の権利」や「人間の安全保障の権利」、「良心的兵役拒否の権利」、「圧政に抵抗する権利」など平和に直結する権利や、「平和教育」、「発展・開発」、「気候変動などの環境」、「犠牲者・脆弱な集団」など様々な種類の権利や基準を提案しており、これについて各国政府や市民社会にも意見を求めています。
平和への権利の促進決議は、人権理事会では2008年以来4回決議され、人権宣言の起草委員会も設置され、2012年1月には草案ができる予定です。
 しかし、日本政府は、アメリカ、韓国、ヨーロッパ諸国などとともに、この決議に反対しています。日本は、憲法に平和的生存権を規定している数少ない国なのに、平和への権利の促進決議に反対しているのです。アメリカなどが決議に反対する理由は、「平和の課題は国連安全保障理事会のテーマだから」といいます。安全保障理事会においてはアメリカなどの5常任理事国が事実上の決定権を持つので、その体制を維持したいのでしょう。決議に反対することは、世界の市民から「平和への権利」を主張されることを恐れているからでしょう。
 この平和への権利の国際法典化の動きは、2006年以来の世界のNGOがキャンペーンを進めてきた成果でもあります。それだけ平和への権利を望んでいる世界の市民が多いのです。現在この運動を支持するNGOは世界中で約1800団体に達します。日本の市民団体もこの動きに合流し、平和への権利を国際標準の人権にしましょう。
 日本からは、特に憲法前文の平和的生存権、平和的生存権の法的権利性を認めた長沼、名古屋高裁判決、広島・長崎などの核廃絶の要求、沖縄などの米軍基地問題、福島など原子力発電の問題などのテーマを発信していく必要があります。これらに関する権利が国際標準の人権になったら、日本における平和的生存権もより強力な実効性のある権利になっていくでしょう。
 また、この平和的生存権を世界に広げていく運動は、平和的な国際環境をつくっていく憲法9条を守り、広げるための国際平和運動の一つともなります。9条や平和的生存権が憲法に規定されていない国でも、平和への権利を取り入れていく道筋をつくっていくことになるでしょう。

 
国連人権理事会のNGO代表
  『平和への権利を世界に』(かもがわ出版)

 

◆笹本潤(ささもと じゅん)さんのプロフィール

 弁護士。あかしあ法律事務所。日本国際法律家協会事務局長。
 海外の法律家やNGO等とのネットワークづくりを進める。
 「9条世界会議」発起人の一人。国際NGO「武力紛争予防のためのネットワーク」(GPPAC)の運動にも取り組む。2008年コスタリカに留学し中南米の憲法問題を調査・研究する。
 現在、平和への権利の国際法典化やグローバル9条キャンペーン、世界の米軍基地撤去の運動などに取り組む。
 著書に『世界の平和憲法 新たな挑戦』(大月書店)、共編著書に『5大陸20人が語り尽くす憲法9条』『平和への権利を世界に』(かもがわ出版)、『9条は生かせる』(日本評論社)。






 
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