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今週の一言

 

高校授業料無償化の朝鮮学校への適用問題

2011年8月22日


朴三石さん(朝鮮大学校教授)


生徒の切実な訴え

 日本にある外国人学校の内、31校が2010年4月から高校授業料に相当する就学支援が適用されている。高校の段階にあり、各種学校でありながら除外されているのは、朝鮮高校(正確には朝鮮高級学校。以下、同様)の10校のみである。就学支援金は、学校に支払われるものではなく、生徒個人に支給されるものである。
 朝鮮高校に通うある生徒は、「私たちに権利をください。学ぶ権利を。突然、現れた差別。この問題で必死になってたたかうなんて想像もできなかった」と述べている。この言葉のなかに、3世、4世である子どもたちの切実な訴えが率直に語られている。
 昨年、2月にこの問題が浮上した際、朝鮮高校の生徒たちは、当時の首相に実際に会って訴えたいとした。首相も会うことを否定はしなかったが、実際に会うことはなかった。
 この1年半の推移をみると、首相の決断により、適用に踏み切れることが明らかとなっている。

高校無償化で外国人学校を含めたことは画期的なこと

 日本の教育行政のなかで通常時に外国人学校への国庫補助を制度的に適用したのは、高校無償化法が初めてである。
 このことは、外国人学校を一律に排除してきた日本の教育行政を大きく改め、外国人学校で学ぶ生徒にも、教育の条件を整えようとするものであり、高く評価できるものだ。
 しかし、このような「評価」も、朝鮮学校のみを除外することによって、逆に日本国内はもちろんのこと、国連の人種差別撤廃委員会など国際社会から「人権侵害」「教育差別」という最も厳しい批判にさらされている。
 高校無償化制度の趣旨は、高校で学ぶ子どもたちが安心して学べる条件を整えることにある。ちなみに、この法律案が提示された際は、朝鮮学校もその対象となっており、予算措置の対象となっていたし、国会の審議でもそのような説明となっていた。

訴訟に踏み切らざるを得ない無念さを述べる校長先生

 全国の朝鮮高校の校長で構成される朝鮮高級学校校長会の愼吉雄会長(東京朝鮮中高級学校校長)は、6月中旬に7月末までに適用への審査手続が再開されなければ裁判に訴えざるをえないという見解を発表している。
 提訴に踏み切らざるを得ないという学校関係者の思いは複雑である。
 思いが複雑である理由の1つ目は、紆余曲折はあったものの、実際、朝鮮高校への就学支援適用の方向で対応が進められ、昨年11月末までに文部科学省が適用への申請を受理し、審査手続が中断している状態にあるからである。
 思いが複雑である理由の2つ目は、昨年8月末に提出された文部科学省の諮問機関によって提示された適用基準では、「教育課程等」「教員の資格」「施設・設備」「運営及び情報提供」の4つの項目となっており、朝鮮高校がこれらの項目の基準を満たしていることは文科省も事前の学校訪問と調査によって確認しているという点にある。
 朝鮮学校の生徒と結びつけることは明らかに筋違いである「拉致問題」と絡めて、感情論で就学支援金の支給に反対する日本市民もいるが、ごく一部の新聞を除いて日本の新聞社の社説が一様に朝鮮学校への適用を求めていることにみるように、日本社会の良識と人権感覚は適用を求めているといえる。

歴史にみる3つの大震災及び在日朝鮮人と日本人の関係

 在日朝鮮人(在日コリアンともいう)の存在は、日本による朝鮮への植民地支配による日本への移動が背景にある。
 その在日朝鮮人をめぐって、甚大な被害を及ぼした大地震が3つあった。
 1つは、1923年の関東大震災である。天災の被害のみならず、人災によって約6000人の朝鮮人が虐殺された歴史がある。2つ目は、1995年の阪神淡路大震災である。在日朝鮮人も129人の犠牲者が出た。一方、このとき、朝鮮学校の校庭で繰り広げられた在日朝鮮人と日本人との助け合いと交流によって、新たな共生関係が結ばれた。これは、それまでの国際交流の積み重ねの結果でもあり、日本社会の成熟度を示すものでもあった。
 そして、今回、2011年の東日本大震災である。多数の在日朝鮮人の犠牲者が出ており、宮城にある朝鮮学校が被災した。しかし、そこでも在日朝鮮人と日本人の助け合いと交流が繰り広げられた。
 在日朝鮮人は、永住権をもち日本社会のなかで、日本人と密接な生活実態のなかで暮らしている。自然災害も同様に受ける。人間として、互いの思いを通わせ、助け合っている。子どもたちの教育の条件を整えてやることに重大な関心を向けるその心情も同様である。朝鮮学校は、在日朝鮮人と日本人の共生を育む重要な拠点となっている。

憲法の「教育を受ける権利」をはかりにして決断を

 朝鮮学校の処遇問題をめぐって、日本社会のみならず、国際社会でも、「日本の良識」と「日本の人権水準」が厳しく問われている今こそ、日本政府には憲法に定める「教育を受ける権利」をはかりにして、朝鮮学校の生徒への就学支援への審査手続を即時に再開することが強く求められている。
 憲法26条には、「教育を受ける権利」が定められている。その基本内容は、教育の機会均等とその実質的保障である。この条文は、国民が主体となっているが、外国人もその享有主体となる。国民の文言のみで、権利主体を定めることが不十分であることは、国民の義務となっている納税を外国人も同様に果たしていることからもわかる。国民でないという理由で納税義務から除外されることはない。さらに在日朝鮮人などの外国人については、永住者として生活実態の本拠が日本にあり、日本在住に至った歴史的経緯からして、日本国民と同様の扱いがなされることが憲法の趣旨に合致する。
 教育の機会均等の考え方は、教育における平等の実現であり、差別の禁止である。この考え方で重要なことは、子どもの「能力」以外のいかなる「要因」や「事情」によっても、教育を受ける権利が妨げられてはならないという点にある。
 朝鮮学校の生徒をめぐる高校無償化適用の問題も、この視点から接近することが憲法の要請であるといえる。子どもたちの「能力」と無関係な「政治事情」「大人の都合」「政治的打算」「拉致問題」「朝鮮半島の南北緊張関係」などの要因は、その「能力」と無関係な「要因」「事情」である。
 実に、朝鮮学校への高校無償化の適用除外問題ほど、差別とはどのようなものなのかを明白に示している事例はない。
 まさに、朝鮮学校の生徒への高校授業料無償化への審査手続を速やかに再開し就学支援を適用する問題は、日本社会の正義と道理が国際社会のなかで鋭く問われている焦眉の問題だといえよう。

◆朴三石(パク サムソク)さんのプロフィール

 1954年、岐阜県で生まれる。
 現在、朝鮮大学校教授。法学博士。
 山梨大学(1992年)、鹿児島大学(1999年〜2010年)非常勤講師
 
主な著書
 『海外コリアン』(中公新書)、『外国人学校』(中公新書)、
 『教育を受ける権利と朝鮮学校―高校無償化問題から見えてきたこと』(日本評論社)(法学館憲法研究所・憲法情報<憲法関連書籍・論文>HPに紹介掲載




 
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