法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

今週の一言

 

原発がもたらす憲法破壊

2011年8月29日


山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表 劣化ウラン研究会代表)


 はじめに

 日本国憲法の三大原理は基本的人権の尊重、主権在民、平和主義である。
 それに対して原子力発電所というものは、あらゆる観点から反している存在だ。おそらく憲法の理念の対極にある存在と言ってもいいだろう。極端に過ぎる?そんな声も聞こえてきそうだが、前文を読むだけでも、その理念に反した実態をいくつも見つけることが出来る。そう。何なら中学生に聞いてみれば良い。特に福島県の中学生に。私たちは今、福島をはじめとした子どもたちに対して顔向けできないことをしてきたことを思い知ることになるだろう。

1.日本国憲法前文、第3章の違反

 ちょっと意外なことから述べてみよう。12条では国民は不断の努力によって自由と権利を保持しなければならない。これまでその努力を怠ってきた私たちにも、個々人の程度の差はあるとはいえ責任の一端はあると言うことだ。
 原発は11条の「基本的人権の享受」の権利を侵害し、13条の「幸福追求権」を真っ向から否定する。
 15条の公務員についての規定にも反している。彼らは電力や原発推進勢力の奉仕者として行動し、決して全体の奉仕者ではなかった。彼らにより行われた不当な行為によって受けた被害は17条により賠償請求することになろう。
 21条の表現の自由に対する弾圧は、まさに現在進行形だ。8月6日に東京で行われたデモは狙い撃ち逮捕さえ行っている。インターネット検閲など言語道断の事業を事もあろうに国が始めている。これも原発反対の声を押しつぶしたいからだ。

2.民主主義、地方自治の破壊

 原発や原子力施設を立地しようとする側(国や電力だけでなく利権集団)は、ありとあらゆる手段を行使して地方に押しつけようとする。これはまさに「地方自治の破壊」であり民主主義の否定だ。
 電源三法交付金という買収資金は立地点の環境影響評価調査から始まる。極大になるのは運転開始年度あたりで、その後運転終了時まで支払われ続け、総額は50年間で約1384億円(135万キロワットの原発を40年運転する場合のモデルケース)にものぼる。その他の原発政策、例えば高レベル放射性廃棄物の地層処分についても、再処理施設にしても、燃料貯蔵施設にしてもあらゆる施設建設に、この種の「ばらまき」が行われる。町作りはこの巨額の交付金等への依存体質により大きくゆがめられる。産炭地域で閉山により町が立ちゆかなくなる事態が相次いだが、原発依存も同様の経済破たんに見舞われる。
 原発が押しつけられた後に待っているのは、今回のような原発震災あるいは原発事故による、ふるさと喪失か、あるいはハコモノの維持を含めて地方財政を破たんさせないために何基もの原発を受け入れ続け、環境を破壊しリスクを増大させることになる。
 福島原発震災でも明白になったとおり、原発事故に行政区割りは無意味であるため、遠く離れた自治体が原発を拒否して有機農法や自然を生かした観光事業を展開していた場合であっても、飛んできた放射能で壊滅的打撃を受ける。その場合、原発を受け入れないで町作りをしていた自治体の地方自治を破壊する。そのようなことをしてまで莫大な交付金をばらまき、地方自治を破壊する行為は憲法に反するだろう。

3.法令違反のオンパレード

 憲法の下に制定された多くの法律は、放射性物質の大量拡散により、ことごとく破壊の危機に立たされている。既に告発もなされているが、傷害罪、業務上過失傷害罪あるいは業務妨害、器物損壊、建造物損壊。人間の被曝については一般人年間1ミリシーベルト、職業人5年で100ミリシーベルトまでという規定は有名無実化されつつある。そのうえ放射性物質に汚染された場合の法令についても、ことごとく違反状態だ。食品も大変な放射能に汚染されているが、暫定基準値の食品を一年間食べ続ければ1ミリシーベルトの基準を超えてしまうから違法である。毎時0.6マイクロシーベルトの空間線量に達したら、そこは放射線管理区域として隔離し除染しなければならない。いまや放射線管理区域相当の場所に何万人も住んでいる実態を、いったいどのようにして法的に定義づければ良いのか。
 他にもたくさんの法令に違反する。皆で考えてみてはどうだろう。

4.核武装のための原発

 日本は原子力を平和利用のために導入したとされている。小形戦術核の保有については憲法に違反しないとする内閣法制局見解があるとしても、国際条約、国内法的に核兵器保有を禁じている。ところが石破自民党政調会長は8月17日の報道ステーションにおいて「原発は核武装のためにも必要」と発言した。本音を語ったものであろうが、これで話ははっきりしたであろう。核武装と「平和利用」の原発には明確な境目など無い。少なくても自民党政権においては、核武装を決意すれば、1年以内に核保有が出来るようにと準備をしていた。そんな日本の立場が「核抑止力として機能している」というのが石破氏の主張であり、これでは事実上の核武装国だ。周辺国には「そんな日本が隣にあれば抑止力として核兵器が必要」と言われるだけだ。
 これは平和主義に真っ向から反するだけでなく、日本という国の法令遵守とはこの程度のこと、すなわち何らかの理由(口実)があれば法律などかなぐり捨てて核武装するぞと、その程度の信頼性しかない国であることを内外に発信しているということだけで、国際社会において信頼の置けない国であるという評価を受ける、その意味でも憲法前文に違反することになる。

◆山崎 久隆(やまさき・ひさたか)さんのプロフィール

1959年生まれ。「たんぽぽ舎」副代表。
「劣化ウラン研究会」代表。TUP(平和のための翻訳者たち)メンバー。86年チェルノブイリ原発事故以来日本でも同じような重大事故が迫っていると、原発の安全性問題を中心に活動。合わせて湾岸戦争以来米英軍などが使った劣化ウラン兵器の影響を調査し廃絶の取組に参加。
共著書:『放射能兵器・劣化ウラン』(技術と人間)、『原発事故から身を守る』(第一書林)、『原発の地震 防災はどうなっているか』(たんぽぽ舎パンフレット)、『冬の兵士』(岩波書店)『TUPアンソロジー世界は変えられるI・II』(七つ森書館)他多数。




 
[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]