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今週の一言

 

衆参対等・連立時代における比例定数削減の愚

2011年9月26日


小堀眞裕さん(立命館大学法学部教授)


1、「下院の優越」は日本に存在しない。

 現在、民主党政権は、衆議院比例定数を180から100に減らし、さらに小選挙区を中心にする方向で動いている。1980年代末以来、衆議院を中心に二大政党化を強めるウェストミンスター化が日本で進められてきたが、その方向は、1946年発布の日本国憲法に必然的に衝突する運命にあった。

 なぜなら、英国では1911年議会法以来、予算関連法案は、上院貴族院の反対に関わらず、下院決議だけで一ヶ月後の自動成立が確保されているが、このウェストミンスター・モデルで最も中核的な部分が、日本国憲法にはないからである。1946年2月3日に、マッカーサー・ノートは「予算の型は、英国制度に倣うこと」と書いたが、3月6日に発表された「憲法改正草案要綱」の段階で、早くも、明治憲法以来の予算と法律の区別が維持された。この区別は、ビスマルク政権が議会の反対を退けて戦争予算を確保するため作り出されたものであり、その部分を明治憲法が真似たといわれる。日本国憲法でも、予算と法律の区別は強靭に残り、予算のみが衆議院の可決後自動成立できることになった。当時「内閣著・内閣法制局閲」として出版された『新憲法の解説』では、英国の予算関連法案に関する規定は、日本の「新憲法の規定と同じ」と書かれたが、実のところ、「衆議院の優越」は、決定的な部分で英国的「下院の優越」ではなかった。したがって、今日の日本では、特例公債法案や税制改革法案など、予算関連法案は、衆院3分の2以上の再可決がない限り、衆参両院の議決を必要とすることになった。

 上記は戦後憲法学で議論にもなり、よく知られたはずであったが、この20年間の政界は、事実上英国型が可能という前提で、衆議院で小選挙区増・比例削減を行ってきた。このウェストミンスター化は、結局、中選挙区や比例区が多く野党が優位な参議院に衝突し、首相辞任を条件に法案を通過させるという事態にまで至った。衆参対等でしか回らない現憲法下において、「下院の優越」幻想で改革を行った結果、衆院で大幅過半数を持つ不安定政権が続いている。したがって、この改革を維持・強化するなら、最低でも、憲法60条2項を改正して予算関連法案での自動成立を確保しないと、国会は機能しない。

2、参議院の選挙結果は無視できない。

 しかし、実のところ、衆議院優越の強化も、問題の解決にならない。なぜなら、過去の参院選の結果は、「直近の民意」とされた例が多く、無視できないからである。衆院選では、2005年郵政解散の例もあるが、消費税可決時の88年に衆院解散はなく、むしろ、導入直後の89年の参院選が消費税を争点化した。2010年参院選でも、事実上消費税10%が争点となった。この約20年間、実際には「民意を問う」選挙が参議院で行われたことが多い。こうした過去の例を考えると、たとえ憲法改正で衆議院の優越が強化されても、「直近の民意」である参議院選挙の結果を無視することは難しい。ちなみに、英国では、来年、貴族院は直接公選制になる法案が提出される予定であるが、その選挙は下院との同日選挙になり、下院の意思に矛盾する上院選出は防止される計画である。

3、大連立と首相解散権は矛盾。英国では首相解散権が廃止された。

 衆議院優越の強化で問題が解決できないとすると、さらに大規模な憲法改正に進むか、さもなければ、大連立よりほか、道はない。実際、民主党は、自公との大連立を模索している。ただし、この大連立という解決策は、恒常的になる危険性がある。なぜなら、民主、自公のどちらも両院過半数のためには、衆参二連勝が条件となるからである。しかも、自公なら参院選で63、民主国民連立では78が必要で、どちらも過去三回の参院選の実績を上回る必要がある。

 しかし、大連立にも、問題が立ちはだかる。首相の解散権である。もし、仮に、自民が大連立に入り、法案成立などが軌道に乗り、野田政権や民主党の支持率が上昇すれば、野田政権は解散を考えるはずである。しかし、民主党の支持率が上がっての解散は、自民にとっては困るであろう。逆に、自民党から首相を出しても、逆の形で同様の事態の可能性がある。つまり、大連立と首相の解散権が、矛盾する可能性がある。

 実は、このことは、英国政治でも問題となってきた。英国では、2010年総選挙の結果、306議席の保守党と57議席の自民党の間で連立政権が出来たが、そこでは、保守党の支持率上昇で連立解消・即解散という策を封じるため、連立政権は固定期間議会法を、今年9月14日に成立させた。この法では、総選挙は5年ごとの定期とし、その間には下院3分の2以上による不信任案成立がない限り解散することはできない。つまり、英国首相の解散権は事実上廃止された。これにより、近年、首相による全く不定期な解散をしてきた国は、日本を含めて3カ国だけになった。衆参不一致の選挙自体が、政権を短命化させたことを考えれば、再検討の必要があろう。

4、英国でも進むウェストミンスター離れ

 なお、こうした英国の改革は、むしろ、脱ウェストミンスター化である。英国では、今年5月に国民投票が行われ、小選挙区制が下院選挙制度として維持された。しかし、この国民投票で、対案となったのはAlternative Voteという小選挙区制の亜種であったので、小選挙区制自体が支持を十分に得たとはいえない。また、著名な投票行動研究者であるジョン・カーティス(ストラスクライド大)は、スコットランドや北アイルランドでの地域政党の伸張が強いため、小選挙区制でも連立政権が続く可能性が、今後もあると述べている。いまや、英国で二大政党が互角となっているのは、イングランドだけであり、保守党はスコットランドでは59議席中1議席しかとれず、北アイルランドでは二大政党は存在さえしていない。さらに、世界的に見ても、2010年5月英国労働党政権が総選挙で敗れてから、今年5月にカナダ保守党政権がギリギリ過半数を確保するまでの一年間、小選挙区制で議会単独過半数を持った政権は、ゼロであった。

5、比例代表中心の衆議院で、本格的な合意型民主主義を

 このように見てくると、英国でも変容が迫られ、世界的にも希少なウェストミンスター・モデルに日本政治が進む理由は、見出しがたい。政権交代は小選挙区制以外でも、可能である。むしろ、小選挙区制中心の衆議院を基礎とした「強い内閣」や、首相の解散権独占という発想と決別し、衆参対等の連立時代と根本的に向き合う必要がある。比例代表を中心に衆議院選挙制度を改革し、参議院とのバランスが取れる制度にした方が、衆参での過半数獲得に本気で取り組む行動が呼び起こされ、連立時代の日本政治に適合する(なお、現状の選挙タイミングで、両院を小選挙区優位にすると、「ねじれ」悪化の可能性がある)。また、比例代表中心にすれば、自公は組む必要がなくなり、民主、自民の二大政党や政権交代を前提としつつも、中小政党が協力し合う本格的な合意型民主主義の実現の足がかりとなる。「ねじれ」の一因は、小選挙区制が中小政党に選挙協力を強制し、連立追求の自由度を制限することにあった。また、大勝できない比例代表では、首相の解散権行使による利益も少なくなり、連立合意で実質的に首相の解散権を制限し、衆参同日選挙を常例とする道も開けてくる。

◆小堀眞裕(こぼり まさひろ)さんのプロフィール

イギリス現代政治を中心に研究。著書に、単著『サッチャリズムとブレア政治』(晃洋書房)、共著『イギリス現代政治』(ミネルヴァ書房)、共著『包摂と排除の比較政治学』(ミネルヴァ書房)、単著「イギリスにおける選挙制度改革運動の問題意識――2011年2月インタビュー調査の報告――」『立命館法学』2011年2号などがある。




 
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