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911から10年の憲法論争に求められる新たな視点

2011年10月24日


柳澤協二さん(元防衛研究所長・元内閣官房副長官補)


 911から10年が経過した。イラクは、政治的独立を回復した後も依然として混乱が続いている。アフガニスタンでは、米軍の撤退が迫る中、治安はむしろ悪化している。今年5月には、対テロ戦争の標的であったオサマ・ビン・ラーディンが殺害されたが、テロの脅威はなくなっていない。この10年の経過は、軍事力による国家の転覆がテロ撲滅には役立たなかったことを証明している。
 米国内でも、多くの米軍兵士や民間人の犠牲が戦争の大義に大きな疑問を生じ、膨大な戦費負担が米国の国家財政を破綻のふちに追いやっている。2つの戦争は、明らかに「無駄な戦争」であり、政治的に「誤った選択」であった。
 この間、日本は、米国の対テロ戦争を支持してインド洋に自衛隊を派遣し、「同盟国の義務」という論理でイラクに自衛隊を派遣した。これらは、日本の"show the flag""boots on the ground"として米国から評価された。日米同盟は"better than ever"といわれる時代を迎え、政治的・軍事的リスクを共有する「真の同盟国」として「深化」する方向性が固まっていった。
 05年5月の小泉・ブッシュ共同声明では、中曽根首相の「西側の一員・日米運命共同体」、橋本首相による「日米安保の(地域安保としての)再定義」をさらに進め、日米同盟のグローバル化を謳いあげた。
こうして、911を契機に、日米同盟を唯一の拠り所とし、グローバルな軍事協力によって米国主導の国際秩序を維持するための「日米同盟基軸」路線が確立され、政権交代後の民主党政権にも継承されている。安倍内閣が進めた集団的自衛権に関する憲法解釈の見直しや、民主党前原誠司政調会長が表明した憲法解釈・自衛隊の武器使用基準の見直しも、こうした文脈の中でとらえる必要がある。
 一方、米国が自国経済の復興を優先し、イラク・アフガニスタンから撤退を進め、中東民主化にも主導的役割を果たせなくなった今日、グローバルな軍事協力を柱とする日米同盟基軸路線は破綻を余儀なくされている。安倍内閣による憲法解釈見直しが頓挫したのも、参議院選挙の敗北が直接の原因とはいえ、イラク後における同盟協力のメニューが見出せなかったことが背景にある。
 他方、前原氏の「解釈改憲論」は、日米同盟だけでなく、PKOという国連主導の秩序維持における日本の役割を意識しており、南スーダンへの自衛隊派遣が検討される中で、一定の政治的影響力を持つ可能性がある。
 私は、憲法解釈の変更を一概に否定する立場ではない。例えば、57年の朝日訴訟は、生活保護水準が憲法第25条の「生存権」に合致するかどうかを問うものであったが、今日、ワーキング・プアに代表される格差の拡大の中で、「生存権」のあり方が再び問われている。それは、日本の産業構造や経済原理そのものを問う問題でもある。
 同様に、グローバル化が進む今日の世界で日本と日本国民の安全をいかに守るかという課題も、戦争が是か非かといった単純化した視点ではなく、冷戦時代とは異なる多様な視点から、政策としての合理性を考えなければならない。
 私が安倍・前原両氏の解釈改憲に反対するのは、第1に、戦略的基軸を依然として日米同盟のグローバル化においている点で政治的合理性がないこと、第2に、自衛隊の海外任務が人道・復興支援に限定される(べきである)以上、武器使用の拡大には軍事的合理性がないと考えるからだ。
 憲法第9条を巡る論争は、つきつめて言えば、どのように国の安全を守るかというビジョンの論争である。改憲論の中には、世界の困っている人々を助けなくてよいのか、という「善意の」動機もある。自衛隊や米国を批判するだけではこうした「善意の」意見を説得することはできない。
 護憲の目的が平和すなわち戦争を防ぐことであるなら、今日の国際社会における戦争の発生メカニズムを知り、それが、日本だけでなく米国や中国にとっても、政策的に合理性がないことを立証し説得する努力が必要である。

◆柳澤協二(やなぎさわ きょうじ)さんのプロフィール

東京大学法学部卒。防衛庁に入庁し、同運用局長、防衛研究所長などを経て、2004年から2009年まで内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)として、イラクの自衛隊を最初の派遣から最後の撤退まで統括。著書に「抑止力を問う」「脱・同盟時代」。




 
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