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書評 浦部法穂著『憲法時評(2009-2011)』(HuRP出版、2011年)

2011年11月14日


田中祥貴さん(信州大学)


 この社会は、実に難解なアポリアに満ちている。「震災復旧・復興」「普天間基地移設」「消費税・財政再建」「TPP」「国旗・国歌」等をはじめ、にわかに「解」を見出せない政治問題が山積している。そして、この社会では、立憲主義を採用するものの、通例、政治問題は、「法的」にではなく、「政治的」に解決されてゆき、事実上、憲法規範がそこに作用する余地はない。これまでに憲法規範は、政治的「現実」を前に常に後退を余儀なくされ、今や、憲法規範は政治的生から放逐された状況にある。ところが、今般、その憲法規範と現実政治を架橋し、この現代社会において憲法規範再生への道を切り拓く言説を、我々は本書に見出すことができる。
 著者は、法学の世界では誰もが知る著名な憲法学者である。2009年3月の退官以降も、今なお、その浦部憲法学には根強いファンが多い。評者もその一人である。浦部憲法学の魅力は、何よりも、型破りな視点とそれを支える筋の通った理論構成にある。また、常に、権力に与することなく、いかなるタブーをも持たず、「常識」と呼ばれるものに果敢に挑戦し続ける姿勢は、振れることがない。Henry de Bractonの法諺を捩れば、「浦部法穂は、何人の下にもあらず、ただ、法の下にあるのみ」と表現できようか。そこに一貫して垣間見られるのは、憲法学への誠実さと、憲法規範の普遍化に向けた信念である。
 本書もその延長線上に位置付けることができる。本書は、「東日本大震災」「平和主義」「自由・人権」「刑事手続き」「政治・政権交代」「社会政策・制度」「司法」「税制・国家財政」「地方自治」「国際社会と外交」というテーマ項目に沿って、現在の日本が抱えるあらゆる時事問題を網羅し、そのすべてに憲法学的視座から、合理的な「解」を示している。
 もちろん、現実的な政治的生の中に「正解」は存在しない。そして、その選択の是非は、主権者である我々ひとり一人が自律的に判断しなければならない。ところが、実際には、主権者である我々の多くは、日々の生活に追われ、主権者としてはパートタイマーと化し、現実の政治問題に対して、自律的判断を行う習慣を喪失しているのではないか。あるいは、自律的な判断だと信じている選択が、実は、権力者による情報操作の上に成り立つ虚構に依拠している危険性はないだろうか。本書は、そのような主権者として求められる自律的判断能力、それを支える知的体力を涵養する一助となってくれるはずである。
 そのために、本書は、普段、我々が無批判に依拠する「常識」に対しても、異なる視点から、この「常識」に揺さぶりをかけてくる。例えば、オリンピック日本代表やなでしこジャパンへの応援を例示しながら、なぜ、面識もない「赤の他人」である選手らの活躍に歓喜するのかと。その根拠は、我々が「日本人」であるという日本国への帰属意識に他ならない。ところが、この背景にある「国民国家(nation state)」の概念は、本来、観念的な虚構に過ぎず、権力者が「仕掛けた」国家統合の政策的手段であって、この国家帰属意識をあたかも自明の如く認識することは、「権力の『仕掛け』に人々がまんまと乗せられていることを示」しており、場合によっては「愛国心」とも連動し、全体主義の推進力へと転化しかねない危険性を内包すると指摘する(本書142-143頁)。
 「常識」とされているものも含めて、「すべては疑える」のである。ゆえに、主権者として、我々は、常に、批判的考察力を養い、権力者と向き合う必要がある。それは、我々が有する「自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持」してゆくことが所与の前提だからである(憲法12条)。したがって、たとえ民主的基礎の上に立つ権力といえども、我々が権力自体に内在する危険性に無自覚で、権力への不断の監視を怠ったとき、「民主主義の結果としての民主主義の死滅という現象」を招来させ、我々は自らの「自由及び権利」を喪失するであろうと警告を発している(本書131頁)。
 その他にも、多くの時評を通じて、本書は、憲法学と現実社会を架橋しながら、読者にさまざまな「気づき」を与えてくれる。現在の政治問題をどう評価すればいいのかと思案している人、または、この社会の動向に釈然としない何かを感じている人には、是非とも、本書を一読してもらいたい。目から鱗が落ちたような、または、すっと腑に落ちる「爽快感」を覚えるに違いない。浦部憲法学のファンならずとも一読の価値ある一冊である。

◆田中祥貴(たなか よしたか)さんのプロフィール 

1970年生。大阪市出身。神戸大学大学院後期博士課程修了、博士(法学)。現在、信州大学 全学教育機構 准教授。「委任立法と議会」をテーマに、英米の議会制度論・憲法解釈論を基軸として比較憲法学の研究に従事している。




 
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