法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

今週の一言

 

大阪泉南アスベスト国賠訴訟・大阪高裁で逆転敗訴 ― 憲法を取り戻す闘い ―

2011年11月21日


奥田愼吾さん(弁護士・大阪泉南アスベスト国賠訴訟弁護団)


1 被害者を見殺しにする不当判決

2011年8月25日、大阪高裁(裁判長三浦潤、右陪席大西忠重、左陪席井上博喜)は、大阪泉南地域のアスベスト被害について国の不作為責任を認めた大阪地裁判決を取り消し、原告の請求を全て棄却するという不当判決を言い渡した。裁判官が逃げるように去り、法廷は騒然となった。

2 大阪地裁での日本初の勝訴判決

大阪泉南アスベスト国賠訴訟(第1陣・原告32人)は、アスベスト被害について国の責任を問う初の裁判として、2006年5月に提訴した。泉南地域は、100年にわたってアスベスト紡織業が発展し、小規模零細の工場が集中立地していた。国は、戦前から泉南地域のアスベスト工場労働者を調査し、アスベストの危険性を知っていた。にもかかわらず、国は、戦前は軍需、戦後は経済成長を優先させ、アスベストの危険性情報の提供や必要な規制を怠った。労働者たちは、アスベストが危険だとは全く知らされず、アスベストの粉じんまみれで何十年も働き、また、労働者の家族や工場近隣住民も、同様に工場から家族が持ち帰った粉じんや工場から排出される粉じんを浴び続けた。その結果、数十年の潜伏期間を経て、石綿肺(じん肺の一種)や、肺がん、中皮腫などのアスベスト関連の肺疾患にかかり、健康を奪われ、命を奪われた。
第1陣訴訟については、2010年5月19日、大阪地裁(小西義博裁判長)において、日本で初めて国の不作為責任が認められ、しかも国の全損害を認める画期的判決が下された(ただし近隣被害者の請求は棄却)。その後の控訴断念の闘いでは、当時の長妻厚労大臣に控訴断念の意向を表明させるまで国を追い詰めたが、結局、国は不当にも控訴をした。これに対して原告団も控訴した。

3 人命よりも産業発展を優先する大阪高裁判決

原告団、弁護団は「生きているうちに救済を」をスローガンに、高裁に和解勧告を出させ、早期解決を求める方針をとった。第2回期日で裁判長が国の和解への姿勢を問うたが(事実上の和解勧告)、国は不当にも和解を拒否した。判決を取るしかない状況の下、原告側は立証を仕切り直したが、その過程で、本年8月初めに退官を控えていた裁判長が「ベストを尽くします」と発言し、高裁は現場検証(大阪地裁で敗訴した近隣被害の立証)を敢行し、病状が進んだ本人尋問も5名全て採用した。高裁の積極的な訴訟指揮に一審以上の判決が出されるのではないかという期待とともに判決日を迎えた。
ところが、まさかの全面敗訴判決。原告団、弁護団は目の前が真っ暗となった。大阪高裁は、国民の健康被害などの弊害が懸念されるからといって、厳格な規制をすれば、工業技術の発達及び産業社会の発展を著しく阻害するだけではなく、労働者の職場自体を奪うことにもなりかねないなどとし、産業発展と人の命、健康を天秤にかけ、前者を重視するという驚くべき判断を示した。その上で、一審が認めた不作為の違法性を否定して国の責任を免罪する一方、アスベストの危険性を知り得た事業者や労働者が防じんマスクをつけるべきであったとし、責任を被害者らに押しつけた。

4 憲法を蔑ろにする判決を許さない

ある原告は、大阪高裁判決を受け、「裁判長のことを鬼のように思いました。刃物がなくても人が殺せる、胸に刃物を刺されたように思いました。本当に辛い判決です」と述べた。原告らは上告し、既に最高裁での闘いが始まっている。大阪高裁判決は、日本国憲法で保障された国民の生命や健康を蔑ろにする判断を示しており、憲法を踏みにじる判決である。この判決の不当性に共感し、全国の弁護士が上告代理人に名乗りを挙げ、上告弁護団は1000人を超えた。また、現在、大阪地裁で審理されている第2陣訴訟で勝利をする中で闘いを進め、最高裁で必ず大阪高裁判決を覆す決意である。これは国民の側に憲法を取り戻す闘いだ。

◆奥田愼吾(おくだ しんご)さんのプロフィール

2005年弁護士登録。大阪弁護士会。泉南アスベスト国賠訴訟弁護団や松下プラズマディスプレイ偽装請負事件弁護団で活動。外国人事件(難民、労働等)にも取り組む。




 
[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]