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『平和をつむぐ―平和憲法を守る9人の手記』を出版して

2011年12月5日


青木みかさん(『平和をつむぐ』著者)


 憲法審査会が動き出した。衆参両院の審査会が2011年10月21日第1回審査会を開催し、衆議院では11月17日に審議入りした。これは9条を改める勢力を励ますことになるだろう。2006年発足した安倍内閣は1年で退陣したが、改憲の礎を固めた。
 国内では東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故収束の目処もつかず被災地の復興も遅々として進行していない。優先的に処理しなければならない問題が山積しているこの時、どうして憲法審査会が始動するのか違和感を覚える。
 私自身、戦争で夫を亡くし、弟は広島で原爆に被災した。敗戦後66年経過し、私は米寿を迎えたが、「戦争こりごり」の執念は変わらない。定年で職務を離れてから反戦のエッセイ、次の3冊を出版した。
 『どうして戦争をはじめたの―"ノー"と言えなかった狂乱の時代』(2002年)、『危い!戦争がつくられる』(2006年)、『がんを抱いて9条の会』(2009年)のタイトルで平和を訴えたがさっぱり売れない。もともと農学部出身で女子大に三十余年間勤務した私。憲法の知識もなく感情のまま綴った老婆の呟きに読者が興味を抱かないのも当然である。
 今回、表記のタイトルで、憲法学者・名古屋大学名誉教授森英樹氏と共編できたことに感謝している。2011年秋出版、平和憲法を守るために活躍している9人の手記である。戦争資料館「ピースあいち」創設の過程、シベリア抑留の体験記、軍国少年の歩いた道、あいち反戦物語、平和展22年の歩み、俳優達による反戦活動等々、当地域では有名なスターたちが自らの体験を執筆している。
 全国で7500に及ぶ「9条の会」が結成されている一方、「独立国である以上、自衛のためにも改憲して武装しなくちゃ」と説く風潮は広がり、改憲派は70%に及ぶ。しかし私なりに彼らの主張に数点の疑問を抱く。
 第一に、谷内正太郎元外務次官の中央公論(2010年9月号)の記事、日米関係を「騎士と馬」の関係に喩えている。すなわち日本は騎士たる米国の指示に従って走らねばならない。米国はしっかり走ることのできる「強い馬」にしようとする。今日に至っても何故日本はかくも惨めな位置に甘んじなければならないのか、結局どれだけ軍事力を強化しても走る方向性を自ら決めることができなければ主権国家としての尊厳性は生まれないのである。日本が「馬」の位置に甘んじてきたのは日本としての独自の外交戦略を欠いてきたところにあると説いている。
 私は60年安保闘争の際、4000万人の国民が反対の署名をしたのに当時の岸首相は条約に調印した後に退陣したことを追想し、条約は改定されないまま今日に至っていることを残念に思う。安保6条のため沖縄の基地問題も難航する。安保条約のある限り武装しても独立国としての自主行動は難航するのでは?と懸念を抱く。
 また独立国である以上、近隣諸国の脅威に対して自衛するのが当然だという主張がある。例えば中国は世界一約150万人の兵力を誇り、北朝鮮では核兵器の開発が進行しているといわれる。これらに武装して対峙すれば武力競争はエスカレートするばかり、核戦争を招いて双方とも滅亡に陥るであろう。
 第二に、改憲派は今日の不況を軍需産業の活性化で打破しようとする。2010年末の失業者は約320万人、有効求人倍率0.58,非正規社員は3割を占め、ニートやホームレスは400万人を超えるという。第一次、第二次世界大戦も不況が一因となったが、短絡的で危険な主張に危惧を覚える。医療や福祉面の充実のため失業者のパワーを活用したい。
 第三は、若人の姿勢、草食型といわれる素直でやさしい若者は体制に順応する。今日の平和は天の恩恵として享受している。莫大な先輩達の苦悩や2000万人に及ぶアジア諸国の犠牲者のことなど忘れられ、戦禍は風化してしまった。恵まれた環境に育った若者に戦争の影は見られない。
 さらに改憲派の中には「終戦当時、米国から押しつけられた憲法は内容も古くなったので今の時代に適合したものに変えなくっちゃ」との声もある。国会議員の中にも「押しつけ憲法」という人がいる。しかし憲法成立の過程を調べたり、加藤周一著『憲法は押しつけられたか』(岩波ブックレット2005年)などを読めば、今の世論は誤解であることが確認される。民主主義の歴史をもつアメリカやヨーロッパの憲法の中から良い部分を抜粋し理想的なものを作り上げたのがわが国の憲法である。世界の宝となっているこの平和憲法を守り、広めたいというのが私の祈念であり、今回出版の図書執筆者9名の念願である。(風媒社、1500円、電話052−331−0008)

◆青木みかさんのプロフィール

 1923年三重県に生まれる。三重大学農学部農芸化学科卒業後、九州大学大学院修士課程を修了し、1956年名古屋女子大学に勤務、1990年定年退職。現在同大学名誉教授、医学博士。
 主な著書に「老いが老いを看とるとき」ミネルヴァ書房。「短大卒のキャリアたち」、「主婦からプロへ」、反戦に関する図書3冊(本文に記載)、いずれも風媒社。




 
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