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「在日米軍の駐留は合憲か!」あらためて伊達判決を見つめよう ―砂川事件裁判記録―

2011年12月19日


吉沢弘久さん(伊達判決を生かす会事務局長)

1.伊達判決とは

 1955年に始まった米軍立川基地拡張反対闘争(砂川闘争)で、1957年7月8日、立川基地滑走路の中にある農地を引き続き強制使用するための測量が行われた際に、これに抗議して地元反対同盟を支援する労働者・学生が柵を押し倒して基地の中に立ち入りました。この行動に対し警視庁は2ヵ月後に、日米安保条約に基づく刑事特別法違反の容疑で23名を逮捕し、そのうち7名が起訴され東京地裁で裁判になりました。1959年3月30日、伊達秋雄裁判長は「米軍が日本に駐留するのは、わが国の要請と基地の提供、費用の分担などの協力があるもので、これは憲法第9条が禁止する陸海空軍その他の戦力に該当するものであり、憲法上その存在を許すべからざるものである」として、駐留米軍を特別に保護する刑事特別法は憲法違反であり、米軍基地に立入ったことは罪にならないとして被告全員に無罪判決を言い渡しました。これが伊達判決です。
 この判決に慌てた日本政府は、異例の跳躍上告(高裁を跳び越え)で最高栽に事件を持ち込みました。最高裁では田中耕太郎長官自らが裁判長を務め同年12月16日、伊達判決を破棄し東京地裁に差し戻しました。最高裁は、原審差し戻しの判決で、日米安保条約とそれにもとづく刑事特別法を「合憲」としたわけではなく、「違憲なりや否やの法的判断は、司法裁判所の審査には原則としてなじまない。明白に違憲無効と認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のものであって、右条約の締結権を有する内閣および国会の判断に従うべく、終局的には、主権を有する国民の政治的判断に委ねられるべきものである」として自らの憲法判断を放棄し、司法の政治への従属を決定付けたのです。そしてこの判決の1ヶ月後の60年1月19日、日米安保条約の改定調印が行われ、現在までつながっているのです。
 なお、砂川町(現在は立川市に編入)にまで広がっていた米軍立川基地は、68年には拡張計画を撤回、69年に日本に返還され、現在は、一部を自衛隊航空隊が使用しているものの、大半は昭和記念公園や国の総合防災拠点となっています。

2.伊達判決を覆すための日米密議

 伊達判決から49年もたった2008年4月、国際問題研究家の新原昭治さんが米国立公文書館で、駐日米国大使マッカーサーから米国務省宛報告電報など伊達判決に関係する十数通の極秘公文書を発見しました。これらの文書によると、伊達判決が出た翌朝閣議の前に藤山外相がマ大使に会い、大使が「この判決について日本政府が迅速に跳躍上告を行うよう」に示唆し外相がそれを約束しました。さらに、大使は本国国務省へ十数回に及ぶ電報で、岸首相や藤山外相との会見や言動を本国に伝えており、また自ら跳躍上告審を担当した田中最高裁長官と会い「本件を優先的に取り扱うことや結論までには数ヶ月かかる」という見通しを報告させています。このように、伊達判決が及ぼす安保改定交渉への影響を最小限に留めるために伊達判決を最高裁で早期に破棄させる米国の圧力・日米密議・があったことが、米国公文書で明らかになりました。

3.砂川裁判記録のCD−ROM化

 09年3月に、新原氏による米国公文書の発見から、伊達判決早期破棄のための日米関係者の密議の事実を知った砂川事件の元被告坂田茂(当時、日本鋼管川鉄労組)、土屋源太郎(当時、東京都学連)など砂川闘争経験者や伊達判決の意義を広げようとする約40人(現在は100人を超えている)が「伊達判決を生かす会」を結成、政府、最高裁などに日本側の関係文書・記録の開示を請求し、藤山外相や田中長官がマ大使との密議そのものの文書・記録ではありませんが、10年4月に外務省から、伊達判決が言及されている「外相・在日米大使会談録(1959年4月1日)−極秘」を始めとする何回かの安保改定交渉の秘密の公式会談録を公開させました。
 さらに、開示請求運動の中で、砂川事件裁判記録は東京地検が保管していることが判り、東京地検に対し執拗にこの記録の公開を求め、昨10年末にこの記録(22分冊5300ページ)すべての閲覧、そのコピーの入手を実現させました。私たちは、砂川事件裁判が、今日の安保条約の成立のエポックメーキングとなる憲法裁判としても、司法の独立の根幹を揺るがす判例をもたらした裁判としても、きわめて重要な裁判であることから、この全公判記録を誰でも見られるようにすることがきわめて重要と考え、今年の5月に、砂川闘争経過やアメリカ公文書・外務省秘記録の概要などの資料を添付して、CD-ROM「砂川事件刑事訴訟(公判)記録」を完成、一般頒布を始めました。
 このCD-ROMでは、28回に及ぶ第一審公判、7回にわたる最高裁公判と、伊達判決全文、最高裁判決全文(判決には同意しているものの司法の憲法審査権に言及するなどの田中裁判長自身をはじめ何人かの判事のいくつかの付帯意見も含む)も収録されています。第1審の事件の事実審理、第1審・上告審を通して、海野晋吉弁護団長を始めとする弁護団からの憲法と安保条約、行政協定(安保改定後の日米地位協定)、刑事特別措置法、土地収用法などについての諸分野から言及した一大弁論記録や、最高裁審理開始前の弁護団の人数制限措置や裁判長忌避などの法廷での争いなどの記録が、検察側の論告や上告文とともに収録されています。

 憲法問題や日米安保条約の現状、沖縄を始めとする在日米軍基地の問題に、関係・関与されている方、関心の深い方や、弁護士をはじめとする司法の仕事に従事されている方々には、この憲法と日米安保条約、司法の違憲立法審査権にかかわる砂川事件の全裁判記録を収録したこのCD-ROMをご覧いただきたいと考えます。CD-ROM「砂川事件刑事訴訟(公判)記録」(1枚2000円)の申込先は、FAX:03−3239−7870 伊達判決を生かす会(自治体退職者会気付)です。

 なお、砂川基地反対闘争や伊達判決については、この「今週の一言」欄で、内藤功さん(弁護士、元参議院議員、砂川事件弁護団事務局長)の「憲法9条をめぐる攻防とこれからの課題(1)」(2011年1月3日)や武藤軍一郎さん(九州大学名誉教授、砂川事件元被告、当会会員)の「砂川闘争の記―ある農学徒の青春」(2011年7月25日)もご参照下さい。

◆吉沢弘久(よしざわ ひろひさ)さんのプロフィル

1936年生まれ。東京大学在学中に砂川闘争に参加。自治労書記、役員などを歴任の後、全日本自治体退職者会役員。伊達判決を生かす会結成に参画・事務局長。




 
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