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「暮らし」を改善し安心して生活できる社会を―消費税は増税すべきでない(その2)

2011年12月19日


山家悠紀夫さん(「暮らしと経済研究室」)


前回からの続き>

――それでは、どこに財源を求めたらいいでのでしょうか。
(山家)税や社会保険料の負担を考えるに当たって最も大切な原則は負担能力に応じた負担という公平の原則です。しかし現在は不公平な税制がたくさんあります。
 まず法人税です。企業は「構造改革」政策の下で著しく収益力を高めてきました。一方で法人税率は37.5%から30%に引き下げられました。さらに、税制上の優遇措置が多く取られています。そのため、大企業には巨額のお金が手許にたまり、そのお金は配当を増やすことと投資資金として運用しています。民主党政権は復興増税といいながら法人税率の引き下げを計画していますが論外であり、逆に増税しても負担能力があります。投資減税その他、税制上の各種優遇措置もはずすべきでしょう。
 所得税の累進税率もどんどん下げられてきています。1986年当時は所得税の最高税率は70%でした。現在は40%です。負担能力のある人には相応の負担を求めるべきです。
 不公平税制の最たるものは投資優遇税制です。配当所得、株式譲渡所得に対しては、所得のいかんにかかわらず、税負担が10%だけです。勤労所得くらいの担税力は当然ありますので早急に廃止すべきです。
 ただし、これらの不公平税制をすべて是正しても必要な資金は多分足らないと思います。そのときは一般の人にも負担してもらうことになります。そこで所得税か消費税かという問題になりますが、所得税の方が公平ですからこちらを増税すべきです。
 増税は消費税で行うべきであるという主張はなぜ消費税なのかという説明をほとんどしていません。説明しているとしても、所得税は勤労世代など特定の人への負担が集中するからという理由ですが、所得税は年金世代を含め勤労していなくてもかけられる税です。所得のある人にかけられるのが所得税、ない人にもかけられるのが消費税だという議論をすべきです。

――先生は、ご著書で社会保障の拡充を強く主張しておられますね。
(山家)はい。まず先に社会保障をもっと充実させるという目標をきちんと定めることが必要です。せめてドイツ、フランス並みにできる経済力はあるはずです。今まで政府は、社会保障を良くすると言って増税を計画しておきながら法人税などを減税してきましたから、社会保障は少しも良くならず法人の負担が減っただけでした。そんな中で社会保障を良くするために消費税を増税しますと言っても信じられるはずがありません。
 社会保障を拡充するためには、増税以外に大きな財源があります。前回も話しましたが、政府は先進国1の金融資産を持っています。2009年末でおよそ500兆円に上ります。
また、日本の家計部門は潤沢な余剰資金を蓄えており、国内では使い切れておらず海外に流れ出しています。流れ出している先は最終的にはアメリカに向かっており、アメリカの人々の消費やアメリカの戦争等の資金として使われています。日本は世界1の貸金国ですが、貸して損失を出したり円高で目減りしたりしています。政府が社会保障の拡充のために国債を発行したらこの余ったお金の多くは日本国債に戻ってくるでしょう。また、災害からの復旧、復興にも使えるでしょう。

――政府の金融資産の中では厚生年金、国民年金、共済年金などの積立金が相当の部分を占めているようです。高齢者が増える反面若い人が減るため年金積立金も減って行くのでこの積立金はあてにならないという議論もあるようですが…。
(山家)そもそも、年々の年金支払いは年々の保険料で賄うという形で設計されています。従って、この積立金は先行きについても使われる計画にはなっていません。年金の各種積立金は現在180兆円ありますが、これは「将来の高齢化に備えて」という漠然とした理由で溜め込んだものです。実際に高齢社会になったのにほとんど使われていません。
 しかし、国民年金などは多い人でも月額6万5000円程度です。これではあまりに少な過ぎます。まず積立金を活用して支給額を増やすべきでしょう。そうしても積立金が底をつくまでには相当の時間の余裕があります。まず制度を良くする、良くしながら恒久的な財源を検討すべきです。
なお、積立金は減っていますが使って減ったのでなく運用して円高などで損失を出して減っているのですから問題です。運用でなく年金として使用すれば消費に使われ日本の経済にとってもプラスになるはずです。

――ところで、消費税の増税は仕方がないと考えている方が多くなってきているようです。
(山家)報道であれだけ騒いでいるためか庶民が天下国家のことを憂いていますね。企業が国際競争力の強化のためには企業減税が必要で後は消費税を増税すればいいと言えば、ハイハイそうですかという発想になりがちです。ギリシャのようになったら困るからということで、受け身で仕方がないという人は結構増えていると思います。
 しかし、消費税を増税されたら生活できないと言って強く抵抗すれば、政府は他に財源を求め企業の内部留保を活用するとかいろいろ考えると思います。庶民が、イヤなものはイヤだ、支払い能力がある所に支払わせるべきだと言えば、政府も変わっていくと思うんですがね。

――法人税を下げないと国際競争力が落ちると庶民も思っていますね。
(山家)政府が法人税を下げると国際競争力が上がると言っている理由は、それにより研究開発費や設備投資額が増えるからということです。しかし、企業のアンケート調査を見ますと、減税したお金は内部留保に回すとか借金を返すとか、国際競争力に関係ない分野に使うと回答しています。企業は今お金が余っているからです。従って、法人税を下げても国際競争力にはほとんど影響がありません。

――法人税を下げないと、企業はより法人税の少ない国に移ってしまうとも言われています。
(山家)企業がアジアに出て行くのは、賃金が低いなどで安く物が作れて儲かるからです。アメリカに出て行くのは、日本から輸出するよりも現地で作った方が受け入れてもらい売りやすくなるからです。要するに利益が上がるから出て行くのです。税金は利益の中から払いますから利益が出るかどうかが決め手です。

――ご著書では、賃金を上げ社会保障を拡充することによって国民の購買力を高め消費を増やし内需を拡大した方が企業にとっても利益になると書いておられますが、そうだとすれば企業はどうしてその道を選択しないのでしょうか。
(山家)トヨタなりソニーなり、パナソニックなり、自分の企業のことしか考えていないのでしょうね。個別企業がそう考えるのはそれはそれなりに分かります。しかし、経団連とかになると日本経済全体のことを考えて大所高所に立ってリーダーシップを発揮すべだと思うのですが全体が見えていないのでしょう。企業には金が余っていて家計に金がないのですから企業が家計に金を回せば内需が拡大して景気が良くなるはずです。

――財界が全体が見えていないだけでなく政府もそうなのはどうしてなのでしょうか。
(山家)個別企業の利益を代弁している経団連が言っていることに政府も引っ張られているということですね。民主党政権も選挙のときには最低賃金を1000円に挙げるとか派遣労働を見直すとか言っていましたが、今は変わりました。安倍首相のときでしたか、財界の年頭の集まりの際に、財界は賃金を上げるように頑張ってくれとか言ったりして、賃金を上げないと日本経済全体がうまく回らないという認識が若干はあったと思います。

――大変長い時間、どうもありがとうございました。
(山家)今日お話ししたことや「構造改革」についての詳細は、『暮らし視点の経済学―経済、財政、生活の再建のために』をご覧ください。

◆山家悠紀夫(やんべ ゆきお)さんのプロフィール

 1940年生まれ。神戸大学経済学部卒業後、第一銀行入行。第一勧業銀行調査部長、第一勧銀総合研究所専務理事、神戸大学大学院経済学研究科教授を経て、2004年「暮らしと経済研究室」開設。
 著書に『暮らしに思いを馳せる経済学―景気と暮らしの両立を考える』(新日本出版社)、『偽りの危機 本物の危機』『日本経済 気掛かりな未来』(東洋経済新報社)、『「構造改革」という幻想―経済危機からどう脱出するか』『景気とは何だろうか』(岩波書店)、『「痛み」はもうたくさんだ! 脱「構造改革」宣言』(かもがわ出版)、『日本経済 見捨てられる私たち』(青灯社)、『暮らし視点の経済学―経済、財政、生活の再建のために』(新日本出版社)など




 
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