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今週の一言

 

とびっきりの障害者総合福祉法の誕生は歴史の必然

2012年1月23日


西村直さん(社会福祉法人亀岡福祉会理事長)


 「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会による提言」(以下「骨格提言」)が、政府の審議体である障がい者制度改革推進会議のもとに置かれた総合福祉部会において2011年8月30日に取りまとめられ、9月26日に障害者施策担当の蓮舫大臣(当時)に手交されました。この提言は、障害者自立支援法(以下、自立支援法)に変わる新法の骨子としてあるべき内容を提示しただけに止まるものではないとことを痛感しています。私自身、2005年に成立し後に施行された自立支援法の芽吹きの頃から、そして自立支援法違憲訴訟の原告となって立ち上がった6名の事業所の利用者、関係者と共に闘ってきた一人として、骨格提言は一つの節目と感じています。また、亀岡市という京都の小さな田舎町で35年前に小規模作業所を障害当事者、家族、関係者と一緒に創り、「障害のある人が地域であたりまえに暮らすこと」を合い言葉に今日まで事業を続けてきた者として、感慨深くこの提言を受け止めています。骨格提言は、その完成までのプロセスも含めて障害者の人権と尊厳を法的にしっかりと担保する方向性を示した、障害者運動の「歴史的成果物」とも言える代物だと評しています。

 その理由は大きく二つあります。一つは内容面での成果物、今ひとつは骨格提言完成までのプロセスで生み出された「宝物」だと考えます。
 内容については、骨格提言の前提になる「6つのポイント」にその基本スタンスが明確に示されています。@障害のない市民との平等と公平、A谷間や空白の解消、B格差の是正、C放置できない社会問題の解決、D本人のニーズにあった支援サービス、E安定した予算の確保、の6つには、自立支援法違憲訴訟で原告団と国(厚生労働省)とで交わされた基本合意文書と、障害者権利条約の理念が根底に脈打っています。
 施しの対象として扱われてきた障害のある人々を権利の主体として位置づけ、障害の無い市民と同等の市民生活を送ることについて合理的配慮を前提に保障する。その具体的手立てを実体法である障害者総合福祉法で具体化し、法的担保をはかるというパラダイムシフトはまさに歴史的内容といえます。
 障害があることを理由に働く場に就けない、景気が悪くなると一番に解雇される。休日は結果的に一日中家で生活を送らざるを得ない、年老いた親が腰の曲がった体にむち打って賢明に子どもを支える。こうした障害当事者、家族の実態はますます深刻になっています。加えて、不十分な給与で退職を余儀なくされる施設職員、国の制度にないことを理由に国から長年放置された事業所など、当事者を支える仕組みも貧しいままにおかれてきました。今日までに経験してきた事実と未だ目の前に横たわっている実態と重ね合わせると、骨格提言にはこれらの怒り、苦しみ、焦燥、願い、が凝縮されて詰まっているように思います。

 一方、骨格提言完成のプロセスの中で手にした大切な「宝物」もありました。ひとつは、「自立支援法が取り持った縁」でつながった障害者団体、事業所の皆さんとの絆と連携です。障害当事者やサービス実施事業所が自立支援法によって混乱の渦に巻き込まれたことが、こうした「絆」の背景にありました。しかし、「今後の障害福祉施策を、障害のある当事者が社会の対等な一員として安心して暮らすことのできるものとするために最善を尽くすことを約束した」という前述の基本合意文書、そして権利条約の理念が間違いなく強力な「接着剤」になり、様々な紆余曲折を経ながらもこの間の共同や連携は崩れませんでした。28人の障がい者制度改革推進会議(オブザーバー2人含む)、55人の総合福祉部会が誰一人として離れることなく、骨格提言を蓮舫大臣に手交できたことは今後の障害者施策への大きな一歩としてこの分野の歴史に刻まれていくと思います。
 今ひとつは、法律・制度等策定課程にその障害当事者、関係者が形式的ではなく、実質的に参画すること、会議のオンデマンド方式によるインターネット中継など、その内容を全国民的に全面公開し幅広く意見集約をしてきたことも、提言の策定プロセスにおける貴重な教訓でした。ここにも、「支援を受けながら自身の人生を切り開いていく主体者」としての障害当事者の姿がありました。その教訓は策定プロセスだけにとどまらず、骨格提言の内容に普遍性と客観性、つまり幅と豊かさが加味されたと思います。今後の障害分野の法案づくりはもとより、生活に直結するあらゆる分野の法案づくりに取り入れられるべき画期的手法といえるでしょう。

 このような、多くの教訓を生み出しつつ提案された骨格提言です。間もなく開催される第180回通常国会において法案審議が始まる予定です。「平等にくらす、公平な生活」「民の役割、責任」、これらは私たち自身も改めて問い直しをしなくてならない時だと思いますが、主に国との関係で障害関連制度の混乱の数年を経て今を迎えている事実からすると、立法府、行政府が「誰もがあたりまえの地域生活を送る」ための確かな道筋を付ける、この責任を回避できない時かと思います。
最後にもう一度繰り返します。障害のある当事者や関係者の「怒り」「落胆」「願い」「夢」を正面から受け止めた新法制定は、歴史の必然です。




 
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