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震災での女性支援はなぜ必要なのか

2012年3月5日


竹信三恵子さん(和光大学現代社会学科教員)


 東日本大震災から1年たった。被災地の復興は、まだまだ始まったばかりのようだが、気がかりなのは、「女性支援」の視点がほとんど意識されていない点だ。国際的災害支援の世界では、高齢者、障害者などの社会的弱者の支援と並んで、女性を視野に入れた支援は基本の基本、となっている。一方、日本では「女性より男性の方が弱い」「支援が必要なのは男性の方だ」などと切り返されて、まじめに取り合ってさえもらえないことも少なくない。だが、問題は「男女のどちらが強いか」ではない。多様な被災者の実態に合った支援が必要とされる中で、人口の半分の女性の声は、復興政策や支援にしっかり反映されているか、彼女たちが担っている育児、介護などの生活の場からの復興に光が当てられているかどうかが問われているのだ。

●「家の恥はそとにさらすな」
 2011年4月、震災から約1カ月たった福島県郡山市内を訪れた。市の保育園で1年契約を繰り返し更新して働いてきた知人の非常勤保育士(60)が、3月末でいきなり契約打ち切りを通告されたと聞いたからだ。
体力の衰えを感じ、次年度から週1日の短時間勤務に切り替えてほしいと交渉中に震災と原発事故があり、そのさなかでの通告だった。保育士のような女性が多い仕事を次々と不安定な短期契約に変えていった末、「震災で雇用の維持が大切」といいつつ年度末に機械的に打ち切っていく措置に「女の仕事の軽さを、改めて思い知った」と言う。
 彼女が呼び集めてくれたさまざまな福島の女性たちを通じて、被災下での女性固有の問題が明らかになった。大手電機メーカーの営業所で働いている女性のもとには、原発事故の警戒区域に指定された町の介護施設から実母や親類の母が逃げてきた。正社員としての勤務が終わって帰宅すると高齢者2人の介護が待っている。娘の介護は当然とされる空気の中で、支援の手は差し伸べられない。「原発事故は私が起こしたわけではないのに、なぜこんな目にあうのか」と、彼女は疲れ果てた表情で訴えた。
 風評被害に悩む農家の女性からは、夫や息子のいらだちを、女性たちが息をつめて伺っている様子や、そんな悩みを「農家の嫁は家の恥を外にさらすな」と言われて、だれにも相談できずにいる現状を聞いた。

●ニーズが伝わらぬ避難所
 避難所でも、女性のニーズが伝わらず、居住性に問題が起きていることが、支援に駆けつけた女性たちから明らかにされて行った。
 初期は、間仕切りがない平土間の避難所で、着替えや授乳の場所がなく、取材陣が走り抜ける通路の脇で毛布をかぶって着替える女性もいた。政府に間仕切りを支給するよう求める動きが起こり、支給が始まったが、女性の声が抑え込まれた避難所内では積まれたままという例も少なくなかった。「避難所は家族、間仕切りを使うなんて水臭い」と男性リーダーが叱咤し、使わせてもらえなかったとの声も聞いた。
 避難が長引くと、炊事当番を担当させられた女性たちの疲労が問題化した。1日3食を100人分つくり続け、リーダーに「疲れた」といったら「大変だな、それでは、かっぱえびせんですませよう」と言われた女性もいた。男性が交代するという発想がなかったのだ。
 化粧水やブラジャーなどの女性特有の必需品について「ぜいたくと思われないか」と言い出せなかったという女性もいた。
 これらは、女性の支援者が入り、マッサージや手芸づくりなどを通じて癒しながら、話を聞いていった結果、ようやく出てきた声だ。避難所に男性リーダーしかいないため、女性たちが自らの回復に必要な支援について率直な声を届けることができずにいたことをうかがわせる。

●防災会議への女性参加ゼロは半数近く
 復興計画でも、女性の雇用の回復は、男性に比べて立ち遅れている。筋肉労働である建設やがれき処理などの仕事が多いこと、女性が働いてきた水産加工場や観光業、津波でつぶれたことに加え、「男性にさえ雇用があれば、女性は食べていける」といった社会意識が、女性の仕事づくりへの目配りを阻んでいる。
 たとえば、政府が打ち出した「生涯現役・全員参加・世代継承型雇用創出事業」は、女性や若者、障害者、高齢者といった「大黒柱」とみなされない人々の被災地での雇用創出を目指したものだが、当初、この事業についての説明で「女性」を省いてしまい、女性たちからの抗議で修正した自治体もあった。震災で男性の支援を受けられない女性も増える状況で、なお従来の男性世帯主中心の復興をイメージしていることが見て取れる。
 背景にあるのは、意志決定への女性参加のあまりの少なさだ。震災直後に立ちあげた政府の復興会議では女性は一人にとどまり、2011年10月に公明党の女性議員らが全国の658自治体を調査したところ、地方防災会議で女性ゼロは44%、防災計画に女性の意見を反映させているかどうかについては、55%が「いいえ」と答え、防災部局に女性職員がいない自治体は52%にのぼった。
「被災の大変さに男も女もない」といった反発が、男性ばかりか女性たちからも返って来ることが多い。だが、人口の半分を占め、育児・介護などのケア労働という見えにくい分野を担当させられてきた「女性」という存在に向き合わないままでは、真の復興は望めない。

◆竹信三恵子(たけのぶ みえこ)さんのプロフィール

1953年生まれ。東京大学文学部社会学科卒。大学卒業と同時に朝日新聞社に入社し、経済部、シンガポール特派員、学芸部デスク、朝日新聞総合研究センター主任研究員、CSテレビ「朝日ニュースター」解説委員、朝日新聞労働担当編集委員(論説委員兼務)などを経験。ジェンダーの視点から日本の労働市場の変化を報道し続けてきた。2011年4月から和光大学に移り、働き方の変容と貧困の関係、企業としてのマスメディア論などを専門にしている。2009年「貧困ジャーナリズム大賞」受賞。著書に『ルポ雇用劣化不況』(岩波新書、2009年度労働ペンクラブ賞)など。

<法学館憲法研究所事務局から>
  法学館憲法研究所は2011年11月3日にシンポ「震災と憲法」を開催しました。その際の浦部法穂顧問の講演録「被災者支援と震災復興の憲法論」などを「法学館憲法研究所報」第6号に収載しています。




 
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