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「検証 福島原発事故・記者会見−東電・政府は何を隠したのか」

2012年3月12日


木野龍逸さん(フリーランスライター兼カメラマン)

 3月11日に発生した東北地方大洋沖地震とそれに続く津波によって壊滅的なダメージを受けた東京電力福島第一原子力発電は、福島県を中心とする東日本の広範囲を放射性物質で汚染した。しかし事故発生当初から東京電力と経済産業省・原子力安全・保安院は、原子炉の状態についてわずかな情報しか提供しなかった。東電の会見では「持ち帰って確認する」「今は手許に資料がない」という言葉が何度も繰り返された。一方、監督官庁である保安院は独自情報を持たず、東電が発表した数値や状況をそのまま流すだけのことが多かった。
 こうした状況をテレビやインターネットの会見中継で見ていた弁護士の日隅一雄は、3月16日に、東電の清水社長に対して情報を的確に公表するよう求めた要望書を内容証明郵便で送った。同日夜に初めて、東電本店の記者会見場に行った。
 私が東電の会見場に行ったのは、翌17日の昼だった。日隅と同じように会見での情報の出方に不満があり、自分の目で何が起きているのかを見ておこうと思ったのだ。行くと、そこに日隅がいた。仕事はどうしたんだろうと、私は驚いた。
 会見後、日隅は「いま帰っちゃだめだよ」と言って私を引き留めた。正直なところ、私はちょっと躊躇した。しかし昼飯を食べながら日隅の話を聞くと、私が感じていたことと重なることも多く、確かにこのまま帰るべきではないかもしれないと思った。その最たるものは、東電も政府も、彼らにとって都合の良い情報しか出してないのではないかという疑念だった。
 それ以降、私は今でも東電や保安院の会見に出ている。日隅は5月末に胆嚢ガンを宣告されたが、12月まで続いた東電と政府による合同会見には頻繁に顔を出していた。
 岩波書店から出版された「検証 福島原発事故・記者会見−東電・政府は何を隠したのか」は、タイトルの通り、福島第一原発事故に関連した記者会見の記録だ。政府や東電がいかに情報を隠蔽してきたかについて、私たちが出席した東電、保安院、原子力安全委員会の各記者会見、政府・東電の統合対策室による合同記者会見などでの質疑を中心に検証している。
 取り上げたのは、メルトダウン、SPEEDI、「想定外」の津波、作業員の被曝、放射性物質の飛散、汚染水の海洋投棄、低線量被曝による健康への影響評価をめぐる混乱など10のテーマだ。
 たとえば第1章の「メルトダウン」では、東電と政府は早期に原子炉の状態を把握していたにもかかわらず情報を公開しなかった経緯を追った。彼らがメルトダウンを認めたのは事故から2カ月以上も経ってからだった。この間、マスメディアのチェック機能も万全とは言い難く、政府や東電の発表を中心に記事化することが多かった。第2章の「SPEEDI」では、国がSPEEDIによる放射性物質の拡散予測を隠蔽した経緯とともに、早期に情報をつかんでいながら報道が遅れた朝日新聞の対応を当事者の話から振り返り、原発事故報道でマスメディアが果たした役割を考えている。
 さらに、東電が「想定外」と言い続けている津波はほんとうに予想されていなかったのか、汚染水の海洋投棄は必要だったのか、作業員の安全確保はなされているのか、低線量被曝の影響評価の基準は何か、低線量被曝の影響評価の問題点はどこにあるのかなどについて掘り下げた。
 2011年12月16日、政府は"オンサイト"での事故は収束したと宣言をした。しかし福島第一原発の現状は、収束とはほど遠い状態にある。汚染水を最終的にどうするのかは未定であり、突貫工事で設置した処理施設は漏えいが頻発するなど不安定なままだ。放射性物質の放出は止まらず、研究者からは海洋への流出も継続しているという指摘も出ている。
 なによりも、放射性物質で汚染された地域の苦悩は、始まったばかりといえる。効果のはっきりしない除染が始まっているだけで、だめだった場合のバックアップ策はない。要するに、収束に至る道筋は何も見えていないも同然なのだ。事故から1年が過ぎた今、本書によってもう一度、原発事故によって何が起こったのか、東電と政府がなにをしたのか、そして福島の人々がどのような状況に置かれているのかについて、思い起こしていただければと願っている。

◆木野龍逸(きの りゅういち)さんのプロフィール

フリーランスライター兼カメラマン。自動車と環境問題、エネルギー問題などの関係について取材活動を続ける。著書に『ハイブリッド』(文春新書)など。




 
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