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衆議院の比例定数削減を考える

2012年3月26日


山口真美さん(弁護士)

1 民意を削る比例定数削減

 民主党は、「定数削減なくして増税なし」と宣言し、衆院選挙制度に関する各党協議会でも比例定数削減に固執しています。
 しかし、日本国憲法の前文には「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動」するとあり、国会議員の議席は、本来国民のものです。定数削減は、主権者である国民の声を国会に反映する大切なパイプを切断し、国民の声を切り捨てるものです。

2 政治の劣化の元凶は小選挙区制

 今、国民の間には政治不信がかつてなく高まっています。政治の劣化は誰の目にも明らかです。
 では、衆議院の比例定数を削減して、政治の劣化は止まるでしょうか。
 答えは、「いいえ」です。むしろ政治の劣化が進むことになります。
 それは、今の政治の劣化の原因は小選挙区制にあって、比例代表の議席の削減では問題の解決にならないからです。

 現行の小選挙区制の弊害は、大きく分けて2つです。

 第1の弊害は、小選挙区制が民意を歪曲し、多様な国民の声を切り捨てることです。
 09年の政権交代選挙で、民主党は小選挙区において47.43%の得票で73.67%に及ぶ議席を獲得しました。民主党の議席数は308ですが、得票率に換算すると204議席です。100人を超える議員が小選挙区制のおかげで「上げ底」当選しています。
 さらに、小選挙区制での過去5回の選挙の死票は平均して3000万票にも及びます。これは、有権者の約半数に匹敵します。有権者の二人に一人の投票は議席につながっていないのです。

 小選挙区制の第2の弊害は、国会議員が「国民の代表」ではなく、「政党の道具」になってしまうことです。
 選挙区で一人しか当選しない小選挙区制で勝ち抜くためには政党の公認と政党助成金からの選挙資金が必要です。そのため候補者は、政党の執行部に左右され、国民に関心をもたなくなってしまいます。自らの信念や政策ではなく、執行部の意向によって当選し活動する議員は、国会では数あわせの投票マシーンとされてしまいます。
 民主党や自民党の執行部は、献金する企業団体から強い影響を受けています。民主党や自民党が東京電力から多額の献金を受けて原発の安全神話を振りまいていたことは周知のとおりです。民主党や自民党の国会議員は、なぜ脱原発の声をあげないのか。それは、小選挙区制の下で、議員が政党や企業の道具になっているからです。

 小選挙区制がなくならなければ、国民と政治の乖離、政治の劣化はとまりません。

3 比例定数削減の危険性

 比例定数が80削減されると、完全な小選挙区制に近づき、小選挙区の弊害がいっそうひどくなります。09年政権交代選挙の得票率で試算した場合、民主党単独で68.5%の議席を獲得できます。改憲発議が容易に可能な議席数です。他方、憲法を守り活かそうという声を代表する中小政党の議席は抹殺されるといっても過言ではありません。
 通常国会では憲法審査会が開催され、改憲発言が相次いでいますが、比例定数削減の動きはこうした改憲策動と一体のものです。
 政治の劣化を止めたいなら、脱原発、消費税増税反対、くらし第一、9条改憲反対という国民の声が届く国会を実現したいなら、脱小選挙区制こそが必要です。

4 「身を切る」なら政党助成金

 そもそも「ムダを削る、身を切る」というのであれば、まず、政党助成金を削減すべきです。日本の政党助成金は年間で320億円です。80議席減で削減されるのは56億円ですが、政党助成金の5分の1を削減すれば64億円が削減できます。しかし、民主党や自民党は、政党助成金を削減するとは一切言いません。しかも、議員の議席数が減っても政党助成金は1円も減額されません。結局、民主党や自民党は、「身を切る」論を比例定数削減の口実にしているだけです。
 日本の政党助成金は世界一巨額です。日本は年間320億円ですが、それに続くドイツでは年間147億円、イギリスではわずか3億円です。アメリカやイタリアでは政党助成金はありません。

5 ほんとうは少なすぎる日本の国会議員

 日本の国会議員の数は世界的にみて少なすぎるのが実態です。
 日本の国会議員の数は、OECD(経済協力開発機構)34ヶ国のうち下から2番目です。
 G7の人口10万人当たりの国会議員数で比較すると、イタリア1.07人、イギリス1.06人、フランス0.93人、カナダ0.93人、ドイツ0.74人ですが、日本は0.38人、アメリカは0.14人です。

6 比例定数削減を阻止し、民意の届く国会を実現しよう

 多様な民意を切り捨てる衆議院の比例定数の削減は許してはならないものです。今、大切なのは、政治の劣化の元凶であり、国民の声を歪める小選挙区制を廃止し、より民意を正確に反映する選挙制度を実現することです。

◆山口真美(やまぐち なおみ)さんのプロフィール

 2001年10月弁護士登録。東京都立川市の三多摩法律事務所に所属。現在、自由法曹団の衆院比例定数削減阻止対策本部事務局長。共著にブックレット「国民投票法=改憲手続法の『からくり』」(学習の友社)、ブックレット「比例削減・国会改革だれのため?なんのため?」(学習の友社)あり。




 
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