法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

今週の一言

 

東京大空襲を考える(2)―戦争の加害者は被害者の心にもっと身を寄せたい

2012年6月25日


早乙女勝元さん(作家、東京大空襲・戦災資料センター館長)

前回からの続き>

――裁判だけでなく、空襲被害者救済のための援護法の制定も働きかけておられますね。
(早乙女さん)
 はい。法律ですから東京だけでなく全国の空襲被害者が対象になります。目下、私も代表の1人となっている全国空襲被害者連絡協議会が諸団体と共に立法化の運動を進めています。
 東京大空襲訴訟を提起してから5年経ちました。この間に原告の皆さんが身体を張ってあちこちで懸命に訴えてきました。マスコミもかなり好意的に報道してくれました。そのため、東京大空襲とは何であり、いかにして10万人もの人たちが尊い命を失ったかということを、多くの人たちに知らせることができました。裁判の結果はともかく、その点では1歩も2歩も前進したと思います。
 私がいくらがんばっても、記録者ですから戦災資料センターによる語り継ぎまでがやっとで、それだけでは弱いなと思います。私は原告になれず証人ですが、原告と証人が一体となり、マスコミも巻き込む形になってきたのは、大変頼もしく有意義なことだと思います。

――早乙女さんは、最近福島県に行かれたと伺いました。
(早乙女さん)
 先月に福島県南相馬市の小高地区に入り丹念に調べて来ましたが、まだ電気も水道も来ていません。一時帰宅が許されてもトイレも使えず、ボランティアが入れるわけがありません。ネズミがはびこっていて、伝染病が発生する危険もありそうです。ぞっとしましたね。憲法22条の居住と移転の自由からみても、重大な違反です。放射能による影響はたいしたことはないと言う方は、福島原発の近くにでも住んでみたらどうかと思います。

――早乙女さんは今年の2月に、『ハロランの東京大空襲』を上梓されました。ハロランさんはどういう方ですか。
(早乙女さん)
 ハロランさんは、1945年1月27日にB29の搭乗員として東京を空襲した際に撃墜されパラシュートで脱出後捕虜になりました。東京・九段にあった憲兵隊の独房に入れられていた3月10日に、東京大空襲を体験しました。木造の独房に炎も煙も入って来ましたが、手錠をかけられ足もしばられていたため身動きもできず、焼け死ぬ寸前でした。空襲の加害者であるとともに被害者でもあったハロランさんの体験を伺い、もう一つの東京大空襲の証言にしたいと思いました。この10年ばかりの間に6回ほどお会いして、アメリカのお宅にも伺いました。アメリカ軍の元兵士としては珍しく毎年、戦災資料センターに小切手を送ってくれました。戦争の被害面についても分かってもらえたとばかり思っていました。ところが、戦災センターで「東京が燃えた日」というDVDを見せたところ、「この映像には批判がある。反米感情を植え付けるのではないか。もっと公平で客観的であるべきだ。」と言われ、とても気まずい別れ方をしました。このアクシデントがあったにもかかわらず、その後も手紙と小切手が送られてきました。それを踏まえて、ある新聞社が自宅に電話をしたところ、「わだかまりはある。でも、戦争の惨劇を継承して行くことはとても大事なことだ。」と答えたそうです。小異はあるが、2度と戦争のない未来をという点では賛成で、大局的な見地に立っていただけたということでしょうか。

 昨年6月にお亡くなりになりましたが、得難い人材だったと思い、ハロランさんとの友好関係をこの本にまとめました。この本のポイントは、加害者というのはなかなか被害者の身になれないんだということです。B29の搭乗員だった彼は、ボタン1つで爆弾を落とせたのですから、下の惨劇は見えません。写真や記録で知ることができても、子どもや女性たちの深刻な被害にまでは想像力が及ばないのです。
 そこで反省したのは、私たち日本人のことです。もっと想像力を働かせなければならないと、自分自身に対する問いかけになりました。重慶の爆撃や朝鮮の植民地化などによる被害者たちにきちんと心を寄せてはじめて、被害と加害に共通する和解が成立するのではないでしょうか。そこまではまだですよね。
 日本の戦争は天皇が始めたのですから、一人ひとりの兵士に責任がないのかといえばそうでもないですね。実行者としての責任はどうなるのか。でも極限状態に置かれれば、人間は誰でも1人で反対することなどできません。ですから、そういう非常事態になることを未然に回避することが、私どもの人間的使命ではないかと思います。

――今の日本の状況について、どのようにご覧になっていらっしゃいますか。
(早乙女さん)
 大阪の方から土石流のような不気味な流れが急接近しています。今度の選挙では大変な事態になるかもしれないという危惧があります。思い出すのはジャン・ジャック・ルソーの一言です。「理性、判断力はゆっくり歩いてくるが、偏見は群れをなして走って来る。」。これをいかに食い止めるか、原発の再稼動や改憲の動きとも加わって、容易ならざる状況に来ていると思います。

――戦災資料センターには、自筆の「その火を消すな 毎日毎日 たき木をくべろ」という色紙が飾ってあります。
(早乙女さん)
 何事もそうですが、日々の努力が大事で緊張感を失うなという意味です。皆でいつもセンターを維持運営して行く主体性がなければ。小さな勇気と努力とが積み重なって、一定の仕事ができます。油断したらだめです。それは、運動や商売でも、また、恋人や夫婦の愛でも共通していえることでして、すべて日々の積み重ねです。小さな勇気の継続が大きな勇気を必要とする事態を、未然に防いでくれると考えたいです。

◆早乙女勝元(さおとめ かつもと)さんのプロフィール

東京・足立区に生まれる。戦争と貧困の中で、働きながら文学を志す。東京空襲を記録する会の推進力となり、東京大空襲の語り部となる。主な著書に『早乙女勝元自選集』(全12巻、草の根出版会)『東京大空襲』『戦争を語りつぐ』(岩波新書)『東京が燃えた日』『生きることと学ぶこと』(岩波ジュニア新書)『ゴマメの歯ぎしり』(河出書房新社)また草の根出版会から『小説東京大空襲』(全3巻)『物語ベトナムに生きて』(全3巻)『人魚姫と風車の町で「幸福度世界一」のデンマーク』『初心 そして・・・』<母と子でみるシリーズに>『軍隊のない国コスタリカ』『スーチーさんのいる国』他多数。最新刊に『ハロランの東京大空襲』(新日本出版社)がある。




 
[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]