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今週の一言

 

司法は、憲法に謳う集会に参加する自由と集会を主催する自由をなおざりにするのか −「その時は既に遅すぎた」としてはならない −

2012年7月9日


矢澤J治さん(10.13集会妨害国賠訴訟 弁護団長)

 2012年6月4日、東京地裁民事33部(小林久起裁判長)は、原告らが東京都に対して、公安警察が「視察」と称して集会参加者一人一人をチュックし、また、公道に面した喫茶店から2台のビデオカメラにより集会参加者を盗撮・記録する行為が集会の開催と参加の自由の侵害であり違法であるとして損害賠償を請求した訴訟について、請求をいずれも棄却する極めて不当な判決を下した。
 事件のあらましは、次のとおりである。本件訴訟の原告である元日弁連会長土屋公献(故人)、元明治学院大学学長森井眞、名古屋大学名誉教授古川路明氏らは、自分たちの責任において、「反戦と平和」を基調とする集会を開催し、参加を呼びかけてきた。2008年10月13日「なかのZEROホール」で開催された集会も、麻生政府の下で、日本を「戦争のできる国」へと飛躍させるための諸政策に反対することを宣伝し、広く市民、労働者、学生に集会への賛同と参加を呼びかけた。この集会の参加者は、1000人を超える盛会となった。
 この集会には、従来より繰り返して、警察庁公安2課などの多数の私服警察官が集会開始前から会場入口前の道路上に異様な出で立ちで蝟集し、「監視」行為をしてきた。原告らは、当局者に対して違法な集会妨害行為を行わないよう、事前に文書等で申し入れを行い、また、原告であった土屋氏自らは指揮者に対して直接抗議をしたが無視され続けてきた。当局の指揮官の言い分は、『この集会は「革マル派」中心のものと疑われ、参加者のなかに指名手配中の者が潜んでいるかもしれないので、それを捕まえるために警察官を動員している』という詭弁にみちたものであった。
 本件訴訟における原告等の主張の骨子は、集会参加者を監視・威圧して参加者を萎縮させ集会に参加することを躊躇させることが集会参加者の『集会に参加する自由』を侵害し、また、集会参加者らに対する人権侵害行為が、同時に集会主催者の『集会を主催する自由』を違法に侵害するということであった。東京地裁民事33部は、原告等の主張を認めたような一般論を判示しながらも公安警察官等の証言に全面的に依拠して、土屋氏が詭弁を弄していると指弾したとおり、「視察」の目的が革マル派活動家等に対する情報蒐集であり、その必要もあったと認定し、公安警察官等の行為が適法な職務行為であると判断した。
 本件では、被告側の証拠である警察官の証言だけが評価された。ビデオカメラによる盗撮をした二人の警察官は、事もあろうか、そのカメラが私物であると証言したし、西山証人は集会参加者の内550名が革マル派活動家等ないしは革マル派等により動員された者であるとした。このような信憑性も根拠もない証言にひたすら依拠し、集会の呼びかけ人や参加した市民の証言を抹殺したのが本件における証拠の認定である。

 判決後の報告集会で、原告の森井氏は、このように激白した。「市民の集会ですよ! 市民の集会。革マル派の学生も市民です。それを含めて、われわれ市民、国の主権者ですよ。それが自由が奪われそうになっていることに対して、断固として闘った。それをあの裁判官は、われわれの話しを全然聞いていない。あるいは、耳で聞いていても、われわれの心が彼らの心に届かないんですね! これが日本の法廷。許していいんでしょうか、こんなことを!」
 幸徳大逆事件後、「特高」の組織が設置される。そして、近代最悪の法といわれる治安維持法が制定され改悪を繰り返した。天皇制と国体を護持するために、特高刑事が跋扈し、「権力に抗する者」を殲滅することを謀り、かくして国民を太平洋戦争という悲惨な結果に陥れたことは歴史の証するところである。現今、監視カメラに加えて、変な恰好をした多数の公安警察官が再び公然と集会会場のみならず集会に参加しようとするすべての者の情報を捕捉しようとして画策している。

 改めて、私たちは、日本国憲法21条により認められている表現の自由の優越的地位を再確認する必要がある。憲法第21条は、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と規定している。表現の自由は、憲法上人権規定のなかでも優越的地位が認められ、最大限の保障が必要である。その理由は2つある。第1の理由は、表現の自由が民主制社会を基礎づけるものであり、憲法が保障するすべての自由の母体であるからである。元東大教授、最高裁判所裁判官伊藤正巳は、「ある国が民主制をとっているかどうかを判定する基準は何よりも、権力を握っている者に対して自由に批判を加える権利が国民に保障されているかどうかという点にある」と言及した。誠に、正鵠を得た言明であると思う。第2の理由は、「自由な思想の交換によって、人が自己の人格形成を押し進めることができる」ということである。人が自由に表現する欲求を封殺することは、人間の尊厳に対する侵害となるという次第である。民主制を謳う多くの国々では、勿論の事であるが、この自由を憲法上保障している。アメリカ合衆国憲法修正第1条、1789年フランスの「人及び市民の権利宣言」第10条および第11条、ドイツ連邦共和国基本法第5条(表現の自由)、第8条(集会の自由)、第9条(結社の自由)、さらに、大韓民国憲法第21条などなどである。
 次に、集団の自由が無条件で保障されなければならない。集会の自由は表現の自由の一形態をなすものであり、自己の思想を伝達する手段に乏しい者にとって、集会や集団示威運動という集団による行動は大衆の表現行為として格別の意義を有するものであり、この自由を保障することにより、民主主義社会が構築・維持されうるのである。憲法学者佐藤幸治は、「日本国憲法による集会の自由は無条件的である」と明記し、わが国における歴史的出来事に対する猛省に基づき配慮された規定であると記している。そして、集会の自由には、「集会の開催、集会への参加、集会における集団の意思形成とその表明、さらにそれの実行行為などを公権力が妨げてはならないという内容が含まれる」という。平たくいえば、憲法が集会の自由を保障した趣旨とは、主催者による呼びかけ、呼びかけに応えた参加者が集会に参加する過程、集会の開催直前から解散のすべての場面と過程において、特に公権力によるあらゆる妨害や制限や干渉を排除するということである。そして、集会が屋外でなされる場合と異なり、それが屋内で開催されるときには、そもそも規制が認められる余地は全くあり得ない。
 では、集会の自由の侵害となる行為は、どのようなものであるか。集会の自由に対する「公権力の制限や干渉」とは、公権力を行使する者による有形力を行使した妨害にととまるものでなく、心理的圧迫という妨害行為も含まれるということである。すなわち、集会の開催や参加を心理的に圧迫し、また、精神的に抑圧して、集会の開催や集会参加者または参加したいと望む者に集会開催や集会参加を躊躇させたり、参加しようとする者に心理的圧迫感や嫌悪感ならびに罪悪感を覚えさせるものも集会の自由の侵害にあたるということである。

 東京地裁の不当判決を踏まえ、控訴審で司法の真の存在を確認したいと祈念する。
 われわれは、「その時は既に遅すぎた」としてはならない

◆矢澤J治(やざわ しょうじ)さんのプロフィール

【学歴・職歴】1948年新潟県生まれ、長岡高校卒、1971年金沢大学法文学部法律学科卒業。1978年フランス国ストラスブール第三大学第三博士課程退学、1979年東北大学大学院法学研究科私学専攻博士後期課程退学。
 熊本大学法学部専任講師を経て、現在、専修大学法科大学院教授(「国際私法」、「国際民事紛争解決」、「環境と法」担当)。1992年弁護士登録(第二東京弁護士会)。
【主たる著作】『カリフォルニア州家族法(翻訳)』(国際書院、1989年)、『ハワイ州家族法(翻訳)』(国際書院、1992年)、『フランス国際民事訴訟法の研究』(創文社、1995年)、『環境法の諸相−有害産業廃棄物問題を手がかりに(専修大学社会科学研究所社会科学研究叢書)(編著)』(専修大学出版局、2003年)、『殺人罪に問われた医師』(現代人文社、2006年)、『冤罪はいつまで続くのか(編著)』(花伝社、2009)、『袴田厳は無実だ』(花伝社、2010)、「訴因の特定をめぐる諸問題」(専修ロージャーナル5号、2010)、「ビデオ撮影に関する法文を違憲とするフランス憲法院の二つの判例」(専修ロージャーナル5号、2011)、「私の親は誰ですか(1)(2・完)」(専修法学論集111、112号、2011)、『真相究明書(福岡事件)(解説著)』(2011、花伝社)、「大逆事件と今村力三郎」『大逆事件と今村力三郎』(2012、専修大学出版局)などがある。
【担当した訴訟事件】早稲田大学名簿提供事件、川崎協同病院医師殺人事件(上告審)、住基ネット事件、10.13集会妨害訴訟
【法律事務所】〒102-0073 東京都千代田区九段北1-9-5
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【メールアドレス】E-mail:shojiyzw@cb.mbn.or.jp




 
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