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「国民に信を問うべきである」と叫ぶけれど…

2012年10月22日



植村勝慶さん(國學院大學教授)

 野党が与党を攻撃する決まり文句として、「即刻衆議院を解散して国民に信を問うべきである!」と叫ぶことが多い。昨今の政治状況においてもしかりである。2012年通常国会においては、いわゆる「税と社会保障の一体的な改革」がテーマとされ、2012年6月の三党合意の後も、野党は「国民に信を問うべきである」として衆議院の解散を求めていたが、8月8日に「近い将来」から「近いうちに」解散することを野田首相が言明し、それを受けて9日内閣不信任案は否決され、10日に消費税税率引き上げ法案が成立し、衆議院の解散は遠のいたかに見えた。その後、参議院の問責決議案が成立し、国会の会期を残して実質的な審議は進まなかった。10月1日に野田第三次改造内閣が成立したあとも、野党側からは同様の発言が聞かれる。このように、「衆議院の解散」を軸として政治が動いている。
 確かに解散をして政治を仕切り直すことはいいことのように思える。「国民代表」たる国会議員を国民が選出する選挙は、民主的決定プロセスの根幹をなし、それを更新する機会が提供されることは重要である。しかしながら、その実施について定期的ではなくて、政権側の一部の者の判断で一方的に決められることにはさまざまな問題があるように思われる。結局は、政権サイドにとって有利な解散しか行われないのではないか、という恐れが払拭できない。また、過度な解散への期待が、日常的な政治運営において、地道な政治的討議の継続を妨げる場面もあるように思われる。したがって冷静に眺めれば、解散に過度な期待を持つべきではないように思われるが、いかがであろうか。
 解散制度の民主的意義が強調される背景にあるのは、議会制民主主義の母国といわれるイギリスのイメージかもしれない。しかしながら、当のイギリスでは、形式的には国王の、そして実質的には首相の庶民院(日本の衆議院にあたる)を解散する権限を廃止し、代わりに、解散は庶民院自ら決めるという制度を導入した(2011年議会会期固定法)。この制度が看板どおりに機能するかどうかはわからない。ともかくも、解散制度の本家でこんな改革が行われた背景には、前々のブレア首相の「大統領的」ともいえる強引な政治運営への反発があり、2010年庶民院議員総選挙で連立政権が登場したように、いずれかの政党が勝利して政権をとるというわかりやすい政治状況ではなくなってきたことがある。日本でも、解散制度のあり方を再検討すべきではないだろうか。
 衆議院の解散への期待には、昨今の決断主義的な政治への期待も含まれているのかもしれない。解散・総選挙の結果、いろんなことに白黒つけば、パッと景気が良くなると思っている人もいるだろう。ここに、「決めることのできる政治」への期待感があるように思われる。野田首相は、消費税税率引き上げ法の成立後の記者会見で、「困難を伴うが必要な改革をこれ以上先送りせず、『決める政治』『決断すべきときに決断する政治』を今こそ実現する必要がある」と説明した。しかし、そもそも、消費税の税率引き上げを国民は決めてほしかったのだろうか。それも、「社会福祉の改革」の中身はさっぱりと明らかではない状況で、とりあえず消費税の税率だけを上げるということを望んでいたのであろうか。「早いうち」の解散の約束のゆえにとりあえず野党も消費税率引き上げに賛成したのだとしたら、「決断」の中身たるやかなり怪しそうである。
 決断主義的に問題を解決することが危機感の高まる中で期待されているのかもしれないが、むしろ、問題がそう簡単には片付かないということ自体を率直に認めるところからこそ出発すべきではなかろうか。衆議院の解散制度に即して言えば、政治的困難状況を衆議院の解散をきっかけに一気に突破できるという期待を持たないことが大切ではないだろうか。そもそも自民党と民主党はそんな違うことを主張しているようでもないのに、二党で競い合うフリをしてみんなの注目を引こうとしているところがある。それもなかなか昨今はうまくいかないので、だれかもっと面白そうな人たちが出てこないかと期待する向きもあり、また人気の出そうな人たちに便乗しようという人たちもパラパラと出てきている。そんな三文芝居に騙されずに、何が決められているのかを私たちは冷静に見なければならない。
 解散をするとしても、現在の選挙制度にはいろんな問題がある。たとえば、議員定数不均衡があり、自由な選挙活動が規制されたままである。それらの不自由で不平等な選挙の仕組みを放置したままで、とにかく解散・総選挙され行えば、民主的な政治が行われていると思うのは大きな間違いであろう。

◆植村勝慶(うえむら かつよし)さんのプロフィール

國學院大學法学部教授(憲法学)。
著作として、『現代憲法入門講義(新3版) 』(共著、北樹出版、2011年)、 『日本国憲法の多角的検証』 (共著、日本評論社、2006年)、 『新訂版 現代憲法入門』 (共著、一橋出版、2004年)など。

<法学館憲法研究所事務局から>
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