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今週の一言

 

国会議員定数削減問題・民主的選挙制度実現の課題

2012年10月29日



横山聡さん(弁護士)

1 そもそもの話〜日本の国会議員数は過剰なのか?

  前回の国会で、民主党が、衆議院議員選挙について、小選挙区の定数を5削減し、比例選挙区の定数を40削減する提案を出した。小選挙区の定数削減は、2011年3月23日の最高裁判決による1票の格差是正のためであるが、比例選挙区の定数削減は、同党の「マニフェスト」による。
 しかし、そもそも日本における議員の定数は過剰なのであろうか。政治制度的にも比較がしやすい欧米諸国の議員の数と比較してみれば、日本の議員数は17.6万人に一人であり、スエーデンの2.7万人に一人とは6倍以上の差がある。イギリスと比較しても、4.5万人に一人であるから、4倍近い差がある。人口数を単純に比較するべきではないが、国会議員が「国民の意見を聴取して国会に反映し議論する」機能を有するところからすれば、少なくとも現段階での国会議員数は少ないと言わざるを得ない。国民主権・議会制民主主義を採用している日本では、主権者である国民の声が政治に反映するのが当然の憲法上の要請である。つまりただでさえ少ない国会議員を削減することは、国民の声が国会に反映しなくても良いという驚くべき主張である。

2 比例定数削減は何を目的とするのか

  さて、民主党は、多様化する民意を無視して小選挙区制で選挙制度を確立したいと要望している。野田首相は小選挙区300のみで十分だとの意見の持ち主である。しかし、現代は価値観が多様化した時代である。情報流通が促進され、様々な要素が錯綜した多様な争点の組み合わせにより、利益較量状況も複雑化している。その中で、一つの選挙区で相対多数に単純化された結論を是とし、その選挙区全体の意思として単純化することは、少数派の人権を侵害する危険が極めて大きい。多様な国民の意見を国会に反映することが現代では重大な課題となる。投票者の投票行動からすれば、自分の投じた票で当選することを期待する結果、小選挙区制は2大政党制に結びつきやすい。しかし、多様化した国民の意見を2つに収斂させることは選択肢を狭めることになり、政治に対する期待・関心を失わせかねない。また、落選を回避するために2つの政党の主張自体が類似になりやすく、この点でも政治への関心を低下させる危険がある。
  一方、比例選挙区は、多様な意見を反映させることができ、少数派でも候補者に票を集めて自己の主張を取り上げる候補者を当選させることができ、少数派の意見を国会で展開させられる。小選挙区制の発祥地であるイギリスでは、当初は2つの政党しかなく、各小選挙区では相対多数ではなく絶対多数で決着がつくので制度に合理性があったが、現在では多様化した価値観のもとでは小選挙区制に合理性があるか議論になっている。
  国民の多様な意見を政治に反映させるためにも、比例選挙の定数を容易に削減させてはならないのである。むしろ、時代遅れの小選挙区制を廃止する方が、議会制民主主義の下では合理的と言える。
  従って、小選挙区に固執する人々は、「少数者の権利」の侵害、多数者の利益のみを考慮するものであり、「構造改革」「新自由主義」に近い発想に馴染むものである。これに対して現代型憲法は、少数者の人権に配慮し、その権利の擁護を実質化する方向性を持つのであるから、小選挙区制は現代型憲法に馴染まないと言わざるを得ない。もちろん、日本国憲法は現代型憲法であることは言うまでもない。

3 参議院選挙制度との関係

  本年10月17日に、参議院についても違憲状態ないし違憲との判断が出た。以前は5倍の格差でも違憲問題を生じないかのように言われていたが、「人権としての参政権」の考え方をもてば、安易に1票の差がつくことは許されないと言わざるを得ない。すなわち、参政権=投票権も基本的人権である以上は、合理性のない格差(年齢制限などは合理性がある格差である。)を生じさせることは許されないと考えれば、少なくとも倍以上の格差については疑義が生じてしかるべきである。参議院の選挙制度についても、特段「都道府県単位」でやらねばならない合理性はない。アメリカの州の規模であれば「州代表」概念を考えられないでもないだろうが、日本の小さな「県」単位を代表させる合理性は考え難いし、そもそも「全体の奉仕者」である以上、一部の県・地域の利益を重視するべきではないのであるから、「県」にこだわった選挙制度にとらわれる必要はない。全国1区の大選挙区制でも十分なのである。緊急状況を想定して3年ごとの半数改選を定められている参議院では、改選議席数も多くはないから、1票の格差が生じないためには、全国1区の大選挙区制にしてしまう方が難しい調整がなくて良いのではなかろうか。

4 結論〜あるべき選挙制度の形、そして・・・

 とすれば、衆議院はブロック制の比例選挙、参議院は全国1区の大選挙区制というのが、制度に無理が少なく、1票の格差が生じにくくなるのではなかろうか。人口の移動などに合わせて調整することも、これならば無理が少ないように思われ、かつ、多様な国民の意見を反映する国会が形成される可能性が高くなろう。問題は、「国会で実質的な議論を行わせる」こと、すなわち、国会の機能回復である。3.11東日本大震災の復興が進まないのも、国会が議論の場として機能していないこと、その代わり民・自・公3党のトップで決定した「税と社会保障の一体改革法案」は議論もそこそこに制定されている。国会の機能不全をいかに修正するかが、本質的課題であると考える。

◆横山聡さんのプロフィール

弁護士。自由法曹団東京支部事務局長。

<法学館憲法研究所事務局から>
11月4日(日)、「講演と対談『政治と憲法 −選挙制度・政党のあり方』」(森英樹・名古屋大名誉教授が講演)を開催しますので、ご案内します。こちら



 
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