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「慰安婦」問題から考える東アジアの平和

2012年11月19日



大森典子さん(弁護士・「慰安婦」問題解決オール連帯共同代表) 

「慰安婦」問題とはなにか

 橋下大阪市長や安倍自民党総裁などが、最近「慰安婦」問題について発言し、そうした発言に伴って新聞などでもこの問題がしばしば報道されている。ところで「慰安婦」問題とはそもそもどのような問題なのか、多くの国民にとって、この言葉は聞き慣れているが、被害者の被害事実の内容はどこまで具体的に知られているだろうか。書店で平積みになっている「WILL」などの雑誌では、「官憲による強制連行があったかなかったか」が唯一の問題だ、として、「強制連行」がなかったから彼女たちは自ら稼ぎに行った売春婦だ、と言っている。
 しかし国際社会では彼女たちは、奴隷状態のなかで日本軍兵士の相手をさせられた「性奴隷」であったとして共通のイメージがある。当時兵士として「慰安所」に行った水木しげるは、行ってみると「ピー屋」の前には長蛇の列ができていて、とうてい自分の番は回ってこないとあきらめた、という回想記を書いている。多くの被害者の語る被害状況を聞けば、これが奴隷状態であったことは通常の人間の想像力をもってすれば容易に理解できる。そして彼女たちの被害は人間の尊厳を根底まで奪った許されない人権侵害であった、と認識するのが、普通の人権感覚であろう。ところが、日本ではくりかえし、彼女たちは「公娼」であって、日本政府が謝罪する必要はない、との議論が出てくる。つまり日本という社会は、このような被害を直ちに人権に対する重大な侵害だ、と感ずることのできない人権感覚の麻痺した社会だといわざるを得ない。

なぜ今「慰安婦」問題がホットなのか

 昨年12月、京都で行われた日韓首脳会談で李大統領から野田総理はこの問題を優先的に解決するように、と強く求められた。また今年8月10日には李大統領が竹島(独島)に上陸したことで一挙に日韓関係が緊張した。そしてこの「上陸」行動の背景に「慰安婦」問題があると言われている。「慰安婦」問題は韓国にとって大日本帝国による植民地支配の象徴的被害ととらえられている。この問題の誠実な解決なくして植民地支配に対する清算は終わっていないという韓国の国民感情が強く政府を突き動かしている。もちろんその根拠となっている日韓請求権協定についての韓国政府の解釈と最近の憲法裁判所の決定もある。
 他方日中関係も尖閣諸島問題をきっかけに現在最悪の事態にまで悪化している。中国の反日行動は、反日教育によって育てられた若者によるもので、この反日教育が原因である、とする論評もマスコミによって大々的になされているが、私は中国人の性暴力被害者(「慰安所」制度の末端の形態による被害者と考えている)の裁判を担当する中で、多くの中国人があの侵略戦争でいかに深刻な被害を受け、日本に対しいかに深い怒りをもっているか、を感ずることができた。日本社会があの侵略戦争でどのような被害を隣国に与えたのか具体的な事実を共有し、あの戦争を反省しその被害についてとうてい償うことはできないにしても、謝罪の気持ちを持ち続けることによって本当の信頼関係を築かなければ、今回の問題が表面的には収まっても、つねに繰り返される危険をかかえることを予測することができる。
 近隣諸国との間で、こうした過去の清算を誠意をもって行い、日本社会がきちんとした歴史認識を共有し、2度と過ちは繰り返さないとする決意を行動に表さなければ、決して東アジアで真の友好関係は築けない、ということを日韓、日中の最近の事態は明らかにしている。

◆大森典子さんのプロフィール

弁護士。家永教科書裁判、中国人「慰安婦」裁判などを担当。現在「慰安婦」問題解決オール連帯共同代表。





 
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