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憲法改悪阻止のために―自民党改憲案から考える

2013年3月18日



吉田健一さん(憲法会議代表幹事・弁護士)

 「自民党改憲案について話を聞き考えてみると、現行憲法の意味や大切さが、これまで以上によく理解できる」
 ある地域の9条の会で開かれた学習会の参加者から寄せられた感想である。
 昨年4月、自民党が改憲案(「日本国憲法改正草案」)を発表した。サンフランシスコ講和条約で独立を回復した60年目の節目で、新たな憲法をという趣旨のようである。前後して、みんなの党や維新の会からも改憲案や改憲を求める見解が明らかにされた。
 昨年12月、自民党が総選挙に勝利して、改憲を明言する安倍首相が誕生したことで改憲への動きに対する危惧が強まっている。今回の選挙で多数派となった自民党、さらには維新の会など合わせると改憲を進めようとする衆議院議員は75%にも達しているという。当面、96条改憲を目指すとしながらも、安倍首相が9条に焦点をあてた改憲をねらっていることはいうまでもない。今年の7月に予定されている参議院選挙での結果によっては、改憲の動きが加速される危険も大である。
 憲法を踏みにじる動き、明文改憲はもとより、解釈や立法による改憲も許さない取り組みがいまこそ求められているときはないと思う。
 私は、立川市にある三多摩法律事務所に所属しているが、今年に入って学習会の講師依頼が急増している。なかでも、自民党改憲案について、学習したいという要望が多い。
 講師として、学習会を準備するうえで、あらためて自民党改憲案がどのようなものなのか、条文に沿って検討することとなる。とりわけ、現行憲法とどう違うのか、現法憲法のどういう点が否定されようとしているのか、具体的に考えさせられる。
 平和主義の原則に即していえば、次のようになる。
 自民党案は、戦争を行うことを前提にし、9条を改憲して徹底的に現行憲法を否定する内容となっている。陸海空軍を保持しないとし、交戦権を否定した9条2項は跡形もなくなり、戦争をするための組織として国防軍を保有し、海外での活動を含めた役割が明記される。軍隊として求められる統制、秘密の保持、軍事法廷(審判所)の設置まで規定される。国民も、領土等の保全や資源の確保のために協力することとされる。さらに、戦争という事態になれば、国民の権利を制限できる立法を内閣がなしうることとする緊急事態法制まで導入する。憲法前文からは、侵略戦争の反省にもとづく非戦の決意も、平和のうちに生存する権利の保障も消し去られている。戦争協力を拒否できる根拠になる平和的生存権は、戦争遂行に障害となると考えたのであろう。
 戦争することを前提にした憲法の仕組みは、国民一人ひとりが個人として尊重されるという大原則をも危ういものにする。
 自民党案は、基本的人権が侵すことのできない永久の権利である(97条)とした、いわゆる天賦人権規定を削除し、基本的人権には責任及び義務が伴うとし、公益及び公の秩序に反してはならないとする。「公共の福祉」という言葉を「公益及び公の秩序」に置き換えるだけでも、本質的な違いがあると思うが、それだけではないのである。集会、結社、言論の自由においては、公益及び公の秩序による制限を特別に重ねて明記し強調している。公務員について労働者としての権利の制限を明記し、教育を国の未来を切り開くうえで欠くことのできないもの位置づけ、家族の尊重や助け合いまでうたわれる。国とか「公」の立場がしきりに強調される。国旗国歌を尊重することまで国民に義務づけるのである。
 憲法そのものと国民の位置関係も逆転する。国民は憲法の尊重義務を負うとする。国民が個人として尊重されるために権力の横暴を制限するはずの憲法が、逆に国民を制限するものとされてしまう。
 国会で改憲を発議できる要件を議員の3分の2から過半数に緩和する96条の改憲はもとより、統治機構や地方自治に関する規定についても重大な問題がある。
 いずれにも自民党案には、明文改憲の露骨なねらいが示されている。そのような自民党案の危険性とあわせて、現憲法が戦争を否定し、国民が個人として尊重されるための一つひとつの仕組みをつくっている意味を確認し、国民に知らせることが改憲の動きを止める大きな力になるのではないかと思う。
 あわせて重要なことは、そのことをいかにわかりやすく、国民の生活や実感に根ざして広げることができるかである。
 私も一役員として参加している憲法会議(憲法改悪阻止各会連絡会議)は、今年で結成48年となるが、憲法改悪を許さないために、諸団体や労働組合、研究者が一緒になって、憲法を学び、憲法を実現する運動を進めてきた。様々な市民団体とも共同して毎年5月3日の憲法集会に取り組んでいる。多くの人たちが、それぞれの立場から様々な切り口で、生活や運動との関係を語り合いながら、国民の中に共感を広げる努力をしている。
 いよいよ正念場である。

◆吉田健一(よしだ けんいち)さんのプロフィール

 1980年弁護士登録。三多摩法律事務所(立川市)所属。
 横田基地公害訴訟弁護団、沖縄反戦地主弁護団等で活動。参院テロ特措法公聴会や衆院憲法調査会公聴会の公述人をはじめ、自衛隊の海外派兵や改憲に反対する活動に取り組んでいる。

<法学館憲法研究所事務局から>
法学館憲法研究所はシリーズ「憲法とともに歩む」製作委員会の構成団体として「戦争をしない国 日本」の続編である「STOP戦争への道」を製作し、普及をすすめることにしました。読者の皆様のご参加をお待ちしております。




 
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