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領土ナショナリズムの魔力を解くために

2013年4月15日



岡田充さん(共同通信客員論説委員)

 あの前東京都知事が、米国で尖閣諸島(中国名 釣魚島)を買い取るとブチあげたのはちょうど1年前、ワシントンの桜が満開のころだった。「無人の孤島」をめぐる不毛な争いは、日中関係を国交正常化以来、最悪の状態に陥れただけではない。両国の領土ナショナリズムを刺激し、日本では「領土防衛」があたかも焦眉の急であるかのようなキャンペーンが奏功した。いまや、永田町は憲法9条を含む改憲論へとなだれをうっている。前知事の目論見はわずか1年で的中したのである。
 こんなに効率よく世論を束ねることができたのはなぜか。それが領土ナショナリズムの持つ魔力ではないか。そう考え、昨年著した「尖閣諸島問題 領土ナショナリズムの魔力」(蒼蒼社)の副題にした。「魔力」と聞いて何を思い浮かべるだろう。広辞苑には「妖しい不思議な力」とある。「自分の意思では抗いがたい力」と言い換えてもいいだろう。
ある霞ヶ関の官僚と話していたら、彼が「このままいけば(中国は)とってこようとするかもしれない。尖閣を差し上げれば、次は与那国や沖縄本島まで差し上げることになるが、それでもいいのかと問えば、多くの人は黙ってしまう」という論法を展開した。こう聞かれれば、確かに多くの人は「それは、ちょっと困るけど…」と反応するのではないか。
 ただなぜ「困るのか」、自問する人はあまりいないと思う。「とられるかもしれない」という被害者意識が誘発され、続いて「とられてはならない」という反射的回答を瞬時に引き出す。これは思考の結果ではない。問題の領土が「われわれ固有のものなのか」「かれらの主張に理はないのか」などと考えた末の結論ではなかろう。その意味では、領土問題は我々の思考を停止させるのだ。これは「国家」や「主権」など、排他的絶対性を持つ概念も同じだ。官僚に言わせれば、領土は主権と並んで国家の基本構成要件だからね、と言うに違いない。
 ちょっと待ってほしい。「無人の孤島」をめぐる争いは、喫緊のテーマだろうか。経済低迷に歯止めがかからず、政党政治は袋小路。終身雇用に年功序列という伝統的な社会構造と秩序が崩壊し、将来不安は募る一方。背景には、グローバル化する市場経済とネット空間の拡大がある。それは古い共同体を壊し、国家や政府の役割を希薄化して政治、経済、社会のあらゆる領域で、人びとが「共有する前提」が失われていく。
 国家主義者たちはこのままでは「日本は崩壊する」と考える。「領土」は、空洞化する国家が可視化できる数少ない存在である。そこで、領土という妥協不可能なテーマを設定して、日中関係を緊張させる。中国の脅威を煽って「平和ボケした日本人に防衛意識」を覚醒させる。共有できる前提が失われた時、最も有効な方法は、危機を煽り共通の敵を外に求めること。「敵対型ナショナリズム」である。ナチスの手法でもあったが、フランスやギリシャでも移民排撃を叫ぶ右翼が勢力を伸ばした。
 ここまで説明すると、「で、結局、あの島はどっちのものなの?」と、魔力の「囚われ人」から質問がでる。拙著では(1)歴史的には台湾、沖縄とならんで領土拡張、拡大の一環(2)日本政府の編入の経過は疑問点が多く「固有の領土」という主張は噴飯もの(3)領有権争いでは、「棚上げ」で暗黙の了解があったが、2010年の漁船衝突事件の処理と国有化は、その了解を崩したーなどと論考した。そして、これを国家対国家の土俵で論じるのではなく、ここを豊かな漁場としてきた沖縄、台湾、中国の生活者の土俵に立って、共通利益を追求する以外に道はないという結論を引き出した。
 自民党、維新の会を中心に改憲論が勢いづき、このままでは参院選で改憲勢力が三分の二を越すかもしれない。サクラは散ったが、「同期の桜」の歌のように、戦争に駆り立て若者を死に追いやってはならない。

◆岡田充(おかだ たかし)さんのプロフィール

1948年4月北海道生まれ/共同通信社香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員、論説委員/2008年共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師
/著書に『尖閣諸島問題 領土ナショナリズムの魔力』(蒼蒼社。2012年11月)/『中国と台湾―対立と共存の両岸関係』(講談社現代新書。03年2月)
/21世紀中国総研のHPに、岡田充の「海峡両岸論」を連載


<法学館憲法研究所事務局から>
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