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勝訴! 成年被後見人の選挙権回復の裁判

2013年4月22日



杉浦ひとみさん(弁護士・成年被後見人選挙権回復裁判代理人)

【事件の概要】

 被後見人の選挙権を制限する公職選挙法第11条第1項第1号(次に掲げる者は,選挙権及び被選挙権を有しない。 第1号 成年被後見人)は選挙権を侵害するものであり憲法違反であるから、選挙権を確認せよと、2011年2月1日、東京地方裁判所に提訴した事件である。本年(2013年)3月14日東京地方裁判所民事38部は、同条を違憲と判断し、選挙権を行使しうる地位を確認する判決をし、裁判長が「どうぞ選挙権を行使して社会に参加して下さい。堂々と胸を張っていい人生を生きて下さい。」と原告に語りかけたことが大きく報じられ、社会に感動を呼んだ。

【争点1〜選挙に能力が必要か】

 この裁判の中でもっとも訴えたかったのはこの点である。選挙権に能力が必要だというなら、その能力はどのように判断するのか。IQがいくつならいいのか。学歴のある人間が情報や風潮に流されたりしないのか。「おもしろそうだから」と投票する"健常者"もいるではないか。それよりも、障がいを持って過酷な生活を肌身で感じてきた人が「この人はいい人だ」と選ぶ目の方が正確なこともあるだろう。あるいは財産管理能力は衰えても、人生の荒波をわかってきた高齢者に人を見る目がないのか。こう考えたときに、選挙に必要な能力を画することなどできないのではないかと私たちは考えた。さらには、為政者に選挙に必要な能力の判断を任せたときには、「自分」が適切な選挙能力を持たない者として切り捨てられることだってあるのではないかという危機感も覚えた。このようなシンプルな思いは、出会った何人もの学者を動かした。被告国が、よりどころとしてその著作を証拠提出してきた奧平康弘東大名誉教授も、「能力が低いとされる者は、事実上権利行使をしないことはあるとしても、政治的判断力のあるなしを国家が判断すべきではありません。そもそも、政治的判断力があるかないかは、分明ならざる力であるからそれを判断することは極めて困難であるだけでなく、権利を託される為政者がこれを決めることは民主主義に反することになります。」「ことわりも留保もなく(四半世紀前に出版された)この文書をもって現在引用されることは、私としては不本意なことです。」と意見書を書いていただいた。

【争点2〜成年後見制度の流用は不合理】

 加えて、制度流用は全く不合理である。@そもそも成年後見制度は自己決定の尊重、残存能力の活用、ノーマライゼーションといった個人の尊重のための制度で、選挙権剥奪はその制度趣旨に反する。A後見の審査においては選挙能力は実際、審査されていない。B国際的な潮流も選挙に能力を必要としない方向に進んでいる。

【判決】

 まず、選挙権については、平成17年の在外邦人選挙権訴訟にふれ、民主国家においてはそもそも選挙権は国民の基本的権利であり、一定の年齢に達した国民のすべてに平等に与えられるものであり、原則としては制限されないとした上で、それを制限するためには選挙の公正を確保できないような「やむを得ない事由」があることが必要であるという厳格な審査基準をとった。そして、「憲法は、様々な人がいることを前提に、それを主権者と考えている。」と血の通った人間観が示された。そして、制度趣旨の異なる成年後見制度をもって選挙権を制限することは違憲と判断した。

【国の控訴】

 この判決は「国民の基本的人権を重視した判決」「障害者の政治的権利を認知する重要な一歩」「国際的な潮流を踏まえた判決」など国内外で評価され、反対の論評は見られなかった。にもかかわらず、国は控訴期限前日に「公選法の改正に時間がかかり、その間、全国各地の選挙で混乱が起こるおそれがある」などと理由をあげ控訴した。禁治産制度から成年後見制度に変わって10年余り、政府が適切な立法を怠ったことが混乱の原因であるにもかかわらず、その負担を原告に負わせるものである。「与党内にも控訴は人間のすることではないとの声」との報道もあった。

【政治の動向〜法律改正(削除)にむけて】

 公職法11条1項1号の削除によって選挙権の回復を図ることが判決の趣旨に合致する方向であるとの声により、与党(自民・公明)は4月9日に成年被後見人の選挙権についてのPTを作った。12日のPTの結果として、一律削除の方向性が示される一方「規定を削除した場合は、第三者が被後見人に対し投票を誘導するなどの不正行為の懸念がある。このため(1)投票所の本人確認を徹底(2)不正投票の罰則強化??などの防止策を盛り込んだ指針も策定する」といった内容が報道された。この報道に対しては、当事者、支援者などからは憤慨の声が上がっている。規定を削除して被後見人に選挙権が回復するとなぜ、本人確認の徹底が必要なのか。これまで確認などされてこなかったではないか。同じ能力で被後見でない人たちはどうなのか。差別的な意識が見え隠れする。また、不正投票の罰則強化については、その前提として、投票に対して不正を働きかける態様については慎重に検討しなければ、政治的発言や政治的活動さえも制約される可能性があることになり、これこそ時間をかけて検討すべきである。
 裁判については、国からの控訴理由を待つ状況である。しかし、それよりも一日も早い法改正(削除)と、控訴の取り下げに向けてのロビー活動も支援者と共に取り組んでいる。

◆杉浦ひとみ(すぎうら ひとみ)さんのプロフィール

東京弁護士所属。
日弁連人権擁護委員会、子どもの委員会、被害者委員会等に所属。
少年法研究会、更生保護学会、少年犯罪被害者支援弁護士ネットワーク、性教育研究会、等に所属。
児童養護施設オンブズマン、知的障害者施設オンブズマ、セカンドチャンス!(少年院出院者の出院者によるサポート)メンバー。
著書に「成年後見人の選挙権回復訴訟—成年被後見人の選挙権を奪う公職選挙法11条1項1号の違憲性を争う」(民事法研究会「実践 成年後見」37所収)など。





 
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