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いま生活保護制度を考える

2013年5月13日



和久井みちるさん(生活保護問題対策全国会議幹事)

「ありのまま」の生活保護

 生活保護制度が良くも悪くも世間の話題に上るようになって1年になる。
 私自身が生活保護を利用していたのは、もう2年も前のことになった。私はDV(ドメスティック・バイオレンス)によってうつ病を発症し、失職後、生活保護制度を利用した。
 昨年末、その時の経験をまとめた『生活保護とあたし』(あけび書房)を出版させていただいた。その中で、自分が生活保護を必要としてから、申請手続き、治療、日常生活、仲間づくりなどについてありのままに書いたつもりだ。
 執筆についてお声をかけていただいた時、すでに生活保護利用者ではなくなっていたが、本当は、生活保護を利用している最中に書くことができていたら・・と思うことがある。
 なぜかというと「生活保護利用者でなくなったからこそ書ける」と思われたくないからだ。「生活保護を利用している最中には、さすがに恥ずかしくて書けなかったのだろう」という世間の勝手な思い込みを感じることがある。 紹介されるときに、ことさら「現在は利用していない」ことを強調されることがあるからだ。
 生活保護がどんな制度で、どのような生活をしているのか、実態はほとんど明らかにされていないと言っていい。 人々が知っているのはメディアが取り上げた、パチンコや飲酒に明け暮れるかのような印象を与える、ごく一部の利用者の様子だけだ。
 生活保護利用者の8割は、高齢者、障がい者、病気を持つ人たち、そして、ひとり親世帯だ。若くして病気で働けない人の暮らしぶりを、一度でも丁寧に紹介したメディアがあっただろうか。90才に近い高齢のご夫婦が、古いアパートで肩を寄せ合って暮らしている様子や、難病や体の不自由な人たち、そういう方々が、日々、どのようにして生活しているか、・・・つまり、買い物、掃除、洗濯、食事、通院、家族や親族、地域との関係・・・を、どうしているのか、想像ができているのだろうか。
 『生活保護とあたし』を読んだという当事者の方から「よくぞ書いてくれた」という感想をいただく。うれしいが、しかし、本来は当事者がもっと堂々と、気軽に現在の暮らしぶりを発信できる基盤が必要だ。「今、生活保護を必要としている人」こそが最も説得力をもって発信できるはずだからだ。
 生活保護は厳格な審査を通過しなければ受給はできない。だから、滅多な事では不正受給などできはしない。不正がないのに、いわれのないバッシングで生活保護利用者は傷つけられ、黙り込むように仕向けられてしまった。それも、より善良な人たちほど深く傷けられている。そのことが悔しい。
 このような中で「生活保護制度改革」は、本当に実態が理解された上で議論されているのだろうか。

生活保護をめぐる動き

 現在、生活保護の制度「改悪」の動きが目まぐるしい。保護費の削減を含む予算案はすでに衆議院を通過している。生活保護利用者にとって、最も大きな給付である「生活扶助費(衣食住の日常生活に使うお金)」が3年間かけて減額される案だ。子どもがたくさんいる世帯では、最大2万円もの削減幅になっている。そうでなくても「最低」の給付額から、2万円もの金額を削減するという暴挙だ。3000円あれば単身者なら1週間は何とかなる・・という生活保護利用者の暮らしの現実から考えれば、途方もなく大きな金額である。
 その他にも就職活動に際して自分で就きたい職業を選べる期間に制限を加えたり、生活保護利用者だけにジェネリック医薬品を原則義務化するなどの劣等処遇を強いている。
 憲法で保障された「最低生活」を保障されているとは、およそ言い難いと思う。
 残念ながらこのような局面を迎えてさえ、反対の声はなかなか大きくなっていかない。政府は堂々と「反対する圧力団体がないから」生活保護を削減のターゲットに選んだとさえ言っている。生活保護利用者は元々社会的弱者である。このような赤子の手をひねるような政治のやり方が、どうしてまかり通ってしまうのか。義憤に堪えない。

生活保護の役割

 生活保護制度は、生活保護を利用している人たちだけでなく、その他の制度の「ものさし」ともいえる『最低基準(ナショナル・ミニマム)』の役割を果たしている。
 たとえば、就学援助の支給基準や、国民健康保険や年金、介護保険料の減免、保育料の基準、最低賃金さえもこの額が基準になっている。生活保護の基準額が引き下がるということは、最低賃金を引き下げる理由にさえなってしまう。引き下げの影響は、生活保護利用中の215万人にとどまらず、実に2000万人に影響が及ぶと言われている。
 しかし、非常に残念なことに、この事実はあまり知られていない。
 生活保護制度は、国のあらゆる施策の基盤になっている。そのことを多くの人に理解していただき、人々が安心して生活できる、真の「生活保護」を守っていきたい。

◆和久井みちる(わくい みちる)さんのプロフィール

北海道生まれ。大学卒業後、障がい児者、高齢者の介護や支援に携わった後、地方公務員として福祉現場を経験。DVによってうつ病で失職。生活保護制度を利用するに至り、生活保護問題に当事者として関わりながら4年を過ごす。生活保護問題対策全国会議幹事。
著書に『生活保護「改革」ここが焦点だ!』2011年、『また、福祉が人を殺した』2012年、ともに共著、あけび書房。『間違いだらけの生活保護バッシング』2012年、共著、明石書店。『生活保護とあたし』2012年、あけび書房。



 
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