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被爆者の体験と記憶を社会に伝えていく

2013年8月5日



中川重徳さん(弁護士)

 広島と長崎に原爆が投下されてもうすぐ68年が経ちます。当時20歳だった人は90歳近く、10歳だった人も80歳です。このように高齢となった被爆者たちが、被爆の影響と思われる疾病を発症しても、裁判をしなければ「原爆症」と認定されない、という不合理な現実があります。
 去る7月23日、東京地方裁判所で、ある被爆者が、68年前の体験を証言しました。川井正男さん(仮名)92歳。1945年当時は23歳で、ラバウル、ニューギニア等を転戦した末、広島市宇品の部隊に配属され、爆心地から3.5キロほどの練兵場で朝礼中に被爆しました。川井さんは、翌日、上官の命令で市中心部に向かいます。市電通り沿いに進むにつれ、原野となったヒロシマの凄惨な姿が目に飛び込んできました。やがてあたりは焼け野原となり、異様な臭いにつつまれていました。たくさんの死体も見たはずですが、川井さんがはっきり覚えているのは、川岸の女学生らしい死体の制服から出た腕が真っ黒に焼けていたことです。国側の代理人からは厳しい反対尋問が行われました。川田さんは途中で自転車がパンクして上官を見失い、一人部隊に帰ったのですが、「正確にどこまで行ったのか」「爆心地からの距離はどれだけか」というのです。もともと広島には土地カンが無いうえ、原爆で街が破壊されていたため、答えに窮するのが普通ですが、川井さんは、「御幸橋」という大きな橋を渡ってしばらくしてパンクしたこと、パンクした後も15分ぐらいは上官を追ったことを揺らぐことなく証言し続けました。
 長崎で被爆した別のある原告は、被爆当時7歳。原爆投下の瞬間の強烈な閃光と爆風、飛び込んだ駄菓子屋の商品がバリバリと音を立てて破壊されたことをはっきり記憶しています。この原告の特徴は、自分自身が直接被爆したことと並んで、原爆投下翌日、母親や年長の従姉妹が爆心地の「城山」まで行っておじさんを救出してきたことで、間接的に被爆をしたという点です。しかし、7歳の本人にはこの状況の具体的記憶がありません。そこで、長崎市郊外に住む従姉妹に連絡をとり、電話で当時の状況をうかがいました。その方は91歳でしたが、当時の状況を記憶しておられました。県道に沿って長崎を北上したこと、途中から景色一変し、爆心地付近はまだ地面熱く、たくさんの死体を見たことなどをまるで昨日のことのようにお話してくださいました。この方が、お話の最後に、「70年近くがたちますが、今でも、死んでいったおじさんや、城山町へ行った時見た情景が忘れられません。忘れたくても忘れきれません」とおっしゃった言葉が忘れられません。「戦争はイヤです。戦争の場面がテレビで出ても私は見ません。核兵器はもちろん全ての兵器を全部無くしてほしいです。」ともおしゃっていました。
 うかがったお話を報告書として提出し、原告本人の尋問も無事に終わったことを伝えると、電話ごしに、涙ながらにお礼をおっしゃいました。この涙の意味は、「これからの世代にどうしても伝えなければ」という強い思いとの現れと受け止めました。
 高齢の被爆者たちが、本当は思い出したくない過去の記憶と向き合い、記憶の減退や体力の衰えとたたかいながら行う証言を、しっかりと受け止め、記録に残す義務を感じています。私は2003年から「原爆症認定訴訟」に関わって来ましたが、裁判の解決とともに、被爆者の体験と記憶、核兵器を無くしてほしいという思いを社会に伝え実現することが自分の義務と感じています。

中川重徳さん(弁護士)のプロフィール

諏訪の森法律事務所。東京都出身、1988年弁護士登録。
原爆症認定集団訴訟東京弁護団、同東京訴訟事務局長。他に、府中青年の家・同性愛者差別訴訟(1997年勝訴確定)、七生養護学校「こころとからだの学習」裁判(最高裁係属中)等。
「被爆者はなぜ原爆症認定を求めるのか」(岩波ブックレットbU84)2006年、共著
「原爆症認定訴訟が明らかにしたこと―被爆者とともに何を勝ち取ったか」あけび書房、2012年、共著






 
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