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今週の一言

 

平和憲法を変えてはいけない。9条を変えてはいけない。

2013年8月12日



池住義憲さん(立教大学大学院キリスト教学研究科教員、元・自衛隊イラク派兵差止訴訟の会代表)

■ここまで来てしまった…

 改憲ムードが、現実に「移りつつある」から現実に「移ってしまった」。本年2月28日、安倍首相は施政方針演説で「憲法改正に向けて国民的議論を深めていきたい」と改憲(明文改憲)を明言し、その後7月参院選"大勝"を受けて、憲法改悪の動きを急速化させている。

 「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)は、集団的自衛権の行使容認を提言する方針を固めている。軍事行動を含む国連の集団安全保障への参加を認めることも含んでいる。8月中下旬に懇談会を再開・"再稼動"させ、秋に報告書をまとめて政府に提出する方向だ。

 安保法制懇の報告書は、年末につくる「新防衛大綱」に反映される。「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)再改定に向けた米国との協議に臨む政府方針にも活かされる。

 こうした動きを内閣内で憲法の視点からチェック審査するのが、内閣内で「法の番人」と称される内閣法制局だ。だが、その内閣法制局長官が、替わる。8日の閣議で正式に決定される。新任されるのは、第一次安倍内閣時の安保法制懇で事務作業に関わっていた法制局経験のない小松一郎氏だ。

 更に安倍政権は、外交・安全保障の司令塔となる「国家安全保障会議」(日本版NSC)を来年(2014年)1月に発足させる準備を固めている。6月26日に閉会した通常国会で継続審議となっていた法案だが、今秋召集される臨時国会で日本版NSC設置法案を成立させる方向だ。

■"改正"されていたらどうなるか

 安倍政権が狙っているとおりに憲法解釈が変更されたら、どうなるか。さらに、昨年4月に自民党憲法改正推進本部が発表した「日本国憲法改正草案」が成立したら、どうなるか。戦争の放棄、武力行使の禁止、戦力不保持、交戦権を認めないと定めた9条が蔑ろにされたらどうなるか。

 いや、「されたら」でなく「されていたら」どうなるかで考えてみると、恐ろしさがよく解る。2003年に現実に起こったイラク戦争を通して考えてみよう。

 事実は、こうだった。2003年3月20日、米国ブッシュ政権は「大量破壊兵器の存在」と「フセイン政権とアルカイダの関係」を武力行使の正当な理由として挙げ、イラクへ軍事攻撃を開始。米国の同盟国である英国はじめスペイン等に呼びかけて「有志連合」を組織。それらの国々は、いずれも集団的自衛権の行使として参戦した。

 日本は9条があるためにイラク戦争には正面からは参戦出来ず、有志連合に加われなかった。イラク人に銃口を向けることはなかった。それで当時の小泉自公政権は、戦争が行われているイラクにも"非戦闘地域"は存在するとして時限立法(イラク特措法)を強引に成立させ、「人道復興支援」と「安全確保支援」活動を行うとしてイラクに自衛隊を派兵した。

 派兵された自衛隊は、2004年1月から2006年7月までサマワに陸上自衛隊のべ5,600人が派兵され、給水活動など行った。航空自衛隊は2003年12月から2008年12月までのべ3,400人が派兵され、武装米兵と関連物資などの空輸活動を行った。

 これに対して名古屋高等裁判所は、2008年4月17日、空自の輸送活動は他国(米国)の武力行使と一体化した活動であって、武力の行使を禁じた憲法9条1項に違反するとの違憲判決を出した。そして違憲判決から8カ月後の2008年12月、予定を早めて空自はイラクから撤退することになった。政府は、憲法によって自衛隊撤退を余儀なくされた。

 もしこの時、安倍政権が狙っているとおりに憲法が"改正"されていたとしたら、どうなっていたか。

 米国がイラク戦争を開始した時点で日本は米国の軍事同盟国として合憲・合法的に集団的自衛権を行使し、「国防軍」を派兵したに違いない。米国が起こした国際法違反の間違った戦争に参戦したに違いない。死亡者ゼロではすまなかっただろう。有志連合に加わった英国軍兵士は、179名が死亡した。

 政府に非常権限が集中する。日本版NSCは、フル稼働だ。参戦状態が深まり、軍事的緊張が高まれば、内閣総理大臣は「緊急事態」宣言(自民党草案第9章第99条)を発していたかも知れない。地方自治体および国民は、政府の指示にすべて従わなければならなくなる。国民の日常生活に様々な制約・制限が課される。

 国を相手取っての「国防軍派兵差止」訴訟や「国防軍派兵違憲」訴訟など、もちろん起こすことができない。法的根拠となる憲法9条が変わってしまっているからだ。もはや、歯止めが利かなくなる…。

 安倍政権・与党自民党が狙う憲法解釈変更およびその後に続く憲法"改正"とは、そういう状態になってしまう、ということだ。平和憲法を変えてはいけない。9条を変えてはいけない。
(2013年8月6日朝、自宅にて記)

池住義憲(いけずみ よしのり)さんのプロフィール

1944年東京生まれ。大卒後、東京YMCA、アジア保健研修所(AHI)などNGOで計35年の経験を経て、現在は立教大学大学院キリスト教学研究科特任教授。南山大学、名古屋学院大学、愛知県立大学大学院などでも講師を勤める。元・自衛隊イラク派兵差止訴訟の会代表として2008年4月17日名古屋高裁でのイラク派兵違憲判決を勝ち取る。著書に『平和・人権・NGO』(新評論、2004年)など多数。愛知県日進市在住。


<法学館憲法研究所事務局から>
 法学館憲法研究所はDVD「STOP戦争への道」の普及を進めています。池住さんの思いと通じるところがあると思いますので、あらためてご案内致します。




 
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