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憲法21条が危ない! ―公安警察に見張られながら集会に参加することを当然視する裁判所

2013年9月30日



小塚陽子さん(弁護士・10.13集会妨害国賠訴訟弁護事務局)



1 事案の概要

2008年10月13日、東京都中野区で開催された平和を求める市民集会(参加者数は1000名強)に対して、警視庁公安部公安二課所属の警察官を始め約60名の私服の公安警察官が会場入口前に蝟集し、単眼鏡を使用する・メモを取るなどして集会参加者を1人1人チェックし、集会参加者を「監視」し威圧しました。さらに、公安警察官らは、会場付近のコーヒー店内から、少なくとも2台のビデオカメラを使って会場に向かって歩いて行く集会参加者を隠し撮りしていたことが判明しました。この集会の主催者の故土屋公献さん(弁護士・元日弁連会長)、森井眞さん(元明治学院大学学長)らが原告となり、このような警察官らの「監視」行為は集会の自由の侵害であるとして、東京都を相手取り国賠訴訟を提起しました(2008年12月3日)。2012年6月4日、東京地方裁判所は、原告らの請求を棄却する判決を下し、原告らは控訴しました。
 2013年9月13日、控訴審裁判所は、控訴人らの控訴をいずれも棄却する判決を下しました。

2 集会の自由の保障を蔑ろにする控訴審判決

(1)弁護団は、控訴審において、1審判決は警察官らの「視察」を警察法2条1項に基づく適法な行為と判断しているが同条2項を無視しており集会の自由の侵害という憲法的判断から出発していない、と批判しました。この批判を無視できず、判決は、憲法21条の保障及び警察法2条2項に言及しつつ、違法性の判断基準を示しましたが、その内容たるや、集会の自由の憲法による保障を全く蔑ろにするものです。
 すなわち、判決はまず、「集会に参加することにより集団としての意思を形成しそれを外部に表明することを目的とする集会を開催しこれに参加する自由については、公共の福祉に反しない限り、法令により禁止されず、また事実上も妨げられないことが集会の自由の保障の本体となる」とした上で、さらに、「集会参加者が当該集会に参加していることが秘匿されることまで保障されるわけではなく、集会参加者が集会に参加することが外部から認識され、個人が識別され、特定される危険があることも自ら覚悟し、自己の責任において集会に参加するかどうかを決定すべきこと」と言明したのです。

(2)その上で、判決は、公安警察官らの「視察」による情報収集活動が違法であるかどうかを判断するにあたっては、「その目的が集会の開催を妨害することにあるか、その態様・程度が本件集会参加者のプライバシー権等を広範囲に侵害し、本件集会参加者に強度に威圧感を与えて萎縮させ」「本件集会に参加することを事実上困難にさせるかどうか」という観点から検討する必要があるとの判断基準を立て、次いで、「本件集会参加者の中にプライバシー権等を侵害されたものが一部存在したかどうかではなく、本件集会参加者のプライバシー権等が広範囲に侵害され、強度に威圧されて萎縮させられ、本件集会に参加することが事実上困難にさせられた」場合には、集会主催者の集会を開催する自由が実質的に侵害されたことになり警察法2条2項に違反し違法となる、としました。

(3)そして、会場入口付近での「視察」と称する情報収集活動について、警察官らの目的が本件集会の開催を妨害することにあるとは認められず、「制服警察官らが本件集会の会場に向かう本件集会参加者の前に立って制止し、参加者全員を対象として1人1人網羅的にその住所、氏名等の個人情報を聴取したり」「本件集会参加者全員を対象としてビデオ撮影をしたり、顔写真を撮ったりしたわけでもなく、さらに、本件集会は予定どおり開催された」から、集会主催者の集会を開催する自由が実質的に侵害されたといえない、警察法2条2項にも違反しない、と判断しました。

(4)さらに、公安警察官らが喫茶店内から集会参加者をビデオ撮影していた行為について、「撮影の目的、時期、対象が限定され、映像も内容確認後直ちに消去されたことに鑑みれば」「本件集会の参加者の肖像権やプライバシー権等が広範囲に侵害されたということはできず」、集会主催者の集会を開催する自由が侵害されたといえず警察法2条2項にも違反しない、と判断しました。

3 判決の問題点―自民党改憲草案の先取り

判決は、集会の自由について、公共の福祉・法律の範囲内で保障されるものとしており、集会の自由の保障を極めて狭く解するものです。戦前の大日本帝国憲法と、さらには現在の自民党改憲草案と同質の思考であり、きわめて危険なものです。判決に従えば、公安警察官に識別されること等も「自己の責任」として「覚悟」ができる強い意志を持った人間でなければ集会に参加することはできなくなってしまいます。集会の自由の保障を実質的に否定するものです。このような裁判所の憲法感覚に憤りを抑えることができません。

 また、判決は、制服警察官らが制止したか・予定どおり集会を開催できたか、という観点から集会の自由の侵害について検討していますが、控訴人らの問題提起をまったく理解しないものです。控訴人らは、公安警察官らに監視されること・有形力を伴わない無形の心理的圧力が集会の自由の侵害になるということを問題として提起し、判断を求めてきました。この論点を意図的に回避し、物理的妨害などの具体的行動の存在を前提とし、これを基準として、集会の自由の侵害ではないと判断したのです。自民党改憲草案にある「公益」「公の秩序」を優位におく発想にほかなりません。

4 裁判の今後

このような不当判決に対して控訴人らは上告しました。200名を超える弁護団は、本訴訟を民主主義を支える基本権である集会の自由に対する侵害を争う憲法訴訟としてたたかい、控訴審判決に示される司法の危機を突き破っていきます。このことはとりわけ改憲に向けた動きが進められている現在、重要な意義があると考えています。

本訴訟については、こちらもご参照下さい。
(冒頭の写真は、本件集会と同じ会場で開催された同趣旨の集会を監視する公安警察官を撮影したものです(2012年10月7日))。

小塚陽子(こづか ようこ)さんのプロフィール

2005年弁護士登録 東京弁護士会所属
住基ネット差止訴訟、郵政過労死予防訴訟弁護団


<法学館憲法研究所事務局から>
 当研究所は以前上記裁判を素材に「公共訴訟研究会」を開催し、裁判に憲法をどう反映させるかの検討・研究を行いました。こちら



 
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