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今週の一言

 

個を鍛え民主主義を進化させよう

2013年11月25日



鳴井勝敏さん(行政書士・法学館憲法研究所賛助会員)


「多数意見が正しいとは限らない」。これは歴史の教訓である。3.11の「千年に一度」の災禍がこの教訓を実感する機運が生まれると思った。しかし、その前後で何も変わらない。逆により一層多数派になびく風潮、つまり、「それはおかしい」と言おうとしない気質が強まっているのだ。これは「個の確立」の脆弱な国民性を余すことなく映し出す光景だ。   

  私が「 孤立する子どもに気づかない親達〜『聴く力』は子どもの自立心を育む〜」という講演を始めたのは平成14年である。いわゆる「考えられない」若者の殺傷事件の多発、歯止めがかからないいじめ、不登校。私には「子どもは居場所を失った」と映った。そこで親子のコミュニケーションを子ども主体に構築、もって子どもの自立心を育むことを目的に講演を始めた。また、これは主権者の育成にも関連することだと考えた。ところが、講演で強調する「多様性認める精神」は特に学校の先生方には理解が難しいようだ。    

 そんな中登場して来たのが7年前の安倍総理大臣だ。「戦後レジームからの脱却」「美しい国」を声高らかに叫び現憲法を180度ひっくり返す「憲法改正」を主張し始めた。私が学んだ憲法はとても人間にやさしく、多様性を認める精神が鏤められ地球単位で物事を考える指針になるものだ。余りの違いに驚かされた。

 私が伊藤真先生から学んだ憲法を1人でも多くの人に伝える必要性を感じ「憲法ってなんだろう」という憲法講演を始めたのが平成17年である。  
 伊藤真著「憲法入門」及び法学館憲法研究所資料をもとに、講演は24回を数える。新聞への掲載、公民館、大学などへのチラシの備え置き? 時には繁華街に出てチラシを配布して行ってきた。参加者は0の時もあり、平均して4、5人である。1人来るも100人来るもしゃべることは同じ、と気合いを入れて始める講演。伊藤所長が指摘する「自民党憲法改正草案は、一言で言えば立憲主義と決別している点が最も注目すべき特徴である」。その「立憲主義」が伝わらないのだ。「本来の民主主義によって国民が権力を監視し、批判し、改善を要求することが出来るから社会は進歩するのであろう」という発想を多くの人は体質的に持っていないのだ。いわゆる「観客民主主義」が骨の髄まで染みわたっている、と言う感じだ。「個人の為の国家であり、国家の為の個人ではない」という件になると拒絶反応は頂点に達する。
 人は、憲法は難しい、とは言うが分からない、とは言わない。しかし、難しいと感じる程憲法を学んだ、という話は聞いたことがない。国民の側から憲法を改正してくれ、という声もほとんど聞いたことがない。だから、憲法改正アンケート60%賛成とかを見て驚くのだ。

 また、私は戦前生きた人達から「戦前はよかった」と言う話は聞いたことがない。ところが戦前回帰を懐古しそれに合わせて新しい憲法を制定しようとする政権が60%程度の支持を得て得ると聞き及んでさらに驚くのだ。憲法を変えさすれば生活不安が解消されるとでも思っているのだろうか。
 そもそもその起因を考えた時、私達は幼い頃から社会や世界をよりよくすることを教えられて育っていないのだ。家庭でも学校でも人と同じ様に生きることのメリットを叩き込まれ、教訓と感動の宝庫である「自立心」、つまり自分で考え、判断、決断をし、行動する。その結果に対して責任をとる、ということの重要性を教えられてこなかった。そして、良い学校へ行って良い職業について、地位を高め、あるいは財産を築くといったことが、成功の定義の如く叩き込まれてきた。この傾向は所得格差の影響を受け一段と強めているのだ。 

 とすれば、「人は皆違うのだから違っていて当たり前」、というこの単純な命題が学校、家庭から消え去っても不思議ではない。教育専門家は「孤立感」を抱く子どもが激増している、と指摘する。「意見を言うとあとでどうなるか」という不安や失敗恐怖が渦巻いていることが多いというのだ。これは「沈黙する善良な人々」の予備軍を養成している様なものだ。そして、この光景は民主主義崩壊の予兆を感じさせる。「沈黙する善良な人々」は民主主義の進化には無力だが、破壊する膨大なエネルギーを潜めているからだ。学校でしっかりと主権者を育てないとこの国はえらいことになる。
                               
「覚えた知識をはき出す様な"受験学力"だけでは、復興は立ち行かない。問題意識や主体性を大切にしていく」「知識偏重で目先の学力を追求する教育から脱却したい」と語る全町避難の福島県大熊町教育長(東奥日報新聞10月8日付朝刊)。同氏は「安全神話にどっぷり漬かってきた。『だまされた』と言う人もいるが、そうならない為には自分自身が変わる必要がある」と指摘する。
 選挙、選挙で立ち上がったナチス・ヒトラー。選挙で一度たりとも「ユダヤ人虐殺」を主張しただろうか。民主主義は民主主義を破壊してしまう。だからだまされてからでは遅いのだ。
  
 憲法環境、子どもたちの環境は悪化の一途。主権者はグランドでのプレーアである。関心を装い観客席で解説批評している時代ではない。「一人一人の力は微力だが、無力ではない」。「人は年を重ねるだけでは老いない。理想や情熱や希望を失ったときに、初めて老いがくる」。そんな言葉を支えに講演を続けなければならないと思っている。

◆鳴井勝敏(なるい かつとし)さんのプロフィール

1940年、青森市生まれ。行政書士。法学館憲法研究所賛助会員。
1997年、青森県行政書士会定時総会無効確認請求の訴え提起(判例時報1694号128頁)。
2010年、講演活動チラシ備え置き依頼について、青森市の措置に対し国家賠償法1条に基づく損害賠償請求の訴え提起。最高裁判所へ上告(本人訴訟)。
子どもの笑顔を増やしたい、人間に優しい「日本国憲法」を伝えたい、と講演活動を続ける。
オランダ・ポーランド・フィンランド・ドイツ・韓国・中国・アメリカ等世界18カ国を訪問、現地の人々及び学生と交流、異文化に触れることで多様性を認める精神の重要性を学ぶ。
好きな言葉:明日死ぬかのように生きよ、永遠に生きるかのように学べよ。





 
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