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日本・韓国・在日コリアンの若者たちの15年の歩みを描く ― 映画「笹の墓標」

2014年2月24日



影山あさ子さん(映画監督)

 1997年の夏、北海道幌加内(ほろかない)町朱鞠内(しゅまりない)に、日本・韓国・在日コリアンの若者たちが集った。戦時中の雨竜ダムや名雨線鉄道工事で命を落とした朝鮮半島からの強制連行、強制労働の犠牲者たちの遺骨を発掘しようする東アジア共同ワークショップの始まりだ。以来今日まで、朱鞠内、猿払(さるふつ)村浅茅(あさじ)野(の)、芦別(あしべつ)の発掘や、韓国での体験者や遺族の調査、遺骨の返還と、若者たちの出会いは国境を越えて広がっていった。この15年の歩みを描いた9時間9分のドキュメンタリー映画が『笹の墓標』だ。

 今日、この原稿を書いている2014年2月も、若者たちは雪深い朱鞠内に100名以上が集まって、日本と韓国、また日本の朝鮮学校の生徒たちが参加する高校生ワークショップが開かれている。
1997年の最初のワークショップに私も事務局スタッフとして朱鞠内に居たが、その衝撃は忘れがたい。土の中に忘れられてきた強制労働の犠牲者の遺骨が地上へと取り戻されると同時に、私たちにも新しい時間が始まった事を感じていた。思えば、これを記録し、この映画をつくるために、私は映画監督になったのだった。

 言葉も民族も、受けてきた教育も違っていたが、共にスコップを握り、夜を通して酒を飲み、歌い、眠るのも忘れて話し続けた。相手の思っていることも十分理解できない、自分の思いも伝えることもできないけれど、そこでの熱、カオスは、爆発的だった。当時、「近くて遠い国」だった韓国。そして在日の人たちの存在。今、目の前で掘り起こされようとしている歴史の事実が、今を生きている自分たちとつながり始める。

 笹藪の下に忘れられてきた遺骨に、発掘を通して出会うとき、言い逃れの出来ない歴史の事実と向き合うことになる。小さな穴に折りたたむように押し込められた遺骨の姿から、強制労働の実態が浮かび上がる。自ら遺骨を掘ったり、遺骨を前にして号泣する大人を見てしまったり、「申し訳ありません」と言う日本人を見たり、一つ一つが自分の体験として心に残ってゆく。
 今回、第一章を編集しながら15年ぶりに当時の様子をつぶさに見ると、韓国の若者たちはこんなに身構えて来ていたのだとか、「負けてはいけない」と強く感じていたことがよく分かる。国際交流だと思っていた日本の若者のやわらかい気持ちが撥ね返さる。韓国人の彼らにしても、挑むつもりで来たら、しゃべると日本人も普通だし、遊んだり酒を飲んでみたら面白かったり。果たしてこんな風にすぐ、日本人と友達になっていいのか?という疑問があったのだろうと思う。それが何なのかをもっと知りたい。日本人も、韓国人も、在日も、自分の世界から欠けていたものに出会い、世界がもっと広く見える瞬間を共有したのだと思う。


遺族調査

浅茅野発掘

 無論、その場ですべてが消化できる事柄ではなく、むしろ未消化のものを残したまま、もっと知りたいという思いが、この出来事が15年という時間を越えて続いてきた理由だと思う。何より、そうすることは、実に楽しかった。たくさん笑った。たくさん飲んだ。
 南北首脳会談の翌年(2001年)の発掘には、日本にある朝鮮大学校の学生達も参加するようになり、2003年頃までは、私たちの暮らす東アジア世界は、どんどん広がってゆくように思えた。これが未来の姿だと思える景色が、たくさんあった。しかし、拉致問題(2002年)を境に、再び日本の排外主義が強まり、今日に至る。

 国家間で何か起これば、在日の人たちへ様々ないやがらせが向けられる。具体的に被害を受けた人たちに思いをはせる、と言う以上に、目の前の友達のこととして、一緒に出来事を経験していった若者たち。一緒に大人になって、友達として勇気をお互い与え続けていくような関係ができていったことは、東アジアの一歩先の未来を生きてきたと言える出来事なのではないだろうか。今、私たちは、再びナショナリズムとヘイトクライムの嵐が吹き荒れる時代をむかえている。そして、それを乗り越え、平和な未来を生きて行くためには、「共に生きてゆきたい」という強い願いこそ、その根本になければならないと、若者たちの15年を見つめてきて、今、強く感じている。

 この映画と共に、これから二つの旅を始めるつもりだ。
 一つは、全国上映キャラバン。車にスクリーンと上映機材を積んで、3月〜5月、北海道から沖縄与那国まで、上映して回る計画だ。映画と共に、私たちの生きる未来はどこにあるのか、日本中の人たちに届けて行きたいと思っている。
 映画に心を寄せてくれた方たちの協力で、このほど、ハングル字幕版も英語字幕版も出来上がった。アジアで、そして世界で、同じ課題を抱えた人たちと東アジアの試みを広く共有したいと夢を膨らませている。
 もう一つの旅は、遺骨を帰す旅だ。私たちがかつて朱鞠内で発掘した遺骨も、浅茅野で発掘した遺骨も、まだそのほとんどが、帰る先を見つけられないままでいる。朝鮮半島の38度線の北側に故郷がある犠牲者も、帰る事が出来ずにいる。沖縄戦で犠牲になった朝鮮半島出身者も、ずっと行方知れずのままだ。かつてのワークショップの若者たちは今、その遺骨を、せめて自分たちが掘り起こした人たちの安住の地を見つけたいと考え続けている。もう一つ広いアジアの旅へ、私もカメラを持って一緒に加わろうと思っている。
 私たちの旅は、まだ、終わらないのだ。

【映画の詳細、今後の上映日程・キャラバンのお問い合わせは以下まで】
「笹の墓標」
予告編
森の映画社・札幌編集室
メール:marinesgohome@gmail.com

【3月以降の上映予定】
3月7日(金)〜9日(日)
スペースオルタ(新横浜)(http://spacealta.net/#map)
上映時間は各日とも
第一章「朱鞠内」(114分) 10:00〜11:54
第二章「浅茅野」(98分) 12:02〜13:40
第三章「遺族」(109分) 14:00〜15:49
第四章「未来へ」(121分) 16:00〜18:01
第五章「私たち」(107分) 18:08〜19:55
*8日(土)の上映後20:05〜20:50に藤本監督との座談の場有。
入場料:共通5プログラム券2000円(3日かけて全編をご覧いただくこともできます)
共催:森の映画社、スペース・オルタ
予約・問合わせ:スペース・オルタ(TEL&FAX:045-472-6349)

【作品紹介】
日本・韓国・在日コリアンの若者たちの15年の歩みを描く「笹の墓標」
1997年北海道朱鞠内に日・韓・在日コリアンの若者たちが集まった。
不条理に死を強いられた人たちの遺骨に宿る失われた命が、今を生きる人間をつなぐ。
戦争の時代、植民地の時代を越え、その先へと。

第一章 朱鞠内(しゅまりない)(114分)
戦時下のダム工事と鉄道工事の犠牲者の遺骨発掘。

第二章 浅茅(あさじ)野(の) (98分)
旧日本陸軍飛行場建設工事犠牲者の遺骨発掘。

第三章 遺族(109分)
遺族や強制労働体験者を訪ね、遺骨を返還する若者たちの旅。

第四章 未来へ (121分)
国境を超えて生きる場所を見出してゆく若者たち。

第五章 私たち (107分)
2012年夏、北海道芦別での炭鉱の犠牲者の遺骨発掘。

監督 影山あさ子・藤本幸久
企画・制作・著作 森の映画社 2013年
全5章/9時間9分/HDV/stereo/4:3
字幕 日本語/韓国語/英語
http://sasanobohyo.blogspot.jp/
https://www.facebook.com/sasanobohyo

◆影山あさ子(かげやま あさこ)さんのプロフィール

1963年兵庫県神戸市生まれ。インタビュアーとして参加した「Marines Go Home」(2005年)が最初の映画づくり。以来、「アメリカ-戦争する国の人びと」「One Shot One Kill」「ラブ沖縄@辺野古・高江・普天間」など、藤本監督と二人三脚で奮闘中。北海道での遺骨発掘には、97年から参加。この映画(笹の墓標)をつくるために、映画監督になった。北海道から、福島、沖縄と飛びまわる日々。北海道札幌市在住。





 
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