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今週の一言

 

「歴女」の自民党改憲案批判

2014年3月31日



飯田美弥子さん(弁護士・高座名:八法亭みややっこ)


1 慰安婦をめぐる「歴史認識」?

 八王子選出の衆議院議員(自民党総裁特別補佐)、萩生田光一氏が、3月23日フジテレビ系番組の中で、日本軍による「慰安婦」問題の「河野談話」について、検証作業を進める中で「新しい事実が出てくれば新しい談話を発表すればいい。」と発言したという。
 なんと恥ずかしいこと。
 八王子市民として、この場をお借りして遺憾の意を表明させてもらう。
 ここで私が首を捻ってしまうのは、1年前には、「日本維新の会」の橋下代表が、「慰安婦が必要だったのは、誰だってわかる」と発言して、世界中の顰蹙を買ったこととの関係だ。
 あのときは、「戦闘状態に曝されている男性にとって、性的に慰安する婦女が必要であることは、衆人が一致するところである。」という論調だったはず。「だから、慰安所を作って何が悪い」という居直りだった。
 今は、「慰安婦、慰安所は悪いことに決まっている。そんなことを日本軍がしたはずがない。」という、評価の「前提となる事実」から争う構えになったわけだ。
 刑事事件に例えるなら、「確かにパンを盗ったけど、あんなにお腹が空いているときに、盗らずにはいられなかった。(そういう行為に出ないという、期待可能性がない。)」と言っていた被告人が、「いや、パンなど盗ってなかった。」と言い出したも同然だ。
 前者は責任の有無を争っているのに対して、後者は犯罪事実そのものを争っているのだから、反省の無さの度合いが大きいこと、この上ない。裁判員なら、どう評価するだろうか。
 萩生田さん、あなたは先の大戦を反省していないということですね?

2 歴史は繰り返す

 かつて、太平洋戦争中、国民学校の歴史の教科書から、「壬申の乱」の記載が抹消されたそうである。
 壬申の乱は、天智天皇(中大兄皇子)の跡目を巡って、大海人皇子(天武天皇。天智天皇の異母弟)と大友皇子(天智天皇の子)が争って、叔父が甥を葬った内乱である。
 大日本帝国憲法下、天皇は「万世一系」の「現人神」であったから、そんな跡目争いなどをするはずがない、そんな記述は「不敬」だと判断されたらしい。
 あほかいな、と思う。
 額田王は、初め、大海人皇子の妻で子ももうけたが、後に、中大兄皇子の後宮に入った。兄弟間の妻争いである。後年、額田王と大海人皇子とは、「あかねさす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る」「紫草の にほへる妹を 憎くあらば 人妻故に 我れ恋ひめやも」という歌を詠み交わしている。
 額田王さん、美人なだけじゃなく、才能豊かやったんやろうねえ。万葉集のええ場面やないか。なんであかんねん。
 政府による歴史の偽造は、今に始まったことではないのだ。

3 日本の伝統文化を歪めた「前歴」

 太平洋戦争中の、あほくさい「不敬」の例は、ほかにもある。
 小倉百人一首の中に、天皇の御詠が3首ある。だいたい1番が先の天智天皇の和歌(「秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ わが衣手は 露にぬれつつ」)なのだが、天皇の姿を描いた絵札を、掌で弾いたり指で押し付けたりするのは畏れ多い、というので、統制されたというのである。
 代わって推奨されたのが、「愛国百人一首」(日本文学報国会編)。「天皇に 仕えまつれと 我が生みし 我がたらちねぞ 尊かりけり」「天皇の 御楯となりし 死なん身の 心は常に 楽しくありけり」…といった調子である。
 母が子を、天皇に仕えさせるために生み育てたとは、バカも休み休み言え、と思う。与謝野晶子でなくても、「大みこころの深ければ もとよりいかで思されむ」と言いたくなる。
 壬申の乱はなかったことにされ、小倉百人一首も統制されたとは、天智天皇の身になったら、とんだ日蔭者扱いではないだろうか。

4 天皇の政治利用は許されない

 天皇制が、賛否両論あるデリケートな問題であることは、もとより承知している。
 「日本国憲法を変えた方がいいか否か」と質問すれば、「天皇制を廃止すべきだから、変えた方がよい」と答える「改憲論者」も存在する。
 しかしながら、今般の自民党改憲案は、天皇制を大日本帝国憲法的に戻すことのみを目指している。「廃止」の改憲案ではない。「廃止」を望む人も、今の局面では、「護憲」に回っていただかなければならない。
 さて、大日本帝国憲法的天皇制に戻すことは、今上様にとって、喜ばしいことなのだろうか。
 「古事記」「日本書紀」は、神話にすぎない。私と同年代の皇太子ご夫妻が、天皇家が、天照大神の孫のニニギノ命(天孫)の子孫だと信じていることはないだろうと推察する。
 元寇の際に吹いた「神風」は、太平洋戦争時には、結局、吹かなかった。日本が神の国でないことは、この一事をもっても明らかなように思う。
 日本の長い歴史の中で、「大日本帝国憲法下の天皇」の方が、異様な存在なのである。欧米列強と競うため、国民を統合するために、無理矢理に権威付けされたからだ。
 大日本帝国憲法への郷愁は、靖国史観と表裏の関係にある。遊就館に行ってみればよくわかる。明治時代以後が、突如として、異様に長い年表が掲げられている。
 山本太郎参議院議員が、園遊会で今上様に手紙を直接手渡したときは、政治利用だ、非常識だ、不敬だとマスコミが大騒ぎした。しかし、政府による天皇制の政治利用こそ、はるかに罪が重い。
 自民党改憲案は、その最たるもののように思われる。

5 私の愛国心

 私は私なりに、日本を、日本文化を愛している。茶道の茶名を持ち、書道も四段で、しばしば歌舞伎や能も観に行く。
 和服を着て座布団に座り扇子を持って…という、落語スタイルで、自民党改憲案を批判する講義もしている(「高座」と呼んでいる)。
 日の丸に正対して君が代を大きな声で歌うか否かで、私の愛国心を測って欲しくない。
 私は、日の丸君が代強制反対の裁判も担当したが、都教委の「日の丸」正当化の根拠も誤りだった。都教委は、日の丸を、「平家物語」以来、国民に定着した旗印だと主張していた。とんでもないことだ。屋島の闘いで、那須与一が射抜いたのは、「みなぐれないに日のいだしたる」、すなわち、紅地に金の丸の扇だったのだ。白地に赤い日の丸ではない。
 白地に赤い日の丸は、せいぜい明治時代から定形化されたにすぎない。
 欺瞞や強制で、愛は生まれない。というより、愛される自信があれば、欺瞞や強制は必要ない。
 政府自民党には、かつての過ちも含めたこの国の歴史を、丸ごと愛する姿勢を求めたい。歴史を都合よくつぎはぎすることは、本当にみっともない。
 「間違ったことなどしたことない。」と誤魔化している人ほど、自分の国に自信を持っていないように感じられるのは、私だけだろうか。

◆飯田美弥子(いいだ みやこ)さんのプロフィール

弁護士。高座名:八法亭みややっこ。水戸一高落研出身。離婚後に、司法試験合格。
ハンセン病国賠訴訟弁護団、京王電鉄バス分社化リストラ争議弁護団、高尾山にトンネルを掘らせない天狗裁判弁護団、再審布川事件弁護団、痴漢えん罪沖田国賠事件弁護団、日の丸君が代強制反対裁判弁護団(市立中学校教師)などに参加。闘う人がいるところ、困難を厭わず一緒に闘っている弁護士である。
その付き合いで、八王子革新懇事務局長、国民救援会三多摩総支部副会長を務める。
司法修習中に茶道を始めたのがきっかけで、掛け軸が読めなかったり、席中で筆で文字を書くことが不得手であったりしたことから、「攻撃は最大の防御」と通信教育でお習字を始め、現在四段。





 
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