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今週の一言

 

『戦争をさせない1000人委員会』発足

2014年4月28日



内田雅敏さん(弁護士・『戦争をさせない1000人委員会』事務局長)



1 日米安保を「憲法上の制限」から解き放つ集団的自衛権行使容認

 「1990年にイラクがクウエートに侵攻した『湾岸危機』の当時、私は外務省条約局長をしていました。日本政府の国際貢献が問われた局面で、内閣法制局の方から、『米軍への飲み水の供給も集団的自衛権の行使であれば憲法違反になる』、といった話が聞こえてきました。私は『この人たちは日米安保条約を否定しようとしている。わが国の安全保障はどうなってしまうのか』と考え込んだものです」(2014年3月25日朝日新聞「耕論 法制局『番人』の未来」)。元外務省条約局長、後、最高裁判事を務めた福田博氏の言である。日本の戦後は、サンフランシスコ講和条約の発効した1952年4月28日から始まると云われるが、サ条約は、日米安全保障条約とセットであった。戦後日本の法体系は、戦争を放棄した日本国憲法と米国との軍事同盟を謳った日米安保条約という、本来相容れない二つの法体系の奇妙な同居であり、後者による前者の空洞化の歴史であった。しかしこの空洞化の歴史の中でどうしても越えることが出来なかったのが、集団的自衛権行使を容認せずという壁であった。
 福田氏の前記発言を読んだとき、日本の外務官僚とっては、憲法の前に、《まず日米安保ありき》だと言われていることを思いだした。集団的自衛権行使を容認せずという壁を乗り越え、自衛隊を海外で展開させ、国連安全保障理事会の常任理事国となること、これが外務官僚の悲願である。他国の戦闘部隊に対し武器弾薬はもちろんのこと糧食、飲料水の提供をすることも、個別的自衛権の行使を超え、集団的自衛権の行使となり、現行憲法上許されないとする前記内閣法制局の見解は、法律家にとってはあまりにも当然なことである。法制局の見解を批判する福田氏の前記発言は、同氏が最高裁判事を務めてもなお外務官僚という出自を乗り越えることができないことを物語っている。
 戦争の放棄(第9条)が、自衛戦力を含めてすべての戦力を放棄する趣旨であったことは、憲法制定議会(第90回、最後の帝国議会)における吉田首相(の当時)の答弁、「これまでの侵略戦争は、すべて自衛の名のもとに行われてきた。この憲法は自衛戦争も放棄している」に明らかであろう。その後、朝鮮戦争を契機とし、警察予備隊が創設され、保安隊を経て、現在の自衛隊にとなるのであるが、自衛隊と憲法の適合性を説明するための「論理」として編み出されたのが、条文上どこにも書かれていない「国家当然の法理」であった。個人に正当防衛の権利があるのと同様、国家にも「当然に」個別的自衛権があるというのである。今、「国家当然の法理」に対する批判はさて措く。条文上の根拠でなく、「国家当然の法理」と云うきわめて便利な「論理」によってその存在を認められた自衛隊の行動について、@ 急迫、不正の侵害があること、A 武力行使以外の他の方法をもってしては対処できないこと、B その対処は必要最小限度の範囲内で行うこと、という制約が課せられたことは当然であった。このような制約を受けることによってかろうじて「合憲性」の体裁を保つことのできた日本の自衛隊が、自国が攻撃されていないにもかかわらず、自国と密接な関係性を有する他国が攻撃された場合に、他国と共同して武力行使するなどということは、どのように理論構成をしても、出てくるものではない。
 冒頭、外務官僚にとっては、憲法の前にまず日米安保だと述べたが、「解釈改憲」により集団的自衛権行使容認となると、文字通り日米安保が憲法より優位に立つことになる。日米安保条約は、第3条 自衛力の維持発展、第4条 事前(随時)協議、第5条 日本国の施政権下にある領域への攻撃に対する共同防衛、第6条 極東の平和と安全のため米軍への基地の貸与、等々とする軍事同盟であるが、第3条、第5条はいずれも、「憲法上の規定に従うことを条件として」という制約が付されている。この憲法上の制約というのは、日本が個別的自衛権は有するものの、集団的自衛権の行使は、できないということから来る制約である。「解釈改憲」による集団的自衛権行使の容認は、日米安保条約を、これまであった「憲法上の規定に従うことを条件として」という制約から解放し、同条約が文字通り憲法を超越した存在 — 外務官僚らの理解と一致 — となることを意味するものである。

2 「戦争をさせない1000人委員会」

 2014年3月4日、参議院議員会館会議室にて、雨宮処凛、内橋克人、大江健三郎、太田昌秀、奥平康弘、小山内美江子、落合恵子、鎌田慧、香山リカ、倉本聡、佐高信、瀬戸内寂聴、高橋哲哉、高良鉄美、田中優子,山口二郎氏らからの発起を受け、憲法学者の青井未帆、放送作家の永六輔、弁護士の伊藤真氏ら108名(4月23日現在)の呼び掛けによる『戦争をさせない1000人委員会』の結成集会が開催された。安倍内閣による憲法破壊、「解釈改憲」による集団的自衛権行使容認の動きなど、この国の国柄が「戦争する国家」へと急速に変えられようとしていることに危機感を抱く各界、各世代の多くの人々が集まった。そして3月20日、日比谷野外音楽堂にて『戦争をさせない1000人委員会』の出発集会が持たれた。寒く、小雨の降るあいにくの天候ではあったが、約5000人の人々が参加し、『1000人委員会』の発起人である大江健三郎氏らの訴えに耳を傾けた。出発集会では以下の点が確認された。

@ 『戦争をさせない1000人委員会』の運動を全国に広め、各地に『戦争をさせない1000人委員会』を創る。なお「1000」と云うのは「多く」という意味である。
A 解釈改憲などの方法による集団的自衛権行使容認に反対する署名活動を展開する。
B 上記署名活動と共に各地にて憲法問題、安全保障問題などの学習会を行う。

 私達は、アジアで2000万人以上、日本で310万人の死者を生み出した、先のアジア・太平洋戦争の「敗北を抱きしめて」(ジョン・ダワー)、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し」(憲法前分)、国民主権、戦争の放棄、基本的人権の保障を三大原理とする日本国憲法を制定して戦後の歩みを始めた。今、その「戦後」が否定されようとしている。「戦後」を生きてきた者の真価が問われる秋(とき)である。

◆内田雅敏(うちだ まさとし)さんのプロフィール

 1945年愛知県生まれ、1975年東京弁護士会登録。現在、日本弁護士連合会憲法委員会委員、関弁連憲法問題連絡協議会委員、東京弁護士会憲法問題協議会委員。
 弁護士としての通常業務の外に、花岡事件(戦時中の中国人強制連行)、香港軍票の問題など戦後補償請求裁判、「西松建設中国人強制連行・強制労働事件」、「日の丸・君が代」処分問題などに取り組む。最近の担当事件としては、立川自衛隊宿舎イラク反戦ビラ入れ一審無罪判決、自衛隊イラク派兵違憲訴訟など。
 主な著書:「弁護士─"法の現場"の仕事人たち」(講談社現代新書)、「『戦後補償』を考える」(講談社現代新書)、「《戦後》の思考─人権・憲法・戦後補償」(れんが書房新社)、「憲法9条の復権」(樹花舎)、「懲戒除名─"非行"弁護士を撃て」(太田出版)、「敗戦の年に生まれて─ヴェトナム反戦世代の現在」(太田出版)、「在日からの手紙」(姜尚中氏との共著・太田出版)、「憲法9条と専守防衛」(箕輪登氏との共著・梨の木舎)、「乗っ取り弁護士」(ちくま文庫)、「これが犯罪?『ビラ配りで逮捕』を考える」(岩波ブックレット)、「靖国には行かない。戦争にも行かない」(梨の木舎)、「靖国問題Q&A」(スペース伽耶)、「半世紀前からの贈物」「戦争が遺したもの」(れんが書房新社)、「ここがロードス島だ、ここで跳べ」(梨の木舎)、『想像力と複眼的思考 —沖縄・戦後補償・植民地未清算・靖國』(スペース伽耶)。





 
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