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「法治国家」口癖の下村文科大臣を法律論で「完敗」に追い込んだ沖縄県と竹富町
 ——安倍政権の横暴を封じた人口4000人の自治体に生きる戦後民主主義!——

2014年5月5日



(写真はレイバーネットから転用)
高嶋伸欣さん(琉球大学名誉教授)



 日本の西端沖縄県のさらに西端の竹富町は星砂やイリオモテヤマネコなどで知られ、国内外からの観光客で賑わっている。その人口わずか4000人の自治体に、政府文部科学省と自民党が安倍晋三総理の意向に合わせて、教科書採択への圧力を加え続けてきた。だが教育への不当な政治的介入に対し、竹富町は敢然と立ち向かい、遂に政府文科省側を「完敗」同然に追い込んだ。「我が世の春」を謳歌しているかに見える第2次安倍政権に明確な挫折感を与えたできごとでもある。
 沖縄県八重山地区(石垣市、竹富町、与那国町)の3自治体の教育委員会は、「教科書無償措置法」が無償給付の対象とするための条件としている地区内同一教科書の採択を、2010年度までは着実に実行していた。現場教員たちに委嘱した調査員による事前の各教科書比較研究報告を尊重したもので、教育関係者から異論は出ていなかった。それが2011年度の中学社会科公民分野用の採択では、紛糾した。石垣市と与那国町は調査員の報告では問題点だらけとされた育鵬社版を、竹富町は報告で評価の高い東京書籍版を選び、物別れとなった。3教委による採択のための協議会では多数決によって育鵬社版を採択するとされた。だが、その結論自体には法的拘束力がないと、文科省自身が以前から認めていた。それは、「地方教育行政法」の第23条(教育委員会の職務権限)の「6 教科書その他の教材の取り扱いに関すること」のみを根拠に、"個々の教委に採択の権限がある"との解釈を、半世紀以上に渡って押し通してきたためでもあった。この2つの採択関連の法律の規定は明らかに矛盾している。しかしこれまでは、同一教科書にしなければ無償給与にされないという「脅し」に少数派が屈し、問題点が表面化することはなかった。
 八重山地区でも、民主党野田政権に野党自民党の安倍晋三氏たち教科書議連が強く迫り、同様の「脅し」を加えさせた。中川正春文科大臣は石垣市と与那国町の育鵬社分は無償の対象とし、竹富町の東京書籍分は対象としない、と2011年10月に決定した。だが、竹富町教委は全く揺るがなかった。「無償措置法の規定に照らしても不公正な決定であるし、地教行法による我々の採択の合法性を中川大臣も認めている」「正義は我にあり!」との信念を堅持し、安倍政権になってもあらゆる圧力をはねのけてきた。この3年間、竹富町では住民の篤志家が内外からの寄付で購入した東京書籍版の教科書現物の寄付を教委が受けて生徒に配り、学習は平穏裡に行われている。
 根本法である「教科書無償法」の第1条「義務教育諸学校の教科書は無償とする」規定に反した事態を出現されたことで、文科省は窮地に立たされた。原因が、自民党長期政権下で制度の矛盾点を放置してきたことにあるのは明らかだった。だが、責任の転嫁を図る下村博文・文科大臣は、「無理筋の手法です」との事務方の意見を無視し、「地方自治法」による「是正要求」という"禁じ手"まで繰り出したが、沖縄県教委と竹富町教委に受け流されてしまっている。
 万策尽きた自民党と文科大臣は「無償措置法」改正案を今国会に急きょ上程して、成立させた。新たに加えた「採択地区協議会における協議の結果に基づき」同一教科書を採択しなければならないとの規定で、協議結果への拘束力が強化されたという。しかし法律用語としての「基づく」は「議に付し」より拘束力は強いが「議により」には及ばないとされている(『有斐閣法律用語辞典・第4版』2012年)。さらに下村大臣は当初、地方自治法にある自治体間の協議会で拘束力の最も強い「管理執行協議会」に採択協議会が該当するとの改正案を作成し、省内の審議会にもほぼ同意を得ていたのだった。だが、この目論見も法制局の不同意よって挫折したという。その結果、外見上は拘束力を強化したように見せているだけの「改正」でお茶を濁したのだった。
 もともと、改正案を上程したという事実によって、混乱の責任は法律の不備を長年放置してきた側にあると、「法治国家」を口癖とする下村大臣がついに認めたことを意味している。しかも、改正された条文はこけおどしの意味でしかない。それを簡単に見破られるような、不出来なものだ。安倍首相や下村大臣大臣たちによって、日本をごまかしの法規を振りかざす「法恥国家」に変られようとしている。これが「愛国心」育成を教育に強要する人々の実態なのだ。
 下村大臣は、「次には違法確認訴訟を考慮している」などと、なお虚勢を張っている。仮に提訴しても実効性がなく、法廷での論争で恥をかくのは確実だ。八重山教科書問題は、すでに安倍政権側が「完敗」の状況にある。さらに、文科省の官僚は、「地教行法」23条の「6 教科書その他の教材の取り扱いに関すること」との規定から「個々の教委に採択の権限がある」とした拡大解釈の無理押しに議論が及びかけていることに、おびえている。そこには「将来的には学校単位の採択の実現に向けて検討していく必要がある」との1997年の閣議決定を無視し続けてきた事実がある。竹富町への政治的介入失敗で、安倍政権はさらなる不都合な事態を招き寄せているのだ。
 また問題をこじれさせた原因の一つは、安倍氏に近い義家弘介議員などが竹富町を呑んでかかり、抵抗力を見誤った点にある。竹富町を含む八重山地域には、沖縄戦で中野学校出身の諜報員がマラリヤ蔓延の地への疎開を強要して多数の住民を死に追いやりながら、本人は復員したという歴史がある。4月28日は沖縄を切り捨てて独立をした日と気付かない安倍首相と同様に、歴史に学ばない権力者による教育内容への介入は、今後も激しい抵抗に全国で直面することだろう。

◆高嶋伸欣(たかしま のぶよし)さんのプロフィール

 1942年東京生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)修士課程修了後、同大学付属高校に社会科担当教諭で28年間勤務。1996年に琉球大学教育学部に異動し2008年定年退官。高校「地理」「現代社会」教科書執筆に参加。1993年に検定で原稿却下を不当として「高嶋(横浜)教科書裁判」を提訴。教材研究でのため東南アジアでの日本軍による住民虐殺について1975年以後、現地調査を続けている。





 
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