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国民投票法の改正の意味と問題点

2014年5月12日



木藤伸一朗さん(京都学園大学教授・京都憲法会議事務局長)


 4月8日、自民、公明、民主、日本維新の会、みんなの党、結いの党、生活の党の7党は、日本国憲法の改正手続に関する法律(以下、国民投票法)の改正案を衆議院に提出した。法案は5月8日の憲法審査会で採決され、9日に衆議院を通過する見込みで、6月22日の通常国会会期末までに成立するとみられている。
 改正案は、以下の3つの部分からなる。@国民投票年齢を法施行4年後に「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げると規定し、選挙権年齢や成人年齢については附則で「改正法施行後速やかに必要な法制上の措置を講ずる。A公務員は、国会が憲法改正を発議した日から国民投票の期日までの間、国民投票運動(憲法改正案に対し賛成又は反対の投票をし又はしないよう勧誘する行為をいう。以下同じ。)及び憲法改正に関する意見の表明をすることができる。公務員の政治的中立性及び公務の公正性を確保する等の観点から、国民投票運動に関し、組織により行われる勧誘運動、署名運動及び示威運動の公務員による企画、主宰及び指導並びにこれらに類する行為に対する規制の在り方について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする。B憲法改正を要する問題及び憲法改正の対象となり得る問題についての国民投票制度に関し、その意義及び必要性について、日本国憲法の採用する間接民主制との整合性の確保その他の観点から更に検討を加え、必要な措置を講ずるものとする。
 第1次安倍内閣の2007年5月18日に公布された国民投票法は、2010年の施行までに、投票年齢、公務員の政治的行為の制限、国民投票の対象拡大について必要な法制上の措置をとることを附則で規定しており、これがいわゆる「3つの宿題」といわれてきたが、これにとりあえず対応するための改正が今回のものである。
 さらに政党間の合意で、改正法施行後2年以内に選挙年齢引き下げの検討チームを設置する、公務員や教職員が地位を利用した際の罰則の是非は今後の検討課題とする、国民投票の対象拡大も憲法審査会で議論するとしているが、選挙年齢や公務員の国民投票運動規制については共同提案した各党に大きな隔たりがあり、今回も結論を先送りにした感がある。国会で中身について議論もせずに、今後の「法制上の措置」に委ねるというやり方は議会の任務を放棄したものともいえる。何が何でも改憲への地ならしをしたいという意向だけが露骨に見え、さらに共産党、社会党以外の与野党の共同提案という手法は将来の明文改憲への協力を得ようとする布石とも考えられる。
 2012年末に発足した第2次安倍政権は、明文改憲をめざし、まずは改正手続条項である96条改憲論を打ち出した。自民党は2012年4月に改憲草案を発表したが、改正発議のためには宿題を片付けなければならないとの認識で2013年秋には自民党憲法改正推進本部で国民投票法改正案の議論をし、公明党と調整したが臨時国会での法案提出には至らなかった。
安倍政権は発足直後に「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)を再開させ、秋からは「安全保障と防衛力に関する懇談会」(安防懇)と共に安全保障政策の大転換をめざし、2013年12月17日に国家安全保障戦略、防衛計画大綱、中期防衛力整備計画を閣議決定した。さらに、特定秘密保護法を強硬採決し、武器輸出三原則を廃止して、防衛装備移転三原則を決定した。
 日米首脳会談と首相のヨーロッパ歴訪、石破幹事長の訪米を経て、集団的自衛権の行使についての安保法制懇の報告書がまもなく提出される予定で、小松一郎法制局長官のもとで政府解釈の素案がすでに作成されているとの報道もある。年末の日米ガイドライン改定に向けて、政府解釈の変更の閣議決定、秋の臨時国会での関連法案の成立を目指すというのが政権の工程表である。
 このような急ピッチの動きに対し、国民は大きな危惧をいだいている。今年の憲法記念日の世論調査によると「『憲法を改正する必要があると思う』と答えた人は28%で、1年前の調査より14ポイント減った一方で、『改正する必要はないと思う』と答えた人は10ポイント増えて26%となり、憲法改正が『必要』と『必要でない』という人の割合がほぼ同じとなったことが分かりました。一方、憲法9条については、『改正する必要はないと思う』と答えた人が38%で、『改正する必要があると思う』と答えた人より多くなりました。」(NHK)、「憲法9条を『改正すべきだと思わない』との回答は51%と半数を超え、『思う』の36%を15ポイント上回った。昨年4月の調査では、同じ質問に対し『思う』46%、『思わない』37%だった。安倍晋三首相が改憲ではなく憲法解釈変更によって集団的自衛権の行使を認めようとしていることも影響したとみられる。」(毎日新聞)となっており、憲法改正、特に9条改正については、安倍首相の意向とは反対の方向に大きく変化している。
 解釈改憲、立法改憲、明文改憲をめざす安倍政権は、公明党や一部の野党との協力・調整のためだけに奔走しており、国民から目をそらし、まさに憲法を破壊するという意味での壊憲内閣となっている。(2014年5月7日脱稿)

◆木藤伸一朗さんのプロフィール

木藤伸一朗。1956年大分県生まれ。立命館大学大学院法学研究科修了。京都学園大学法学部教授。京都憲法会議事務局長。
最近の著書に、京都憲法会議監修 木藤伸一朗・倉田原志・奥野恒久編『憲法「改正」の論点 憲法原理から問い直す』(2014年、法律文化社)





 
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