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今週の一言

 

一票の格差訴訟の最高裁口頭弁論を傍聴して

2014年11月10日



横井幸夫さん(一人一票実現国民会議運営委員)

 

 私は親から「刃傷沙汰」を起こさず、「裁判沙汰」に関わらないように言われてきた。幸い、私は刃傷沙汰を起こさず40年間の会社員生活を全うし定年を迎えることができた。しかし、親の意に反して私はいま「裁判沙汰」に関わることになった。私は定年退職後に一人一票実現国民会議の理念に共鳴し、2010年にこの国民会議の活動に加わった。この国民会議が一票の格差解消のために選挙無効訴訟を起こしたので、その裁判の支援にも加わることになったためだ。私はいままで選挙無効訴訟の最高裁の口頭弁論2回、判決言い渡し2回の傍聴をしている。私は2014年10月29日に開かれた平成25年度参議院選無効訴訟の上告審の最高裁口頭弁論を傍聴した。

 この日に予定されていた原告側弁論の時間配分は升永英俊弁護士が52分、久保利英明弁護士が7分、伊藤真弁護士が7分、原告の鶴本圭子さんが3分。これに対し被告(国)側代理人の弁論が5分あった。原告側の弁論は論旨明解にして、語気に勢いが有った。被告側の弁論は原稿の棒読みに終始し、語気に勢いが無かった。前者が自らの信念と意志に基づく主張を述べ、後者が与えられた結論を言わされているという違いがあるのだろう。弁論内容の優劣は歴然としていた。最高裁判所が被告側を勝たせるためには、判決内容に説得力が有るか無いかは別としてそれなりの知恵と工夫が必要となるだろう。

 原告側の主役は52分に及ぶ弁論を行った升永弁護士だった。理路整然とした弁論の内容にはメリハリがあり、時には語気に力が入ることもあり、極めて説得力があったと私は感じた。また弁論は予定時間きっかりと終わった。無駄な語句は無く、話は冗長に流れず、52分が短いと私は感じた。聴く人を眠らせない弁論であった。事実、最高裁裁判官15人の中に眠って聴いていた裁判官は見当らなかった。過去には原告側の弁論中に眠っていると思われる裁判官、眠っているのではなく目を閉じて聴いていたのかもしれないが、もいたのである。

 江戸時代末期の儒学者・佐藤 一斎(1772〜1859)は「言志後録」177条で「実言は芻蕘(すうじょう)の陋(ろう)と雖も、以て者を動かすに足る。虚言は能弁の士と雖も、人を感ずるに足らず」と言った。「真実の言葉は身分の低い人の言葉でも、聴く人を感動させる。偽りの言葉は能弁な人の言葉でも、聴く人を感動させることはできない。」という意味である。まさに升永弁護士は真実の言葉(実言)で語った。私は升永弁護士の真実の言葉による訴えは15人の裁判官の心に届いたであろうと思う。木や石には感情が無いが、人には感情があるからだ。

升永英俊弁護士の言葉から。

 『当法廷が、憲法56条2項、1条、前文第1文の3つの定めは、人口比例選挙を要請していると判決すれば、その判決は国会議員主権国家を国民主権国家に変える歴史を創る判決である。他方で、当大法廷が憲法56条2項、1条、前文第1文の定めの文理解訳をすることなく、憲法は、人口比例選挙を要請していないとの従来の大法廷判決の判断枠組みを踏襲する判決を言い渡すなら、その判決は、日本を憲法どおりの国民主権国家にすることを許さなかった悪い判決として、歴史に記録されることになろう。

 天動説を是とし、地動説を否定したガリレオ判決は、1633年に下された。381年経た現在でも、ガリレオ判決は悪い判決として、歴史になり、人々は忘れていない。天動説は、紀元前4世紀にアリストテレスによって唱えられ、17世紀まで2100年間、ヨーロッパを支配した。

 ガリレオ裁判の裁判官は、地動説の存在を知ったうえで、地動説を誤りとし、天動説を正しいと判決した。そして同裁判官が、そのガリレオ判決を下した事実は、歴史となっている。

 昭和51年から平成23年までの間、日本では、誰一人、仮に憲法43条2項、47条に基づいて、憲法に定める国会議員が投票価値の平等を調整するための立法裁量権が有するとしても、同国会議員が、最高裁が違憲状態と判断済みの選挙で選ばれた人、すなわち憲法98条第1項に基づく国政の無資格者である、という驚くべき論点を知らなかった。
しかし、今は、違う。選挙人は、@最高裁の判断済みの違憲状態の選挙で当選した人は憲法98条1項に基づき、国政の無資格者である。Aかかる国政の無資格者は、憲法43条2項、47条に基づいて立法裁量権を有しない。B昭和51年の大法廷判決の判断の枠組みは、違憲・無効の大判例である。例えて言えば天動説であると、明確に本法廷で主張している。』

 日本社会では日々のもめごと、争いは当事者同士が穏便に話し合い解決するか、またはその筋の偉い人間に入ってもらい解決する傾向があるだろう。もめごとを裁判に訴えることは人間の情に反することであり、安寧に保たれた世間に波風を立てる行為とみなされる。訴訟は訴えの正当性、妥当性を論ずるまえに裁判に訴えた人間の人格が疑われることもある。わが国では裁判に巻きこまれずに一生を過ごすことが理想的な人生と言えるだろう。

 しかし、もめごと、争いを話し合って決着させることが適切な場合もあるだろうし、裁判で決着させることが適切な場合もあるだろう。前者は争いの穏便な解決となるが、事の本質は明らかになりにくい。後者は争いの争点を浮き立たせ、事の本質に迫る。争いを話し合いで決着をつける方が望ましいのは日本だけではなく他国でも同様だろう。
 争いの当事者同士が対等である場合には話し合いによる解決が比較的容易と言えるだろう。しかし、当事者の力関係に大きな違いがある場合には、弱い立場の者が強い立場の者を裁判に訴えることはよくみられる。患者と病院との争い、従業員と企業との争い、個人と行政(市町村から国まで)との争いなどなど。

 投票価値における一票の格差は正義に反すると升永英俊という一人の弁護士が気づいた。そこで賛同者を集め「一人一票実現国民会議」を立ち上げた。為政者が一番喜ぶのは人々が何をしても政治は変わらないとあきらめることだ。人々が何もしなければ政治は変えられないし、変わらない、しかし、一人でも政治を変えたいと行動を起こせば政治を変えられる可能性が出てくるだろう。いつの時代、どこの国でも社会、政治の変化、変革の初めの一歩は小さな行動から始まる。
 この正義に反する状態は長く続き、この間に国(国会)は本質的な解決策を取らなかった。そこでこの国民会議は一票の格差解消のための啓蒙活動(主に新聞での意見広告)を行い、また選挙無効の訴訟をおこした。個人と国(国会)との力関係の差は大きい。しからば司法にその決着を求めるのは自然の成り行きと言えるだろう。最高裁判所には憲法価値の是非を判断する最後の砦としての責務があるからだ。

 今回の弁論に対する最高裁判所の判決言い渡しは、慣例に従えば1か月後くらいになるだろう。原告側が勝つ場合の判決文は中学生でわかる理屈で書かれるだろう。被告側が勝つ場合の判決文は法律の専門家しか理解できない難解な法理、理屈で埋め尽くされているだろう。私は中学生にでも理解できる判決が下ることを心から望むのである。

◆横井幸夫(よこい ゆきお)さんのプロフイール

1948年生まれ。1972〜2009年まで東レ株式会社勤務。この間、北京駐在4年、上海駐在4年。2009年に定年退職後は国際政治(日中関係)を研究。現在、国際アジア共同体学会(会長・進藤榮一筑波大学名誉教授)理事。2010年に一人一票実現国民会議の運営委員に加わる。





 
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