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今週の一言

 

労働者派遣法改正案・被害者は誰か?

2014年11月17日



嶋風ハさん(弁護士・日本労働弁護団常任幹事)

 

1 はじめに

 2014年9月に始まった第187回国会(臨時国会)で、労働者派遣法改正法案が提出され審議されていました(なお、本稿執筆時点で、衆議院解散が既定路線となり、労働者派遣法改正法案の廃案がほぼ確定しています)。
 この労働者派遣法改正案は、一言で言えば、世界に例を見ない「悪法」です。労働者の不安定且つ劣悪な労働条件を固定化するという労働問題の側面を超え、既に4割近い非正規労働をさらに増加させ(派遣は非正規労働の、いわば「王様」です)、格差貧困の拡大と固定化し、わが国の少子高齢化をさらに促進するなど社会的にも有害な法改正なのです。

2 派遣が「例外」でなければならない理由

 今回の派遣法改正案の問題点の核心は、これまでは、派遣の利用が臨時的、一時的なもの(ざっくり説明すれば派遣の利用は「例外」であるということ)であったという原則を事実上放棄して、派遣の自由化を認めていることです。
 これまで派遣という働き方が「例外」的とされ、臨時的、一時的な利用に限られているのは、派遣労働という働き方が抱える根本的な問題によります。
 派遣労働者の労働契約は、実際に労働力を提供し業務命令を受けている会社(「派遣先」と言います)ではなく、派遣元会社との間で結ばれています。 
 通常の労働者は、労働契約を結んだ会社と、労務の提供先は一致しています。ですが、派遣では、これが分離しているのです。ですから、派遣労働者は、日々労働力を提供し、仕事に関して業務命令を受けている会社(派遣先)との間には、契約関係がないのです。
 普通の労働者は、解雇については、厳しい法的規制があります(労働契約法16条など)。
 しかしながら、派遣の場合は、派遣労働者を事実上自由に解雇できてしまいます。派遣先は、派遣労働者を「不要」と考えれば、派遣会社と派遣先との契約(労働者派遣契約といいます)は、一般の「解雇」場合の様な法規制に服さずに、自由に解雇できるのです。リーマン・ショックの後に、多くの派遣労働者が職を失ったのは、このように派遣労働が、派遣先の都合で自由に解雇される働き方であるのが原因です。
 しかも、自由に解雇される不安定さだけでなく、一般的には正社員と比べて派遣は待遇も劣悪です。派遣労働者は、賞与無し・退職金無し、さらには交通費すら支給されないケースも多いです。
 さらに、派遣労働者は、「派遣」という待遇の格差から、職場でセクハラ・パワハラなど被害にあいやすく、「解雇」をおそれて被害申告もし辛く泣き寝入りさせられやすいといった問題もあります。
 基本的に、派遣労働という働き方について、労働者の側には何らメリットはないのです。

3 改正法の問題

 派遣法改正によって、有期雇用派遣については、「同一の組織単位」における同一の派遣労働者の派遣受入期間の上限を3年としていますが、派遣先が3年ごとに過半数労働組合等の意見聴取さえ行えば(反対していても、意見を聴取しさえすれば良いのがポイント)同一の事業所において、引続き派遣労働を利用できるとされています。要するに、派遣先は、派遣労働者を入れ替えることにより、永久に派遣労働を利用できる制度となっています。
 これでは、派遣の利用が許されれば、臨時的・一時的であるという原則は、中身を伴わないものとなってしまい、派遣労働が自由化されるに等しいのです。
 この法案が成立すれば、これまで正社員が担っていた仕事を、派遣労働へと置換えが進むのは明らかです。
 例えば、派遣法改正岩の廃案に関する、2014年11月13日の日本経済新聞電子版では、以下の様にと報じられています。
「今国会での労働者派遣法改正案の成立が事実上なくなったことで、人材派遣会社や、派遣社員を受け入れる企業の間では「非常に残念」との声が広がった。改正法案が成立すれば、派遣社員の受け入れ期間の制限が事実上撤廃され、企業の導入が増え市場が拡大するとみられていたためだ。」

4 派遣法改正・被害者は派遣労働者だけ?

 このように、問題のある派遣という働き方を増大させる派遣法改正ですが、まだまだ多くの方は、他人事のように受け止めているのではないかと思います。
 ですが、現在正社員で働いている方も、派遣労働が実質自由化されるこの改正がなされたら、自分の仕事が派遣労働者に置き換えられるかもしれません。大切なご自分の家族が派遣労働しか選択肢がなくなるかもしれません。
 さらには、社会全体が、今以上に格差貧困の拡大と固定化します。現状でも非正規労働の非違率が高い若者がさらに派遣に追いやられ固定化し、わが国の少子高齢化もさらに促進します(少子化の大きな原因は、「経済的な困窮」にあります)。これでは、日本社会全体から活力が失われ、日本経済の健全な長期的発展には何らメリットはありません
 この改正が実現して、最も利益を得るのは、言うまでも無く派遣会社です。だからこそ、竹中平蔵氏(人材派遣会社大手・パソナグループ会長)も、政府に規制緩和を求め、派遣法改正を推進しようと躍起になっています。
 皆さんは、派遣会社の利益のために、格差や貧困の固定化し、活力を失った日本社会の未来を希望するのでしょうか?
 一人でも多くの方に、派遣法改正の被害者は派遣労働者ではなこと、日本で暮らす殆どの方が実は派遣法改正により被害を受けることを、理解していただきたいと思います。

◆嶋風ハ(しまさき ちから)さんのプロフィール

神奈川総合法律事務所所属。日本労働弁護団常任幹事、ブラック企業対策プロジェクト事務局長、反貧困ネットワーク神奈川幹事など。労働問題全般、特に近時はブラック企業被害対策やワークルール教育法推進、貧困問題対策などの活動を行っている。共著に「ブラック企業のない社会へ」(岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)、「企業の募集要項、見ていますか?−こんな記載には要注意!−」(ブラック企業対策プロジェクト)、「働く人のためのブラック企業被害対策Q&A」(LABO)など。
Twitter  @shima_chikara





 
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