法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

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日本国憲法との出会い
平和活動を通して学んだこと、憲法教育について思うこと

2014年11月24日



白神優理子さん(弁護士)

 

———白神さんは高校生平和ゼミナールの活動などを通して学んだ憲法のことを、いまいろいろな場で発信されています。今日は白神さんのその問題意識をお聞きしたいと思います。
白神さんは高校生になって平和ゼミナールの活動に参加したのですね。
(白神さん)
 はい。高校生平和ゼミナールというのは、高校生が被爆者や戦争体験者の方のお話を聞いたり、平和の問題や現代の社会問題について調べたり話し合ったりするところで、高校の先輩に誘われて参加するようになりました。
 私は、被爆者や元兵士、元日本軍「慰安婦」の方々などのお話を直接聞いて、戦争では人間がここまで残虐なこと、醜いことをするんだということに衝撃を受けました。4人に1人が戦争で殺されてしまった沖縄戦については、「日本軍の兵士が、鬼畜米英に捕まるのは天皇への恥だから、自決しなさいと手榴弾を配った」というお話を聞きました。「従軍慰安婦」の方からは、日本軍に毎日レイプされ、殴られたという体験を聴きました。被爆者の方は「結婚の約束をした方からは被爆者の血を家系に入れたくないと言われ婚約を破棄された。今でもいつ放射能の影響で死んでしまうのではないかという恐怖に怯え、毎日悪夢を見ている」と涙を流しながら話してくれました。
 戦争は命を奪い、さらに生き残った方の人生も奪い、何もかも奪ってしまうこと。第二次世界大戦では「天皇が神様だ」と教え、人を殺人マシーンに変えていったということを知りました。
 そして、お話してくださった方々から言われて印象的だったのが、「あなたたち高校生がこれからの社会を作る主人公。私たちの希望です。」ということと、「日本国憲法を生かして欲しい」ということでした。
 私はそれまで、法律って学校の校則と同じように私たちを縛るものだと思っていました。しかし、憲法はその反対で、国や軍隊が暴走してまた戦争を繰り返さないように、平和や人々の人権を守るために国家権力を縛るものなんだということを知りました。
 とても感動しました。私は高校までは、人間は過ちを繰り返すもので戦争をなくすことなんてできないと諦めていたんですが、日本国憲法という戦争で苦しむ人を生み出さないための「国民が主人公のシステム」を発明したんだということがわかり、「人間ってすごいんだな」と思ったんです。
 「戦争放棄」「立憲主義=国民が主人公。権力の手を縛ろう」という日本国憲法のシステムは、人間の歴史が前に進んでいるんだということを証明してくれていると思います。だから、憲法は若者にとって「希望」になる、どんどん広げたいと思うようになりました。

———高校時代、学校でも憲法を学びましたよね。
(白神さん)
 私が通った高校は平和教育にも熱心で、沖縄の米軍基地などにも行き、その実態を調べたりしました。印象的だったのは、ランチトークをした米兵に、「どうして軍隊に入ったんですか?」と聞くと、「大学に行かせてもらえるから」という回答がとても多かったことです。現地に行って、直接話をすることの大切さを学びました。
 授業では、先生が生徒どうしの議論を大事にしていて、私も他の生徒のいろいろな意見に触発されました。

———白神さんはいつ頃から平和問題に関心を持たれたのでしょうか。
(白神さん)
 私の実家は神奈川県の海老名市にあり、厚木基地や座間キャンプが近くにあるので、米兵に話しかけられたり、戦闘機が真上を飛ぶ爆音でしゃがみこんだりなど怖い思いをして、「なぜ日本に外国の軍隊があるんだろう?」と疑問を感じていました。そんな時に沖縄で米海兵隊員による少女暴行事件があり、このことがキッカケとなり平和の問題に関心を持つようになりました。

———そのようなご経験をふまえての白神さんのご意見を伺いたいと思います。
 高校生の中には、「自分勝手、わがままはいけない」という感覚から憲法上の権利も責任を伴うのが当然だとか、社会権についても、たとえば生活保護の問題では、「働かない者に国民の血税から保護費を支給する必要などない」という感覚を持つ人もいるように思いますが、白神さんは、このような権利をどのように伝えていったらよいと思いますか。
(白神さん)
 自由や権利の重要性については、それに関わる具体的な歴史を示しながら伝えることが大切だと思います。
 なぜ、第二次世界大戦では罪のないたくさんの人を日本軍が殺害するに至ってしまったのか?について平和活動を通し学びました。戦争に反対していた多くの人たちが拷問されてしまったこと、戦争の真実を伝える新聞や集会が禁止されていたこと、「天皇は神様」だと教え込まれて「天皇もおしっこするの?」と聞いた小学生が殴られたりしたという衝撃的なことを聞き、自由や権利が縛られることで戦争に繋がるということを実感しました。
 そういうリアルな歴史的事実を知って、私自身はじめて「自由や権利というのはワガママではなく、血みどろの歴史の中で勝ち取られたもの。簡単に制限するのは危険なんだ。」と思うようになりました。
 だから、日本国憲法の「文字」を教えるのではなく、戦争のリアルさ、そしてその反省から日本国憲法に自由や権利、そして13条の「個人の尊重」が定められたのだということを伝えることが大事だと思います。
 社会権については、生活保護を受けている人たちの圧倒的多数が悲惨な生活を余儀なくされている、その具体的でリアルな実態を知ってもらうことと、そして社会権についてもその歴史を伝えることが大切です。人類は近代憲法で自由権を確立したけれども、自由権の保障だけでは貧富の差が拡大していくことになり、そこで人々が社会権というものを勝ち取ってきた、そういう歴史をリアルに伝えていくことが大事ではないかと思います。
 いま、私の事務所では「たたかう社会保障」と銘打って貧富の格差で苦しむ人たちの権利を勝ち取るための取り組みをしています。私自身、弁護士になってすぐに市役所に何度も追い返された方の相談を受けて、遺族年金受給を勝ち取りました。このように、泣き寝入りせずに立ち上がっている人たちがいるということを伝えていきたいと考えています。

———適正手続きはどうでしょうか。メディアの影響もあるのかもしれませんが高校生の中には、治安を守る為には多少の犠牲もやむを得ないというような感覚もあるようです。民主主義についても少数意見との調整のために政治が進まないより、強いリーダーがいて、多数派が迅速に決断するのが良いとの感覚もあるようですが。
(白神さん)
 これもやはり、日本国憲法が刑事手続きについてなぜ詳細な規定を設けたのかという、その歴史を伝えることが重要だと思います。戦前・戦中に、戦争や国の政策に反対する多くの人々が国家権力によって弾圧されたことをリアルに知らせていくことが大事だと思います。
 民主政治のしくみに関しても、戦前・戦中の天皇中心の独裁的な政治体制のことやドイツでのヒトラー政権のもとで、政府に対する反対意見がどのように弾圧されたのかをきちんと伝えることが重要だと思います。私自身もそういうことを学ぶ中で、権力の暴走を防ぐ諸規定が日本国憲法に盛り込まれることになったこととその意義を理解できるようになったと思います。
 ガンジーの有名な言葉で「良きことはカタツムリのようにゆっくり進む」というものがあります。「民主主義って、面倒くさい。だけど、そこに価値がある。」ということですよね。人類が選び取ってきたこのシステムの価値は、歴史をリアルに学ぶ中で私自身少しずつわかってきたことです。
 ですので、憲法の考え方を伝えていく上で、こんにちの憲法がつくられるに至った歴史を語ることが大事だと強く言いたいです。

———今の若者の現状として、むしろ日本の歴史に誇りを持ちたいという風潮が一部に生まれていますよね。どう思われますか。
(白神さん)
 侵略戦争の事実を隠すことは決して「誇り」に繋がらないと思います。それはむしろ、再び戦争を起こしてお金儲けをしようとする勢力に利用されることに繋がってしまう危険な風潮です。
 私は、日本が起こした歴史上の過ちを知ったこと、その上で日本国憲法という画期的なシステムを作り上げた歴史を知ったことで、むしろ人間の歴史に「誇り」を持つことができました。
 いま若者が学校で、そして就職や職場で競争を強いられ、多くの若者が非正規労働者になっていき、厳しい生活を余儀なくされています。追い詰められる中で、自分の存在価値を国家と一体のものとして見出そうとしているのではないかと思います。したがって若者たちに憲法の考え方を広げていくためには、これからの社会を担う若者が自分に自信をもてるように、今日の教育政策や労働政策も変えていく必要があると考えています。

———高校生たちに憲法のことを広げていく上で、白神さんはほかにもいろいろと問題意識を持っておられますよね。
(白神さん)
 私は、憲法についての理解を広げるためには、憲法というものは決して所与のものではなく、人類の歴史の中で発展してきたものである、それは動的なものである、ということを伝えていくことが大事だと思っています。日本国憲法を生み出した発展の歴史を学ぶことによって、人間って素晴らしいんだという人間に対する信頼や希望が生まれ、自分に自信がもてるようにもなるのです。
 私は高校生平和ゼミで「歴史のリレーランナー」という言葉を知りました。金八先生のモデルの一人である三上満さんの言葉です。
 前の世代から渡されたバトンに、自分の経験や想いをプラスし、次の世代にバトンタッチすることで歴史が前に進んでいくというものです。私は、憲法こそ前の世代から渡された大切なバトンであるということを若い人たちに伝えていきたいです。
 さらに、高校生たちには、自由や人権を守り、誰もが人間らしい生活ができるように頑張っている大人、平和のために頑張っている大人に出会ってほしいと思っています。私は高校時代、そういう多くの方々に接することで、自分なりの考え方を磨いてくることができました。

———ありがとうございました。このたび当研究所の伊藤真所長が『10代の憲法な毎日』という本を出版し、多くの方々とともに、高校生たちに憲法のことをもっともっと知ってもらうことにしています。白神さんのご経験とご意見はそのために参考になることばかりです。今後ともよろしくお願いします。

◆白神優理子(しらが ゆりこ)さんのプロフィール

八王子合同法律事務所弁護士。神奈川県海老名市生まれ。立命館大学卒業。中央大学法科大学院に進む。2012年司法試験合格。修習地は沖縄を選び、2014年より八王子合同法律事務所所属弁護士として活動中。


<法学館憲法研究所事務局から>
 以前当ページで沖村民雄さんに東京高校生平和ゼミナールのことを語っていただいています。ご案内します。こちら




 
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