法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

今週の一言

 

高校生などに憲法の何をどう伝えるか

2014年12月1日



稲次寛さん(兵庫県高等学校教員)

 

 憲法教育が大きな曲がり角にきています。憲法改正の動き(明文改憲や解釈改憲など)が現実味をおびてきたからこそ、もう一度憲法教育について、憲法の何をどう伝えればいいのか、ということについて現在考えていることをまとめてみたいと思います。
 高校で学んで大学生になると、憲法について何が残っているかというと、「憲法の条文」しか残っていません。「憲法とは何か?」「憲法とはどのようなものなのか?」に迫る実践ができていなかったように思えてならないのです。考えるべき課題をあげておきましょう。
1:憲法の条文が、自分たちの生活に結びついていること
2:他人事でない自分の憲法意識を身につけさせたい
3:人生に憲法が関わっていることを実感させたい
4:憲法の条文ではなく、「憲法の理念」を学んで欲しい
 次に憲法を学ぶ方法の問題です。
@生徒の疑問や実態から出発する
(事前の意識調査を大切にする)
A具体的な問題を知り理解する
(リアルタイムな問題、意見が対立する問題を取り上げる)
B問題の原因を探る
(歴史的な学習が必要になる)
C解決する方法を探る
(ここで憲法の条文にあたる)
(他者の意見や考え方を学ぶ)
D自分の意見をもつ→意見表明する
 →討論する→自分の意見を深める
E表現活動・創作活動を取り入れる
(自分の言葉で憲法の条文を表現する)

1.具体的な憲法教育は?

 学びの対象は、高校生だけに限らず、青年教職員も含めてどのように働きかけるのか?が問われています。次の三つの課題がどうクリアーするのかが今の課題ではないでしょうか。@戦争体験者がいなくなる世代に、どう戦争を語り継いでいくのか。A日本国憲法の何を若い世代にバトンタッチしていくのか。B歴史学習と一体化した憲法教育をどう構築していくのか。そこで私の考えている実践をあげておきましょう。
1.イラク戦争を中心に、日本国憲法が守り続けてきたものは何かを問う
2.集団的自衛権の行使を容認する「閣議決定」について
3.日本の未来予想図を〜自民党の憲法草案を吟味する

2.実践例 
 
(1)戦後の歴史から日本国憲法が守り続けてきたものを考える実践

1)戦後の歴史を振り返り、日本が戦争に参加しなかったのはどうしてか?
 @日本国憲法があったから A国際的に日本が信頼されていたから B自衛隊があったから C日米安保体制があったから Dその他 E分からない という選択肢から選んで理由を書いてもらうことから始めよう。高校生は、意外にもCを選択するものが多いのも事実です。ここでは、戦後70年近く日本が戦争に参加しなかった事実、一人も殺し殺されていないことをおさえたい。日本は「戦争しない国」「平和な国」というブランドを守り続けてきました。この事実を歴史的に振り返って、どうして「戦争する国」にならなかったのか、考えたいです。

2)戦後の歴史を振り返る
 歴史的事実の確認を行いましょう。@自衛隊の発足 A憲法と自衛隊の関係を政府はどう解釈をしてきたのか B自衛隊の海外派遣について CPKO参加五原則 D自衛隊の後方支援についてE「テロ特措法」によって自衛隊が行ったこと Fイラク戦争について Gイラク派遣で自衛隊が行ったことは何か Hイラク派遣に関する名古屋高裁の判決について 等について学ぶことが大切でしょう。

3)歴史から日本政府の憲法解釈をまとめる
@自衛隊については、戦力ではなく自衛のための必要最小限度の実力であるので合憲である。A自衛隊の海外派兵はしない。武力行使を目的としない派遣は合憲である。B自衛権を保持しているが、憲法の下で「集団的自衛権」は認められない。

(2)閣議決定について検証する実践

1)閣議決定について
 安倍政権は、2014年7月1日に「集団的自衛権行使を容認する閣議決定」を行いました。このねらいは何なのか?これから日本はどうなるのか?憲法について考えるいい教材だと考えられます。閣議決定の内容は?何が変わったのか?どうして変えたのか?ということについて生徒とともに考えるような授業が求められています。
 「集団的自衛権とは何か」ということをおさえておく必要があるでしょう。自国(日本)が攻撃されていなくても、戦争に参加するということです。国家の都合で国民(自衛官)が人を殺せと命じられ、殺しあいをし、あるいは殺される国家へと変わることなのです。

2)閣議決定後の変化
 閣議決定後は、安倍政権と国民の間にズレやねじれが鮮明になってきています。@世論調査の結果からは、国民の大多数は「集団的自衛権行使」には反対であること。特に女性や若者が反対していることを事実としておさえたい。Aマスコミは「閣議決定」をどう報じたのか、についてですが、地方紙は一斉に反対の論調が目立ちました。B地方議会から反対の意見書があがっています。兵庫県では、「香美町の意見書」がすばらしい内容でした。C自衛隊からダイレクトメールが高校三年生の自宅に送られてきました。自衛隊員の家族や高校生にも不安が広がっています。D2014年防衛白書には、すでに集団的自衛権容認が明記されています。E教育現場にも攻撃がかけられています。北海道の高校では、集団的自衛権について弁護士と一緒に授業をしたことが問題にされたりしています。F私の教え子である大学生からもメールが届きました。私たちが戦争に行くのですか?憲法は守らないといけないけど何をしたらいいか分かりません、という内容でした。閣議決定後は確実に変化があらわれています。若者が以前よりも身近に自分の問題として考え始めているのではないでしょうか。

3)問題の整理
@憲法との整合性 A政府解釈で実質改憲できる危惧 B他国の戦争に巻き込まれる可能性、等について自分の考えをまとめて授業を終えたいです。

(3)日本の未来予想図は?〜「自民党憲法改正草案」からみえてくるものは? 

 集団的自衛権行使を容認すれば、どのような日本の社会が待っているのでしょうか?日本の未来予想図を想像する授業を考えてみました。予想する材料は、自民党の「日本国憲法改正草案」から考えます。

1)「改正草案」からみえてくるもの
 高校生に改正草案を読んでもらいますが、ポイントを絞って日本国憲法と比較するとよいのではないでしょうか。次の点を比較してまとめます。
@憲法前文 平和的生存権→完全削除
A天皇 「象徴」→元首
B憲法9条 戦争放棄→「安全保障」へ
C9条の2項 戦力の不保持→「国防軍」
D9条の2項 国の交戦権否認→自衛権保持
E基本的人権 永久の権利は削除
F公共の福祉 → 公益及び公の秩序
G個人の尊重 → 人として尊重

2)比較することで日本国憲法の特徴が明らかに
@立憲主義を厳守すること。憲法の主語が、国民になっており、憲法は「国家権力をしばるもの」ということを実感することです。A憲法13条の「個人の尊重」が憲法の理念であること。国民一人ひとりが、自分らしく生きていいですよ、と認めているのが憲法の個人の尊重です。B平和主義の特徴は、戦力の不保持と国の交戦権の否認です。つまり日本国憲法の三原則が、改憲草案では否定され、立憲主義も否定、さらに民主主義も制限される内容です。

3)「改憲草案」がめざす未来は?
 集団的自衛権行使が容認されるとどうなるのかを考えましょう。@海外の戦争には誰が行くのでしょうか?A戦争ができるようになるためには、国家予算は?戦争できるための条件をあげてみよう、というような問いから、めざす意図を想像することができるでしょう。

4)現在が大きな分かれ目に?
 日本国憲法をいかす未来か、自民党の改憲草案のような未来を描くのか、が今問われています。集団的自衛権行使を容認して「戦争する国」になるのか、「平和な国」でいくのか、を考えてもらい、高校生が考える未来予想図を描いてまとめとしたいと思います。
 このような実践を一人でも多くの先生方が高校生に対して行われることを期待しています。高校生の未来を明るいものにすることに、高校生とともに考えていきたいと思っています。

◆稲次寛(いなつぎゆたか)さんプロフィール

1959年生まれ 高校で地歴公民を教える教員
特に平和教育 憲法教育に力を注ぐ。 
歴史教育者協議会 兵庫全国委員 「憲法と現代の社会」分科会代表世話人
北はりま教育9条の会 事務局長
兵庫県高等学校教職員組合 書記長

<法学館憲法研究所事務局から>
高校生などに憲法を広げるために、当研究所の伊藤真所長が岩波ジュニア新書『10代の憲法な毎日』を出版しましたので、ご案内します。




 
[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]