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高校生たちと主権者意識について学ぶ

2015年1月12日



小池豊さん(埼玉県立高校教諭)


 憲法改正の国民投票が近い将来行われることも予想されるようになった今、将来を担う高校生に憲法の何をどのように伝えていけばよいのか、現場で憲法を教えていらっしゃる小池さんにお話を伺いました。

―――小池さんが憲法の授業を通じて、生徒たちに憲法のこれだけは習得して欲しいということは何でしょうか。
(小池さん)
 一番は、主権者意識を持ってほしいということです。国民主権という言葉を覚えるのではなく、社会は変えられるんだという実感をもって卒業して欲しいと思っています。
 何か納得のいかない制度に直面した場合、その制度が適用されないことを望むのか、その法を変えるしかないわけですが、生徒たちには、是非、法を変える選択をする人間になってほしいと思います。
 私は、毎年卒業生に葉書を渡して、20歳になったら選挙に行ったかどうかをマークして投函してもらうという追跡調査をしています。残念なことに、選挙に行ったという回答は10%いかないのが現状です。それも返信することを忘れずにいて、投函してくれた人のうちの10%です。
 これが現実なのですが、ただ、20歳の時に投票に行かなかったとしても、学校での授業などで学んだこと、体験したことが頭の片隅に残っていて、将来の選挙で投票に行ったり、人権を守る行動をおこしたり、ということにつながってくれたらと思っています。

―――憲法の重要な原理である国民主権を実感をもって習得してもらう、この主権者意識を育むためにはどのような方法が効果的だと思われますか。
(小池さん)
  学校の授業で原理を学ぶことも重要ですが、主権者意識を身につけてもらうためには、生徒会、部活動、文化祭や体育祭、ホームルームなどの特別活動が特に憲法につながっていて重要だと思っています。
 あるものを作り上げる、ある目的に向かって皆で色々なことを決めていく、その過程でコミュニケーションが生まれたり、理不尽なことに直面したりして、多くの学びがあります。そこでは憲法の権利を身近に感じてもらえることになります。
 以前私が勤めていた学校では、赤点を取った生徒は文化祭のライブに出られないという決まりがありました。これは職員会議で決まったことなのですが、納得のいかないといって、バンドをしている生徒たちが、ビラを作って配り、生徒900人の学校で600人の署名を集めたことがあります。反響は大きかったんですが、一度職員会議で決めたものを生徒の圧力に屈して変えることはできないという判断で、残念ながらその決まりは変わりませんでした。生徒達は悔し涙を流しました。ところが、翌年はそれまでの決まりが事実上なくなりました。したがってその生徒たちが行動を起こしたことで、後輩が悔しい思いをしなくて済んだのです。行動を起こした生徒たちは、自分たちの行動で社会を変えたのです。その経験は、その生徒たちの将来に何かしらの影響を与えたんじゃないかと思います。

―――社会を変えられたという成功体験は大きいですね。小池さんは修学旅行も大事にしているそうですね。
(小池さん)
 今、集団的自衛権の行使容認の閣議決定がなされ、特定秘密保護法も施行されましたが、非戦の足腰の弱さを感じています。私は、「人権と平和は両輪」だと考えているのですが、私たちはそのことをもっと深いところで理解をしなければいけないんだと思います。
  沖縄の修学旅行は、沖縄戦や今も続く基地による人権侵害の現状を知ることができ、命・人権の大切さ、平和の大切さを学ぶ絶好の場所だと思っています。生徒には好きなテーマで感想を書いてもらうのですが、多くの生徒が戦争や平和についての感想を書きます。やはりそれだけ印象に残っているのだと思います。

―――小池さんは演劇部の顧問をされていますが、これも憲法の理念を伝える方法のひとつなのでしょうか。
(小池さん)
  そうです。演劇も生徒に対する指導のひとつの重要な方法だと考えています。人間はコミュニケーションの生き物ですから、共同作業を通じて色々なことを学びます。私は演劇の脚本も書くのですが、最近は特に社会的な問題を題材に盛り込んでいます。

―――授業のことにもどりますが、憲法を教える上で工夫されていることや、必ず話すことなどありましたらご紹介いただけますでしょうか。
(小池さん)
 オリジナルの穴埋めのプリントを使用していますが、自分が親だったら子供にどこまでの髪型の自由を認めるかなど、生徒の関心のあることや身近な物事とリンクさせて話を進めるようにしています。
 憲法制定の経緯については、重きを置いて説明していますね。9条のおかげで日本が69年間、対外戦争をせずに済んだということも。また、原発や自衛隊がビジネスになっているからくりも話すようにしています。戦闘機の値段や、戦車の燃費が200m/lという話をすると、いい反応をしてくれます。
 人権を教えるときには、伊藤真先生の講演で聞いた10人の凶悪犯の話を必ずします。無実の1人の人権を守るためには、たとえ9人の凶悪犯を社会に出してしまうとしても全員釈放しなければならない。人権はそれほど重要なんだという話をしています。

―――今、色々な政党や団体が憲法改正案を出していますが、授業でそれらを取り上げることはあるのでしょうか。
(小池さん)
  授業では見解が偏らないように説明をしています。生徒たちがいろいろな憲法改正案を学ぶと自民党の案の内容を知って「えっ」という反応をする生徒がけっこういます。もちろん、ネトウヨに影響を受けている生徒もいますし、色々な質問がきますが、私が一方的に教えるのではなく、大切なことを自身で考えるきっかけになるような問いかけをしていくよう心がけています。

―――憲法をどう教えていくか、ということで最後に強調したいことを教えて下さい。
(小池さん)
 ひとつは、教員自身が感動するまで勉強して伝えることですね。まず、貴研究所の伊藤真先生の講演を聞きに行くことをお勧めします。教員自身が感動していないとダメだと思います。生徒はそれを見分ける力をもっています。それが、生身の教員が教える意義だと思います。
 もうひとつは、イマジネーションの射程を広げるような話を入れることです。例えば、冤罪で42時間も拘留されるようなことを自分のこととして想像してもらう。教員は生徒の想像力に働きかけることによって、より能動的な学びを提供することができると思います。色々な教材を活用しながらも生徒たちとの対話に大きな可能性があることを踏まえ、頑張っていきたいと思います。
 最後は、やはりコミュニケーション能力を鍛えることです。授業もコミュニケーション。もっと大きなことを言えば、人間の幸せはコミュニケーションといっても過言ではないと思います。憲法の考え方を伝えるにあたっても、この点は見落としてはならないと思っています。

―――本日は、貴重なお話をありがとうございました。

◆小池豊(こいけ ゆたか)さんのプロフィール

歴史教育者協議会の会員として、高校の現場で憲法を重視した授業実践を展開している。
演劇部顧問として関東大会・全国大会に出場しているが、自ら執筆している戯曲にも人権・平和への思いが反映されている。


<法学館憲法研究所事務局から>
当研究所は「中高生のための映像教室『憲法を観る』」の製作にたずさわり、その普及を進めていますが、このDVDの製作には小池さんにも協力、出演していただいています。


 
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